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あたしはその後、一哉に今までのことを全部話した。
あたしがずっと一哉の過去を知りたくて悩んでいたこと。
イベントの日、彰子さんと会っているのを目撃していたこと。
そして、ついさっき彰子さんに会って、一哉との過去を教えてもらったこと。
「彰子に、会ったのか……!?」
それを聞くと、さすがに一哉は目を真ん丸にして固まってしまった。
「ゴメン。
たまたまテレビで赤坂のキャンペーンイベントに出ているのを見て、いてもたってもいられなくて」
「だからってな……。
そんなに、悩んでたのかよ」
「うん……」
気まずくて目を伏せると、しばらくの沈黙の後、まぶたに一哉のキスが降ってくる。
『こっち向け』という合図だ。
そっと顔を上げると、一哉はあたしの髪を優しく撫でて、
「そんな顔すんな。
別に怒ってるんじゃない。
オレの方こそ……悪かったな。
お前がそこまで悩んでるなんて、気づいてなかった……」
「一哉……」
「隠し通そうとしてたわけじゃない。
ただ、オレの中で整理がつくまでは、半端な状態で話もできなかった。
それだけなんだ。
だけどすまなかった。
お前を不安にさせて!」
そうして一哉は静かに話し出してくれた。
彰子さんから聞いた部分も全部、もう一度一哉の口から。
そして、
「彰子と別れて少ししてからも、オレはどうしようもなく空虚だった。
ヤケにはなり切れなくて留学は続けていたけど、正直何が目標で何が生きがいだったのかも、わからなくなってて……」
惰性で送る毎日。
そんななかお母さんから副社長が病気で退陣。
新副社長に就任しないかと相談を受けて、一哉は迷ったらしい。
だけど結局周りの説得に押し切られて帰国した。
「引き受けてからも、こんなオレでいいのかとずっと思ってた。
昔の女引きずって、ムリヤリ渡された金を突き返す勇気もなくて。
情けなさすぎだろ?」
自虐ぎみに話す一哉。
だけどあたしは、静かに首を横に振った。
「情けなくなんかない。
お金を返せなかったのは、それが彰子さんの意志、彼女の選んだ道だって気づいたからでしょ?
だからこれ以上彼女を困らせないために、自分は黙って身を引いた……」
一緒の道を歩むことはできなくて、別れることになった。
だけどふたりとも最後まで、相手への優しさは忘れなかったんだ。
「情けなくなんかない。
一哉は優しいだけだよ、すごく」
もう一度、まっすぐ一哉を見つめて答える。
一哉は驚いたように目を見張り、そして次の瞬間、壊れそうなほど強くあたしを抱いて、口づけた。
「んっ……一哉……っ」
「……ここから先は、もう話すまでもないだろ。
そんななか阿部さんに呼び出されて行った店で、オレはお前に出会った。
お前にあの金を使うのならいいかもしれないと思った、それが最初だったけど。
今じゃあの出会いを、何百回神様に感謝しても足りない」
「あっ……ん……!」
あたしはもう言葉を紡ぐことができない。
一哉のキスは首筋からその先を伝い、収まっていた体の奥の熱い火を、再び燃え上がらせる。
同時に肌を伝う指先が、もうどうしようもなく、あたしの体を甘く溶かしていって……。
「愛してる、香。
心も体も、全部オレだけのものだ」
とろけるような痺れと共に耳に響く、低い囁き。
あたしが意識を保っていたのはそこまで。
その後はもう、世界は真っ白になって……まるで雲の上をフワフワ漂っているみたいな錯覚に陥りながら、あたしはこれ以上ないくらいの安堵と幸せを感じていた……。




