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あやまちから始まる恋の罠  作者: アルケミスト


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(どういうことだ?

 迷惑じゃないなら……嫌じゃないなら、どうして……)


 オレが感じる疑問は菅原さんにもハッキリと読み取れていただろう。


 でも彼は、それ以上ヒントになる言葉は何もくれなかった。


 もしかしたらそれは菅原さん自身にもわからないからなのかもしれないが、彼はマジメな顔をしてスルリと話を変えてしまう。


「一哉クンはどうして、彼女を秘書にしようと思ったんだ?

 ああ、こういう聞き方はよくないな。

 またうわべの返事が返ってきそうだ。

 訂正。

 どうして、彼女を自分の傍に置こうと思ったんだ?」


(ったく……イチイチそんな釘さしと訂正しなくたっていいっての)


 とことん抜け目のない口ぶりに軽く閉口しながらも、ここまで来たらと腹をくくった。


 そうして今の菅原さんの問いをもう一度胸の内で反すうして、その答えとなるものを考えてみる。


 たいして迷うこともなく、それは見つかった。


「アイツなら、役職なんて気にせず対等にオレを見て、接して、支えてくれるんじゃないかって思った。

 オレとアイツは、似てるところがあるから。

 オレにはアイツのことがわかるし、アイツもオレのことをわかってくれるだろうって。

 そんで一緒に、楽しくやっていけるんじゃないかって思ってさ」


 互いの世界を違う彩りに染められる。


 そんなパートナーになれるんじゃないかと思った。


「なるほどな……」


 オレの返答を聞いた菅原さんは、何度か小さく頷いて眩く。


 そしてパッと顔を上げるとまっすぐにオレの目を見て、


「それは、キミの心が彼女を求めてる。

 そういうことだろ?

 つまりキミは、彼女に惹かれてる」


「菅原さん」


 わかってる。


 惹かれているなんてことは、最初からわかりきっていた。


 そうでなければ、キスも肌を合わせたりもしない。


 だけど……だけど、それは……。


「だけどそれは恋とは違う。

 そう思っているのか?」


 まるで心を読んだかのような言葉に、オレは今度こそ驚きに目を見張る。


 菅原さんは『そんな顔するなよ』と笑って、


「キミの考えてることなんてだいたいわかる。

 もう何年も見てきてるんだから」


 そうだ。


 彼はよく知っている。


 オレの見る世界が灰色にくすんでしまった理由も、全部。


「キミがそう考える……そう思い込もうとしてる理由は、なんとなくわかるよ」


 またもやわざわざ言葉を選び直して、菅原さんはそう告げた。


「だけどな一哉クン。

 心の隙間を埋めるのは、決して見せかけだけの楽しさでも慰めでもない。

 そんなものじゃ、本当にキミに新しい世界を開かせることはできない」


「見せかけの楽しさ?」


「そうだよ。

 そんなものでどれだけ心を埋めたって、結局は空っぽなままなんだ。

 本当にキミに新しい変化をくれるのは、そんなものじゃなくて……」


 真実の気持ちだよ。


 囁くように、菅原さんはそう言った。


 その言葉は乾いた砂に水が染み渡るように、静かにオレの心に降りてくる。


 不思議な感覚だった。


 オレは吸い込まれるように、菅原さんの言葉に耳を傾け続けた。


「だからもし今キミが、本気で彼女を取り戻したいと……。

 傍にいてほしいと思ってるなら、それは、きっと……」


 本気でアイツを欲しいと思うなら、きっと。


 目を閉じる。まぶたの裏に浮かぶ面形を、心の目でジッと見つめた。


(オレは、アイツを……。

 香を……)


「……まあ、オヤジのヨタ話はここまでだな。

 後は自分でゆっくり考えてみろよ」


 穏やかな声に目を開くと、いつの間にか菅原さんは出入口のドアに手をかけていた。


「もう一年経った頃か。

 ふさぎ込むには充分な時間だったろ。

 そろそろ全部忘れたってかまわないと、僕は思うけど」


 そう言う菅原さんの声には、温かな思いやりと気遣いがにじんでいた。


「ふさぎ込んでなんて……」


 言いかけた言葉を、オレはまた飲み込む。


 そんなオレを見て、菅原さんは優しく微笑んで、


「とにかく、頑張れ。

 何かあれば、僕でよければいつでも話を聞くよ」


 そう言うと、カチャリとノブを回してドアを開けた。


「帰るのか?」


 尋ねると彼は笑って頷いて、


「ああ。

 明日も朝は早いからな。

 キミも体を壊したら何にもならない。

 頑張るのもいいけど、ほどほどにしてさっさと帰れよ」


「……わかってるよ。

 お疲れ、社長秘書サン」


「そっちこそお疲れ様、副社長」


 おどけた口調で言った菅原さんがドアの向こうに消える間際に、オレは『サンキュ』と短く告げる。


 菅原さんは軽く手をあげてそれに応え、静かにドアを閉めて去っていった。


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