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(そういえば……相当いろんな店回ったけど、中身は何なんだろう……?)
そんなことを考えていたら、敏感に察したのか一哉が聞いてきた。
「見てみるか?」
「ん……見たい」
あたしの声で全員が食事を中断して席を立ち、その中心で一哉が荷物を解き始める。
最初に行った二ヶ所は、なんと新居用の物件資料とインテリアカタログだった。
宝石店で受け取ったのはパールのアクセサリー。
そしてデザインオフィスで受け取ったのは、純白のウェディングドレスで……。
「え……ド、ドレスって……」
まさかウエディングドレスまで出てくると思わなかったあたしは、目をまん丸に見開いてしまう。
サテン生地のドレスはごくシンプルなマーメイドラインで、だからぎりぎり衣装バッグに入っていたようだ。
でもあたし、ドレスのための採寸なんてした記憶もないんだけれど……。
そんなあたしの疑問を察して、一哉がすぐに説明してくれた。
「お前の体のサイズはだいたい頭に入ってるつもりなんだぜ。
でもまぁ、どのみちこれはベースになる部分だけだから」
「ベース?」
「ああ。
オーダーメイドで、これからパーツを頼んで完成するんだよ。
サイズも調整できる。
ふたりで、一緒に見に行こう」
そう言って、一哉は唇の端を上げてどこか誇らしげに笑った。
あたしは一哉が用意してくれたたくさんの贈り物に囲まれて、思わずツンと瞳の奥が痛くなるのを、必死で堪える。
「キレイ……。
こんなの、夢みたい」
結婚なんて、あたしには一生縁のないものだと思っていた。
こんな眩しいくらい真っ白なドレスを目の前にしてため息をついている自分が、なんだか嘘みたいだ。
「夢じゃねえよ。
お前が夢の世界のものだと思ってたもん全部。
これからオレ達ふたりで、手に入れていくんだ」
「そっか……そうだよね」
もうあたしは、昔のあたしじゃないんだから。
一哉と生きる新しい世界でなら、きっと手に入れられないものなんてない。
手の届かない夢なんてないんだ。
肩を抱いてくれる一哉の力強さに、あたしは改めて、願いも込めてそう思った。
「それに、すでに手に入ったものもある」
「ここにいるみんなだよ。
オレ達は、お前の、家族だ」
「あ……!」
また、涙がこぼれそうになる。
(みんなが……あたしの、家族……!)
そうだ。
あたしは一哉と家族になる。
一哉だけじゃなくて、一哉の家族とも。
そして家族同然の菅原さんとも。
幼い頃に家族を失って、それ以来ずっとひとりだった。
家族なんてもうどこにもいないと思っていた。
血を分けた母親に捨てられたあたしには、どれだけ願っても、それはもう手に入らないものなのだと。
その過去で負った傷を癒すために、必死に自分でそう言い聞かせていたのかもしれない。
だけど……それは間違っていた。
血のつながりが大切なんじゃない。
本当に大切なのは心と心を結ぶ、絆。
お互いを思い合う気持ちと、信じる気持ち。
それがあれば、あたしはこれからまた、大好きな人たちと新たな関係を築いていける。
大切な、あたしが家族でいたいと思う人達は、ほら、もうこんなに近くにいる。
あたしはもう、本当にひとりぼっちじゃないんだ……。
「な?
そうだろ?」
あたしを包む優しい声に、あたしは黙って深く頷く。
大切な一哉のいる世界。
大切な家族のいる世界。
今あたしを包む世界は、こんなにも温かくて……そして、愛しい。
「約束するよ、一哉。
あたしはずっと、一哉と一緒に生きていく」
ずっとずっと、いつまでも、ふたり一緒にいよう。
一哉と一緒なら、あたしはこれからもどんどん変わっていける気がする。
とんでもないイジワルな罠にハマったと思っていたけれど、でも、それは間違っていたね。
一哉があたしにかけたのは、とびきり甘い、最高の罠。
一哉だけがかけられる、最高の、魔法……。
そう。
愛という名前の。
『愛してる』
小声でそう囁いて、あたし達はみんなの目を盗んでコッソリと唇を重ね、微笑み合った。
終




