あ、あたしは、な、渚のことが好き
次の日。
ミチルはいつものように駅前で渚を待っていた。
渚と付き合ってからは、毎日二人で登校している。
駅から学校まで歩いて十数分しかかからないのだが、渚と二人っきりの時間はミチルにとってかけがえのない時間だ。
電車が到着し、たくさんの通勤者や通学者が吐き出される。
「おはよう渚」
「おはようミチル」
渚を発見したミチルは一秒で早く会うために渚に駆け寄りあいさつをする。
ミチルにあいさつをされた渚もようやくミチルを見つけることができ、渚の顔が綻ぶ。
「ミチルは小さいから見つけるのが大変だよ」
「小さい言うなっ」
「ごめんごめん。小さいミチルも可愛くて好きだよ」
「あ、ありがと」
いつものように小さいことをからかわれたミチルは渚に抗議する。
これも一種のお約束である。
その証拠に渚は謝罪するものの笑っているし、ミチルだって本気で怒っていないし、嫌な気分にもなっていない。
逆に不意に褒められる方がミチルからすれば心臓に悪い。
簡単に彼氏に『好き』と伝える渚が羨ましかった。
「昨日はごめんね。一緒に帰れなくて」
「ううん、大丈夫だよ。用事があったんだからしょうがないよ。カップルだからと言ってなんでも詮索されるのはあまり良い気分じゃなかったよね」
歩きながらミチルは昨日、一緒に帰れなかったことを渚に謝罪する。
それに関しては気にしていない渚だったが、渚自身も思うところがあったらしい。
渚の言う通り、いくらカップルとはいえなんでもかんでも詮索するのは違うとミチルも思う。
「確かにカップルと言っても全部相手のことを詮索するのは違うと思う」
ミチルも渚の考えに同調する。
「カップルもなかなか難しいね」
「そうね。カップルになったらなんでもかんでもさらけ出すというのもなんか違う気がする」
渚もミチルも難しいカップルの距離感にため息をこぼす。
「どこまでオッケーでどこからがダメなのか、二人でちゃんと話し合わないとね。それで喧嘩したりすれ違ったら嫌だしね」
「うん、そうだね。あとそれともしあたしが渚に嫌なことをしたら素直に言ってほしい。直すから。あたしも渚に嫌なことをされたら言うから」
「ボクはミチルからだったらなにをされても嬉しいよ」
「それは嬉しいけど、無意識に渚の嫌なことしてたらあたしも嫌だから。あたしはずっと渚のパートナーでいたいから」
「……それは卑怯だよ。そんなこと言われたら嬉しすぎて逆に困っちゃうよ」
ミチルにとって渚は初めての彼女だ。
だからこそ渚のことを大切にしていきたいし、これからもずっと渚の彼氏でい続けたい。
そのためには嫌なことは相手にはっきりと伝え、逆に嫌なことをしてしまったら反省することが大事だ。
嫌なことを我慢し続けていたらいつか爆発してしまって今までの関係が全て壊れてしまうだろう。
ミチルがこの先も渚とパートナーでいたいということを伝えると、渚は照れた顔をミチルに見られないように手で隠す。
「ボクもずっとミチルのパートナーでいるよ。だからこれからもよろしくね」
渚もミチルと同じ気持ちらしく、今度はクールな表情で自分の思いをミチルに伝えた。
また一歩、距離が縮まったミチルだが大事なことを思い出す。
それは、今日こそ渚とイチャつくということだった。
今までミチルは渚に嫌われるのが怖くて、イチャイチャしたり甘えることができなかった。
もしミチルが渚とイチャイチャしたり甘えたせいで渚に嫌われたら、しばらくの間は立ち直れる気がしない。
早苗と茜は、渚に限ってそんなことはないと言っていたが不安なものは不安だ。
イチャイチャしたいのはミチルだけで、渚はまだ早いと思っているかもしれない。
渚の本心を知るために、ミチルは意を決して渚に自分の今の思いを伝える。
「渚」
「ん? どうしたのミチル。そんな真剣な表情でボクの名前を呼んで」
ミチルは真剣な表情で渚の名前を呼ぶ。
渚もただならぬ雰囲気を感じ取ったらしく、体が少し強張る。
「あ、あたしは、な、渚のことが好き」
緊張しすぎているせいでカミカミだったが、渚は笑うことなく真剣な表情でミチルの話を聞く。
「だから、もっと渚とイチャイチャしたい。手を繋ぎたいしハグもしたいしキスもしたい。でも渚に嫌われたらどうしようと思って、今までできなかった。渚に『まだ早いよ』って拒否されるのが怖かったから」
ミチルは渚に全てをさらけ出した。
もっと渚とイチャイチャしたいこと。渚に拒否されるのが怖かったこと。
「……クスクス」
ミチルの思いを受け取った渚はなぜか笑いをこらえていた。
これにはミチルも呆気にとられた表情を浮かべる。




