それは秘密なんだからね
「ミチルはそんなことを悩んでいたんだね」
「そんなことじゃないもん。あたしからすれば、大問題だったんだよ」
「ごめんごめん。別にミチルのことを馬鹿にしたんじゃないよ。やっぱりミチルって不器用なんだなーって思っただけ」
ミチルの悩みをそんなことと渚に言われ、ミチルは思わず声を荒げてしまう。
渚はミチルに自分の真意が伝わっていないことに気づき、訂正する。
「……不器用で悪かったわね」
「悪くないよ。そんなミチルも可愛いとボクは思うよ」
不器用と言われ拗ねるミチルに、渚はミチルの頭を撫でながら慰める。
「実はね、ボクもミチルとイチャイチャしたかったんだよ。でもミチルに嫌われるのが怖かったからボクもミチルと積極的にイチャイチャできなかった。ミチルって少しずつ距離を詰めていく男の娘だから、一気に距離を詰めたら嫌われると思って。つまりボクたちは同じことで悩んで、二人で空回りしてたんだね」
渚の本音を聞いたミチルは心が軽くなるのが分かった。
ミチルが渚に嫌われるのを恐れたように、渚もまたミチルに嫌われることを恐れていたのだ。
「渚もあたしと同じことで悩んでいたんだ。あたしだけじゃなかったんだ。なんか馬鹿みたい」
「そうだね。ボクも馬鹿だったよ。やっぱり我慢しないでお互いの思っていることはちゃんと相手に伝えないとダメだね」
渚もミチルと同じことで悩んでいたことを知り、肩の力が抜け安堵する。
渚の言う通り、いくら好きでもお互いの気持ちを伝えあわないと簡単にすれ違ってしまう。
ミチルと渚は、気持ちを伝え合う大切さを知った。
「だから、あたし、渚と手を繋ぎたい。……ダメかな」
「もちろん良いよ。手を繋いで学校に行こうミチル」
渚とイチャイチャしたいミチルは、勇気を振り絞って渚と手を繋ぐことを提案する。
もちろん渚は嫌な顔一つせず、左手を差し伸べる。
付き合って初めて手を繋ぐということもあり、ミチルはかなり緊張していた。
そのせいで、ミチルはなにもないところでつまずいてしまう。
「ミチル」
それに気づいた渚はミチルの体を支え、ミチルは転ばないように渚の左腕に抱き着く。
「ありがとう渚」
「どういたしまして」
「せ、せっかくだから、今日はこのまま学校に行かない? 早苗たちもよくこうやって学校に行ってるし」
「そうだね。ボクは問題ないよ」
事故とはいえ、渚の腕に抱き着いてしまったミチルは手を繋ぐよりもこっちの方が良くなり、渚にわがままを言う。
渚も嬉しそうな表情を浮かべていたので、少なくも嫌がってはいなかった。
ミチルは渚の腕を抱きながら歩き始める。
柔らかくも逞しい渚の腕は、抱いていて凄く安心感がある。
渚の腕を抱いているので、柔軟剤の匂いや渚の体温が直に伝わってくる。
「左腕がミチルに包まれて、ボクは幸せだよ」
渚も上機嫌で歩みを進める。
そして校門前で、早苗たちと出くわす。
「おはようミチルちゃん、渚ちゃん」
「おはようミチル、渚」
二人はいつも通りのテンションでミチルたちに声をかける。
もちろん、今日も早苗は茜の腕に抱き着いており、いつも通りラブラブである。
「おはよう早苗、茜」
「お、おはよう」
渚はいつも通りあいさつをするが、早苗たちに渚とイチャイチャしているところを見られたミチルは思わず照れてしまう。
「わぁ~、ミチルちゃんが渚ちゃんと腕組んでる~」
「良かったねミチル。渚とイチャイチャできて」
照れながら渚と腕を抱いているミチルと見て、早苗も茜も嬉しそうに笑っている。
「うん。これも二人のおかげよ。あ、ありがとう」
照れながらも、二人にお礼を言うミチル。
二人がミチルの背中を押してくれなかったら、今日も渚とイチャイチャすることはできていなかっただろう。
「へぇ~なるほど。ミチルの背中を押してくれたのは早苗と茜なんだね」
「それは秘密なんだからね。早苗も茜も勝手に渚に喋ったら許さないからね」
勘の良い渚は、三人の会話を聞いただけで、ある程度理解した。
ミチルはそれだけは渚に知られたくなかったので、大声で早苗と茜に注意する。
例え彼女でも知られたくないことは誰しも一つや二つはあるだろう。
ミチルにとって、まさにこれが彼女に知られたくないことの一つだった。




