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「えっ?
ホームパーティ?」
突然の一哉の話に、あたしは素っ頓狂な声を上げて彼の顔をマジマジと見た。
一哉は『ああ』と軽く頷いて、
「今度の土曜にオフクロの家でやろうってことになったんだ。
お前はオレの秘書なんだからな。
参加する権利は充分あるだろ」
「で、でも、そんなの……」
一哉は平然と言っているけれど、あたしは簡単には首を縦に振ることができない。
仕事を終えて車で郊外に移動している最中。
何の前置きもなく、いきなり一哉が『今度家族でホームパーティーをするからお前も来い』と誘ってきた。
ギョッとするあたしに説明してくれた内容によれば、それは一哉の弟の勇クンの受験合格祝いのパーティー。
で、家族の集まりなんだけれど社長秘書の菅原さんも来るから、あたしも来ないかということらしい。
恋人としてじゃなく、秘書としてだけれど、あたしにも勇クンを祝ってほしい。
そう、一哉は思ってくれているみたい。
それは素直に嬉しい。
それに少しだけとはいえ勇クンと面識もあるから、「合格」と聞けば、よかったなと思うし。
だけど……。
「ホントにいいの?
あたしなんかが行って」
同じ秘書とは言っても、菅原さんはもうずっと前から社長のサポートをしている人だ。
だから菅原さんは家族同然と言っても過言じゃないけれど、あたしはまだまだ新米気分。
だけど一哉はあたしの懸念を吹き飛ばすようにハハッと笑って、
「いいに決まってんだろ。
つーかオフクロも、お前を連れてこいって言ってんだよ」
「えっ、社長が?」
ビックリだ。
社長がそんなことを言ってくれるなんて。
(でも、少し前にふたりで話もしたし、気を遣ってくれてるのかな……)
「な、そんなわけだから来い。
わかったな?」
「う、うん」
結局少し押し切られた形ではあったけれど、あたしは頷いた。
(社長の家……それに、一哉の家族か……)
考えると少し緊張するな。
あたし達の関係はまだ秘密とはいえ、恋人の両親なんだもんね……。
その日からあたしは少しソワソワしながら週末を待った。
そして、土曜日……。
一哉が自分の車で迎えに来てくれて、あたし達はドライブしながら目的地に向かう。
「一哉……この服、おかしくないかな?」
今日のあたしの服装は、胸元にレースの刺繍をあしらったアイボリーのカットソーに薄いピンクのノーカラーのジャケット、それにえんじ色のツイードスカート。
昨日の晩、さんざん悩んで決めた組み合わせだ。
「ん?
全然おかしくないだろ。
よく似合ってる」
「そう?
それならいいんだけど」
秘書という普段の立場と気軽なホームパーティーというギャップに、着ていく服ひとつとっても散々迷ってたり。
「なんか可愛いな。
お前でもそんなことで悩むのか」
ハンドルを操りながら笑う一哉に、あたしは頰が少し熱くなるのを感じながら、
「悪かったわね。
ホームパーティーなんて縁がないんだから仕方ないでしょっ」
と、ふてくされた声で言うと、今度は一哉が柔らかく微笑んだ。
「んな、かしこまらなくていいって。
まあ、お前の立場はオレの秘書だけどさ。
今日は本当にお前個人として、仕事上の立場なんて気にせずに過ごせばいい。
菅原さんも、プライベー卜じゃざっくばらんとしてるから」
『ホームパーティーなんだからな』
そうつけ足して、一哉は軽く片目をつむる。
いつにない優しい声に、あたしは緊張が収まっていくのを感じていた。
やがて車は都内の高級住宅地と呼ばれるエリアに入り、一軒の大きな家の前で停まる。
すでに外車が二台停めてあるガレージに車を入れた後、あたしと一哉はそのガレージに降り立った。
(わ……すっごい大きな家)
社長とはいえ、イメージしていた家よりも相当大きくて、あたしは呆然となる。
でも、すぐに思い出した。
そういえば、森田社長のご主人も会社経営をしていると、前に一哉が言っていた。
つまり、社長同士結婚した夫婦。
それならたしかにこの豪邸もありえるかも。
(立派だなぁ……)
玄関に移動する途中、はしたないと思い控えめにはしつつも、つい立派な邸宅を顔を上げて眺めてしまった。
白塗りの壁に赤茶色の屋根の、一般家庭の三、四倍はあろうかという、洋風の三階建て一軒家。
いったい何部屋あるんだろう。
こんな豪邸には今まで縁がなかったから、一度は薄れた緊張が少なからずよみがえってしまう。
「オイ、どうした?」
玄関に着くと、一哉は遅れをとっていたあたしにひと声かけ、すぐにインターホンを押した。
一哉はすでにこの家の住人ではないから、という配慮だろう。
応答はすぐにあり、広い両開きのドアの右側が開いて、白いロングスカートにからし色のカーディガン姿の社長が顔を出す。
「いらっしゃい!
待ってたわよ」
にこやかに笑顔を見せる社長。
あたしは一哉の背後でペコリと頭を下げた。
「お疲れ様です。
本日は、お招きありがとうございます」
「あらやだ橋本さん、今日は『お疲れ様です』はなしよ。
こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。
さあどうぞ、あがって」
コロコロと笑いながら促してくれる社長に続いて、一哉とあたしも中に入った。
予想どおり玄関も広く、高価そうな花瓶や絵画が飾られている。
内装の豪華さに驚きながら案内されるまま奥へと進み、大きく開けた部屋に入ると……。
「おお来たか。
それじゃあ、これで全員揃ったな」
「やったぁ、早く始めよう!
もうおなかペコペコだよー」




