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「しかもそこそこ遠いし……」
地下鉄二線乗り継いでの大移動。
あたしは軽く憂鬱さを感じながら、秘書室を後にした。
「ああ、一哉クンの秘書さんね!
わざわざどうも!
はい、これ」
たどり着いたマルオカ不動産の丸岡さんは人のよさそうなおじさんで、あたしが名乗るとすぐにA4の封筒に入った分厚い資料を渡してくれた。
「どうもありがとうございます。
あの、御社には井上がいつもお世話に……」
挨拶兼ねてという話だったから丁寧に挨拶しようとしているのに、丸岡さんはそれを遮り、
「あ-、いいいい、そんな堅苦しいのは!
それよりね。
次に行ってほしい所、ここね」
「は?」
丸岡さんが続けて言った言葉とピッと差し出された紙に、あたしはア然とする。
「……あの……すみません。
今、なんておっしゃいました?」
「え、一哉クンから聞いてない?
今日、他にも使いに行ってほしい所があるんだってよ!」
「な!?」
(何それ!?
聞いてないわよっ。
なんであたしが知らなくてこの人が知ってんのよ!?)
そして朝と同じく手渡された、地図。
(インテリアショップ・ココ?
次は何?
新店舗用のインテリアカタログでももらえっての!?)
「あの……どうして丸岡さんが、この地図を……?」
「ん?
なんかよくわかんないけど、一哉クンからメール来てさ!
秘書さんが来たら、印刷して渡してくれって」
「そ、そうですか」
さっぱりわけがわからず、怒り心頭だけれど、丸岡さんに怒鳴るわけにもいかない。
一哉は商談中だろうから、さすがに電話はできないし……。
あたしは仕方なくマルオカ不動産を出て、指示されたインテリアショップへ向かう。
電車で十分ほど移動して到着すると、渡されたのは案の定、カタログらしき物が入っている紙袋。
「お疲れ様です。
ちょっと重いですけど、頑張って持ってくださいね。
それと……」
その接続詞を聞いた途端、嫌な予感はしていた。
ギクッとして顔を上げたあたしに差し出されたのは、やっぱり……。
「井上様からの伝言で、次はこちらへ向かっていただきたいそうです」
店員さんの爽やかな笑顔が無性に腹立たしい。
(なんだってのよ、一体!?)
あたしは無言で紙を受け取って店を出た。
次の行き先は、また数駅先にある服飾関係のデザイナーの事務所らしきオフィス。
そこでは受付で、ドレスでも入っているかのような大きな衣装バッグを渡された。
そしてここまで来ると予想どおりの展開で渡された紙。
あたしはまた次の場所に向かう。
そこは老舗っぽい宝石店で、貴金属らしい箱を受け取った。
最初は新店舗に関わる物なのかと思っていたけれど、最後の方はもう用途もイマイチよくわからない。
気づけば時間はすっかり夕方で、日が長くなったからまだ明るいものの、あと数分で勤務時間も終了だ。
「いい加減にしてよっ。
一体いつ終わんのよ、このお使いは……!?」
叫びながら、次に指示された店。
小さなレストランのドアを開けたら。
目の前に立っていたのは、制服のウェイトレスでも、コック服のシェフでもなかった。
そこに、いたのは……。




