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あたしって、いつからこんなに涙もろくなったんだろう。
ふと、そんなことを考える。
一哉とつき合うようになってから、あたしはしょっちゅう、泣きそうになっている気がする。
前は、泣くことなんて皆無と言っていいくらいだったのに。
(なんかこれじゃあたし、弱くなってるみたいじゃん……)
泣かないことが強いことだなんて思っていない。
それでも些細な衝動で泣きそうにばかりなっている自分は、何だか自分じゃないみたいで戸惑ってしまう。
欲張りになっているのかもな。
欲なんてものは忘れていたあたしが、一哉と出会って、またそれを思い出した。
一度思い出してしまえば、渇いたあたしの体には足りないものばっかりで……。
どれだけ求めても足りなくて、あたしは贅沢になってしまっているのかもしれない。
一哉は優しい。
あたしのことを大好きだと言ってくれている。
パーティーを抜け出してちょっと人と会っていたくらい、何だっていうの?
たまたま個人的な知り合いに会って、立ち話して。
別に言うほどのことでもないから言わなかった。
それだけのことかもしれないじゃない。
あたしはきっと、どうかしてる。
今まで人を好きになったことがないから比べようがないけれど、他人が見たらきっとそう思うだろう。
冷静ぶってそんなことを考えるけれど、でもその一方で、心には大きな風穴が開いたみたいだった。
ポッカリ開いたその穴は、いったい何が手に入れば埋められるのか。
わからない……自分にも。
(はあ……。
もう考えるのはやめよう)
あたしはプルプルと頭を振って、渦巻く考えを追い払おうとした。
今日は日曜日。
昨日から家でひとり悶々としながら過ごしているけれど、いつまでもこんなことしていたら、どんどん暗くなってしまうだけだ。
「出かけよっかな……」
別に行きたい所なんてないけれど、家にこもっているよりはマシかもしれない。
あたしはダラダラと身支度をして部屋を出た。
とりあえず最寄駅から電車に乗って、適当に暇を潰せそうな駅で降りる。
駅を出て、直結している地下街をブラブラした。
ファッションショップ、本屋、レコードショップ……。
特に何を見るでもなくハシゴして、次に並ぶ家電ショップに近づいた時……。
「え!?」
あたしは心臓が止まりそうなくらい驚いて、その場に凍りついた。
家電ショップの店先には、ディスプレイでテレビがいくつも置かれ、同じ映像を流している。
その映像の中に、見覚えのある顔があった。
インタビューでもされているんだろうか。
向けられたマイクに向かって笑顔で話している、その顔は……。
(あの人……このあいだ一哉と一緒にいた!?)
そう。
見間違いなんかじゃない。
一瞬だったけれど、脳裏に焼きついて離れない顔だから。
間違いなく、あの時ロビーで一哉と一緒にいた、あの女の人だ!
(な、なんでテレビになんて映ってるの……!?)
あたしは駆け寄って、かぶりつくように画面を見つめる。
どのテレビも音は消してあって、話している内容はわからないから、画面に出てくるテロップを真剣に読んだ。
名前は、久保彰子といって、何かのイベントでインタビューされているんだってことはわかった。
(久保……?
なんかどこかで聞いたような……)
必死に考えを巡らすあたしの目に、次に飛び込んできた画像は……。
〈赤坂さくらテレビ前赤坂さくら広場よりLIVE〉
「え……LIVEって、これ、生中継……!?」
彼女が今、赤坂にいる。
そういうこと!?
「……っ!!」
一瞬のうちにいろんなことを考えた。
迷った。
だけど次の瞬間、あたしは走り出していた。
駅に戻る道を。




