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あやまちから始まる恋の罠  作者: アルケミスト


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 そしてそんなパーティーもお開きの時間が迫り、そろそろ帰り支度を始めようとしていた頃……。


「橋本さん、今日はありがとうね」


 社長がさりげなくあたしの傍に寄ってきて、そんなことを言う。


 あたしはプルプルと首を振って、


「お礼を言うのはこちらです。

 呼んでいただいて、ありがとうございました」


 すると社長は、どこか一哉に似た穏やかな笑みを浮かべて


「いいのよ。

 あなたには一度お礼もしたかったの。

 一哉がいつもお世話になっているんですもの」


「お世話だなんて……。

 副社長のサポートをするのは、あたしの務めですから」


 あたしは秘書。


 だからそれは当然で、別にお礼を言ってもらうようなことじゃない。


 だけど社長は『いいえ』と即答して、


「役目だからと言ってしまえばそれまでだけど……。

 あなたにお礼を言いたいのは、単に秘書の仕事を全うしてくれている、ということに対してではないのよ」


「え?」


 思わず聞き返したあたしに、社長は続けて、


「我々の仕事って、秘書と心が通じていなくちゃ、穏やかに進めていくことはできないの。

 一哉が気持ちよく仕事ができているのも、あなたが正確に任務を遂行してくれているだけじゃなくて、彼の精神面のサポートもしてくれているおかげなのよ」


『あなたにそんなつもりはなくてもね』と、社長は最後につけ加える。


 あたしはとっさになんて言っていいかわからなかった。


 社長はあたしと一哉の関係は知らないはず。


 それなのに精神面のサポートだなんて言われると、あたしはどんな立場で受け答えしていいのか、よくわからなくなる。


 困惑して黙り込んでいると、社長はフフッと優しく微笑んで、


「難しく考えないで。

 つまり一緒に仕事をしていく仲間は、家族も同然ってことよ」


「家族……!?」


 思わず、ピクリと肩が震えた。


 変に思われるかもと心配したけれど、社長は気づかなかったみたいで、


「ええ。

 だからあなたは、大切な家族も同然。

 これからも、仕事でもそれ以外の面でも、どうか一哉を支えてやってね。

 あの子、本当にあなたと仕事できるのが楽しいみたい」


「は、はい……」


 ドギマギして、俯きがちに小さな返事をすることしかできなかった。


 社長の言葉は端々であたしをドキッとさせるけれど、その中でも家族というひと言はあたしの胸を弾ませて、落ち着かなくさせる。


(家族、なんて……)


 そう……ドキドキするのはきっと、それがあたしに縁のない言葉だからだ。





 あたしには家族と呼べる相手なんて、昔からいなかったから。


 だからそれがどんな感覚を呼ぶのかもわからないし、家族同然だなんて言われると、無性にくすぐったくてどうしていいかわからなくなる。


 そんなあたしに最後にもう一度『本当に今日はありがとう』と言って、社長はおじさまの傍へと戻っていった。


 どこかぎこちない動作でジャケットを羽織っていると、入れ違いに一哉がやってくる。


「車出す準備してきた。

 送るよ。

 お前はもう出られるのか?」


「あ、う、うん」


「……?

 なんだよ。

 なんか様子おかしいけど?」


「何でもないよ。

 ホントに……」


 怪訝な顔をする一哉にかすれた声でそう答え、あたしは一哉と一緒に森田家を後にした。


 トクントクンと収まらない速い鼓動を、全身で感じながら。

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