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ホテルの部屋。
純白のシーツが敷かれた上にドレス姿のあたしを優しく押し倒した一哉は、かすかに微笑んで、『なんか、眩しいな』と呟いた。
シーツと、コバルトブルーのドレスの対比のことを言ってるんだろうか?
尋ねようとしたけれど、それは叶わない。
熱いキスが唇をふさぎ、二本の腕があたしを求めて、追い立てるように肌の上を滑る。
「あっ……」
ドレスの中にスルリと滑り込んで、あたしの敏感な所に触れる長い指。
片手で胸のふくらみに優しく触れ、もう片方は太股の隙間から熱く疼くあたしの中心に触れる。
「あんっ……一哉……!」
声をあげたくても、口腔を刺激する濃密なキスで呼吸すらうまくできなくて。
だけど今日の一哉は、ちょっと強引なほど、今までよりも性急な速さであたしを追い立てる。
熱く濡れた中をしなやかな指で搔き乱されて、あっという間にあたしの体は火照り始めた。
「んっ……一哉……一哉……!」
壊れたおもちゃのように、ただ愛しい人の名前を呼ぶ。
どんな言葉よりも、ただ、あたしを愛してくれるその人の名前を自分の中に刻みつけたい。
もっともっと、あたしを一哉でいっぱいにして。
そう、もう二度と、あたしがこのぬくもりを忘れないように。
「愛してる、香」
そう言いながら、一哉が想いのすべてをあたしの中に埋めた。
あたしは、体がバラバラになりそうなほどの快感にのけぞりながら、離れないように必死で彼の背中にしがみつく。
腰を進められて狂おしい嬌声をあげながら、まっすぐに一哉の瞳を見つめた。
「あたしも、愛してる」
かすれた声で囁いた。
初めて伝えた、あたしの本当の心。
一哉はそれを、甘い、とろけるように優しいキスで受け止めてくれた。
昇りつめる感覚に弾けてしまいそうな意識の中で、あたしは初めて一哉と身も心もひとつになれたんだと、たしかに感じていた……。
一晩中愛し合った翌朝は、カーテンの隙間から差し込む眩しい光で始まる。
目を開けると、今朝は一哉は隣にいた。
妙に新鮮だと思ったら、こうしてふたりで朝を迎えるのはこれが初めてだということに、ハタと気づく。
(そっか……今まではどっちかが先に出ていっちゃってたから……)
「おはよう、香」
シーツから裸の上半身を覗かせて微笑む姿が眩しくて、あたしは思わず目をそらしつつ、
「……お、おはよう」
「あ?
何モジモジしてんだ?」
「モジモジなんてしてないわよっ」
「何怒ってんだよ。
ったく、可愛いこと言えねえんだったら、また襲うぞ」
「……!」
あたしが思わず硬直すると、一哉はクックと肩を震わせて笑って、
「冗談だよ。
そろそろ出かける準備しねえとな。
今日も朝から戦略会議だ」
「あ……」
そうだ。
今日はまだ平日。
「そうだよね、ゴメン。
時間、ヤバかったらサッサと行って。
あたしのことは気にしないでいいから……」
そう言うと、一哉はさも意外なことを聞いたという感じで顔をしかめる。
「何言ってんだ?
お前も行くんだろ?」
「えっ!?」
大声をあげるあたしに、一哉がベッドサイドの椅子にかけたスーツから取り出し、あたしに投げてよこしたのは。
「これ……あたしの辞表!?」
見覚えのあるそれは、たしかにあたしが書いたもの。
もしかして、ずっとポケットに入れていたの……?
「返しとく。
いろいろあったが、今日からまた現場復帰だ。
文句は、ないよな?」
「あ……」
文句なんてない。
でも、ホントにいいの?
ホントに、あたしがまた秘書に戻って。
「いいの?
あたしで」
張り詰めた声で尋ねると、一哉はまるで面白い冗談でも聞いたみたいに、ハハッと笑い出す。
「今さら何言ってんだよ。
お前以外に誰がいる。
……ああそうだ、これも渡しとく」
今度はサイドボードから取って渡されたそれは、一哉のスケジュール帳だった。
「また、お前が書いてくれ。
持ってんだろ、ペンは」
「……!」
一哉にはお見通しなんだね。
そうだよ、たしかに持ってる。
この手帳から抜き取った日から一日も手放すことができなくて、毎日持ち歩いていたよ。
あたしもサイドボードに置いたバッグに手を伸ばした。
すぐに自分のスケジュール帳にさしたあの万年筆を見つけ、そっと取り出す。
銀色のボディが朝日を反射してキラリと光った。
あたしはかすかに笑みを浮かべてそれを見つめ……そして、ゆっくりと一哉の手帳のペンホルダーに収めた。
「ようやくあるべき所に帰ってきたな」
嬉しそうに笑う一哉の笑顔が眩しくて、あたしは目を細めた。
「ペンも、お前も。
やっと、帰ってきた」
そう言ってあたしを抱き寄せる一哉。
あたし達はどちらからともなく自然と唇を重ね、しばらくの間、お互いの体温を感じ合っていた……。




