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(は!?)
あたしの返事なんて待ってもいない。
あたしは歩き出すのも忘れて、携帯を耳に当てたままその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
(な、んなの、アイツ!?)
こっちが『ごめんなさい』って言いかけてるのを完全にムシして。
しかも、『オレだけの相手をできるようにしておけ』!?
何よその完璧な上から目線は!!
「冗談じゃない……!」
ようやく少し頭の回り出したあたしは、即リダイヤルボタンを押す。
もちろんさっきスルーされた『NO』を言うためだ。
だけど……。
「圏外、って……ちょ……どこまでふざけてるの……!」
お決まりのアナウンスが聞こえてきた携帯を、あたしはプルプル震える指で、そっと閉じた。
信じられない。
今のはホントに一哉?
ホントに、珠奈がこんな目にあってるの?
「意味わかんないって……!」
一哉があたし使命でまた来ることも、一方的に電話を切られたこの状況も。
全部が全部、ワケがわからない。
「珠奈がお客に呼び出されて出勤するなんて、ありえないし……!」
そう、珠奈は、そんな安っぽい女じゃいけない。
会いたいと口にする男達を、余裕の笑みでスルリとかわす。
そういう女なのに。
「行かないわよ、あたし」
ペナルティーなんて、別に怖くもなんともない。
これはプライドの問題。
「絶対、行かないんだから!」
携帯をギュッと握りしめて、あたしは自分に言い聞かせるみたいにそう呟いた。
それなのに。
ふんわり巻いてウェーブを出した髪。
メガネを外してきっちり施したメイクに、新作のドレス。
(何してンの、あたし……)
PM九時。
あたしは、珠奈になってその場にいる自分が、自分で信じられなかった。
(律儀に来る必要なんてないのに。
しかもアイツは、あたしに大金注ぎ込んでくれるような常連ってわけでもないじゃない)
本当に、ちゃんと断れなかったからって、あたしがアイツに合わせる道理なんて、これっぽっちもないのに……!
「おはよう珠奈。
指名は十時って言ってたっけ?」
身じたくを済ませて控え室で待機していると、ママが声をかけてくる。
あたしはふてくされた声で、
「ハイ。
今日はその席一本でお願いします。
なんか、向こうの希望なんで」
「あら、そうなの?
んー、でも他の上得意様も、珠奈見かけたら声をかけるんじゃないかしらぁ」
ママの言ってるのはつまり、
先約がそう言っていても、他にもっといい金ヅルがいたらそっちに移れ、という意味で、この世界じゃ当たり前のことだ。
あたしもそれは充分承知してるから、
「大丈夫です。
どのテーブルよりも高いお酒、入れさせますから」
こうなったら仕返ししてやる。
あたしを呼びつけてさらに独占までしようとするだなんて、どれだけ身の程知らずか痛感させて、きっちり後悔させてやる。
そんなことを考えながら、あたしは控え室で時間をつぶした。




