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一哉の長い指が、何度も何度も、いとおしげにあたしの髪を撫でる。
背中まで垂れた髪を上から下にたどったその手は、そのまま背中を伝い、そして両のわき腹をかすめるようになぞってから、震える胸の頂に触れる。
「あっ……んっ」
狂おしい感覚に甘い声を漏らして、あたしは一哉の瞳をまっすぐに見つめた。
枕に後頭部をつけて仰向き、たくましい二本の腕であたしを支える彼の、漆黒の瞳を。
「なんて瞳で見んだよ」
互いを満たす快楽に少しかすれた声になりながら、一哉が言う。
「なんて、って……?」
「その目だよ。
オレの全部が持っていかれそうになる。
抑えきかなくなるだろ」
「そんなこと言われても……わからな……ぁんっ」
グッと突き上げられて走る痺れに、後半は声にならなかった。
一哉はあたしの背中を引き寄せて、その唇に強引に口づける。
一哉に覆い被さるようになった体勢は、また新たな快感をつれてきて、あたしは彼の腕の中で大きくもだえた。
「一哉、やだ……」
「見なけりゃいいかと思って。
そんな顔するお前が悪い」
「も……何、言ってるのよ……!」
キスと一緒に呼吸を奪われ、汗に濡れた肌をピッタリと合わせ。
つながり合った部分から全身を満たす熱に、あたしは今にも溶けてしまいそう。
「オレをこんなふうに狂わせるのは、お前だけだよ、香」
快感の波に飲まれそうになっている耳に、囁くようにかすかな声が届く。
「もっと、いつまででも、どれだけでも、お前が欲しい。
このまま朝が来なけりゃいいのにな」
「一哉……」
あたしも同じだよ、一哉。
いつまででもこうして、あなたとつながって甘い夜に溺れていたい。
だってあたしはもう、涙が出そうなほどにあなたが愛しくて。
溢れるこの想いをどうすればいいのか、わからないほどなんだから。
「一哉……一哉……っ」
「香、そうだ……もっと、オレだけに感じろ」
「はっ……あ、あぁっ……」
ふたりだけの空間で、あたし達は言葉も忘れたように何度もお互いを求め合った。
どれだけ求めても足りない。
体の奥から溢れる愛しさは、途絶えることのない泉のように、いつまでも静かにあたしの体を満たしている。
この体は、一哉への愛でできている。
そう言ってもいいほどだと思った。
「愛してる。
一哉」
もう何度目になるかもわからない、このフレーズ。
今までにも何回も口にしてきた言葉だけれど、今、あたしはようやくその言葉の本当の意味を理解し、囁いている。
恋も愛も知らないあたしは、未熟で愚かだった。
だけどあたしの周りのいろんな優しさが、あたしにそれを気づかせてくれたから。
見守ってくれた菅原さんや社長に、『ありがとう』を。
きっかけをくれた彰子さんにも、『ありがとう』を。
そして他でもない、こんなあたしを愛を支えたいと言ってくれる一哉に、とびきりの『ありがとう』と『愛してる』を。
それら全部の想いを込めて、あたしは一哉に囁くんだ。
何度でも、何度でも。
「オレも愛してる、香」
応えてくれるその声が、あたしの心を震わせる。
「お前とじゃなきゃ、もうオレの世界は成り立たない。
オレは過去にも、本気の恋愛をしてきたと思っていた。
だけどお前と出会って気づいたよ。
今までの恋は、本気の本気じゃなかった。
真剣だったけど……本気で欲しいっていうのとは違ったんだって」
「一哉……」
「オレが本気で、死んでも離したくないと思った女は、お前が初めてだ。
わかってるよな?
オレは本気で、お前が必要なんだよ」
本気だからこそ、不安にもなるし怖くもなる。
愛の形は人それぞれで……同じ人間じゃないあたし達は、時に見えないその形に、瞳を曇らせてしまうこともあるから。
「だからもう離れんな。
迷っても何があっても、オレから逃げんじやねえぞ」
「うん。
わかってるよ」
逃げない。
彰子さんとも約束した。
一哉にも、何度でも誓うよ。
あたしはもう逃げない。
不安から逃げてちゃ、本当の愛なんて手に入らない。




