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あやまちから始まる恋の罠  作者: アルケミスト


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 その日の夜。


 あたしは部屋でひとりワインを開けて、ボンヤリ物思いにふけっていた。


 あの後、社長はすぐに秘書室を出て行き、一哉も予定どおりの時間に戻り、何事もなく仕事に戻っている。


 もちろん社長とふたりで話をしたことは、一哉には話していない。


 そうして滞りなく仕事を終え、家に帰ってきたけれど……。


「はあ……なんなのよ、ったく……」


 なぜだか心がどんよりと重くて、どれだけグラスを空にしても、ちっとも軽くならない。


 この感じはなんだろう?


 いつものストレスなら、ウェヌスで一晩騒げばスッキリする。


 だけど今はそんな気分にもならないし、お酒でまぎらわすこともできない。


「あーもうっ、ムシャクシャするっ!」


 半ばヤケでさらにグラスを空けようとしたら、タイミングを見計らったかのように携帯の着信音がそれを止めた。


「……?」


 今日も鳴っているのは珠奈の方だ。


 そしてディスプレイを見ると、相手はママ。


(今日は何よ……?)


 投げやりな態度で応答ボタンを押すと、すぐにママの声がまくし立ててきた。


『あつ、珠奈?

 ねえ、あなた今日来ないの!?

 っていうか、井上さんは来ないの!?』


「は?

 何ですか、いきなり?」


(あたしが行く行かないはともかく、なんで一哉の来店予定なんか聞かれなきゃいけないのよ)


 だけどあたしの訝りなんてお構いなしでママが続けてきた言葉に、あたしも次の瞬間、電話でママの話を聞きながら口にしたワインを噴きそうになる。


『いきなりじゃないでしょ!

 あの人、昨日うちにカード置いてってるのよ!

 困るわよぉっ、こんなのバレたら、うち営業停止よぉっ』


「え!?

 カ、カードッ!?」


 って、クレジットカードってことだよね?


 そういえば昨日、一哉が店を出る前にボーイに何か投げて渡していたけれど……。


(クレジットカードだったの、あれ!?)


 ありえない。


 クレジットカードを店に預けるなんて話、聞いたことないよ。


(何考えてんの、アイツ!?)


「すみません、すぐに店に行くよう伝えますから!」


 あたしは余計なことは一切言わず、それだけ告げてすぐに電話を切った。


 そして即、一哉の番号を呼び出してダイヤルする。


 数回のコールの後、応答があった。


『もしもし。

 どうした?』


「どうした、じゃないわよっ。

 アンタ昨日、ボーイにカード渡したんだって!?

 今ママからこっちに電話があったのよ!」


 一気にわめき立てると少しの間の後、


「……あぁ。

 そうだったな、忘れてた』


「はあ!?

 マジで信じらんないっ。

 とにかく今すぐ店に行ってカード受け取ってきて!」


『今から?

 まあ仕方ねーか、昨日の支払いもあるしな。

 けど、じゃあお前も来いよ』


「な、なんであたしまで行かないといけないのよ!?」


 一哉が勝手にやったことなのに、あたしまで共犯みたいな言い方されちゃたまらない。


 キリキリと眉を吊り上げるあたしの心を知ってか知らずか、一哉はまったく悪びれた様子もなく、


『まさか支払いだけして帰ってこれないだろ。

 あの店で飲むなら、お前以外に誰が相手すんだ?』


「知らないわよそんなことっ。

 誰とでも適当に飲めばいいでしょ!」


 さらに怒鳴ると、一哉はチッと軽く舌打ちして、


『わめくなっての。

 お前が行かないなら、オレも行かない。

 何ならあのカード、お前にやるぜ』


「!?

 何言ってんの?」


 カードあげるって……本気で意味わかんないんだけど。


 ア然とするあたしに追いうちをかけるように、


『お前でカード切ってくれていいし、返さなくていい。

 自由に使え』


 そっけなく言って、一哉は『それじゃあな』と電話を切ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 他人のカードなんてもらえるわけない。


 あたしはとっさに答えてしまっていた。


「わかったわよ、行くわよ!

 だからアンタも今すぐ店に向かって!」


 すると一哉は感情のつかめないような声で、


『……そうか。

 それじゃあまぁ、向かうよ』


 それで会話は終わり、あたしはため息をつきながら電話を切った。


(ホント、どういうつもりよ)


 強引で大胆なところがある一哉だけれど、カードを他人に渡すなんていうのは、ちょっと次元が違うでしょ。


「はぁ……とにかく行くしかないか」


 言ってしまったものは仕方ない。


 あたしは急いで身支度を済ますと、すぐに家を出た。


 タクシーの中でママに電話して、その数十分後には店に着く。


 控え室にいるとママがすっ飛んできて、一哉はもう来店していて、カードも無事返したと教えてくれた。


「ホントびっくりしたわあ。

 何事もなくてよかったけど」


「すみませんでした、お騒がせして」


 なんであたしが謝らないといけないのよ、と思いつつも渋々謝って、すぐにラウンジに出る。


 ヘルプの女の子と談笑してた一哉はあたしが来たのに気づくと、


「よぉ珠奈、遅かったじゃないか。

 待ちくたびれたぜ」


(んなことアンタが言えたクチか!)


 叫びたいのを必死で堪えていると、ヘルプの子達が遠ざかっていった。


 彼女たちを見送ってからあたしは目を吊り上げて一哉に迫った。

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