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だけど一哉は鋭い。
それがただのごまかしだなんてことは、簡単に見抜いてしまう。
「ウソつけ。
マジでオレの言った意味、勘違いしてんじゃねえだろうな?」
「してないよ」
一哉がそう言うならそうなんだろうって、信じたいと思うから。
疑ったりなんてしてない。
だけどどうしても、気になってしまう。
あたしと出会う前の……あたしの知らない一哉のことが。
だって一哉は、何も話してくれないから……。
「ねえ。
この部屋もすごくキレイだけど、やっぱり高いんじゃないの?
いつもいつもこんないい部屋とってくれなくてもいいよ」
子供みたいな手法だと内心自嘲しながらも、あたしはダメもとで一哉に言ってみた。
すると一哉は曖昧に笑って、
「金のことなんかお前が気にしなくていいんだよ。
オレが来たいから来てるんだ。
それでいいだろ」
ホラ、やっぱり。
きっと一哉もあたしの本心には気づいている。
だけどそれでも……やっぱり一哉は、何も話してくれない。
教えてくれない。
一哉はあたしに、自分のことを隠そうとしている。
そのことに、もうあたしはとっくに気づいていた。
一哉が隠そうとしているのは、きっとあたしに出会う直前にあったことだ。
そしてそれこそが、他でもないゲームに見立ててあたしと関わろうとした理由なんじゃないかと思う。
つまり、一哉の世界が面白くなくなってしまった理由。
一哉は言ってたもの。
あたしと一緒にいることで、自分自身の世界も面白くなってくれることを望んでいるんだって。
それは言い換えれば何かが一哉の世界をつまらなくしてしまったと、そういうことだ。
そして同じく以前耳にした気になるセリフ。
一哉は不自然なくらい羽振りがよくて、明らかにおかしい。
前にそのことを、一哉は『ムダ金だから早く使ってしまいたい』だなんて言っていた。
一哉がそんなことを言うのもおかしいから、何か事情があるんだと思う。
でもさっきみたいにその理由を探ろうとしても、一哉は絶対に話そうとはしてくれなくて……。
(やっぱりそれは、あたしには言えないんだね……)
諦めに似た重い感情が、あたしの心に雨雲のように広がった。
どうしてかはわからない。
でもそれは、あたしには触れてはいけない禁忌。
一哉があたしを踏み込ませてはくれない、秘密の領域。
あたしは全部をさらけ出した。
過去も、自分の弱い心も。
でも、一哉は決してそうじゃない。
あたし達は、同じじゃない。
すべてをさらけ出して相手を求めているのはあたしだけで、一哉は逆に、まだベールで包み隠している部分がある。
一哉はあたしが求めるのと同じくらい、あたしを必要としてくれてるんだろうか……?
涙が出そうになってきた。
一哉と出会ってから、あたしは涙腺までゆるくなってしまったみたいだ。
「オイ、どうしたんだよ、マジで……?」
あたしに覆いかぶさるようにして、一哉が顔を覗き込んでくる。
でもあたしは、ぎこちない表情を見られたくなくて顔をそむけた。
「ゴメン……なんかちょっと感傷にひたっちゃっただけ。
ホントに何でもないから」
「感傷ってな……」
戸惑いがちな一哉の声。
だけど一哉はそこで言葉を切り、黙り込んでしまう。
……何も言えないから。
話せないから。
だからやっぱり、口をつぐんでしまうんだね……。
隣にいるのに。
何度も愛し合っているのに。
ずっと、どこまでも一哉といたいのに……この先が見えなくてこんなにも怖いのはどうしてなんだろう。
……シーツに顔を押し当てて、あたしは必死で溢れそうになる涙をこらえていた……。




