9 警鐘
受付で冒険者手帳を受け取った。
「シオン様もこれで冒険者です。最下級のE級ですが、昇級試験さえ合格すれば、すぐにでも中級冒険者になれますよ」
三つ編みの受付嬢はそう言って微笑んだ。
「シオンも冒険者?」
俺の脇の下からクラウが見上げてくる。
着るもの着ていたら普通に可愛らしい町娘だな、と思いながら俺は小首をかしげる。
「も?」
「あたしも、ほら」
クラウはポケットからボロボロの冒険者手帳を取り出した。
古いというより、単に管理がずさんなのだろう。
そういうボロさだ。
「昔、里にギルドの人きた。みんな冒険者になった」
「そういえば、うちの村にも来たことがあるな」
体格のいい農奴がいないかと探し回った挙句、一番大柄だったノーエンをスカウトしていた。
冒険者ギルドは有能な人材探しに余念がないのだ。
スカウトマンに見向きもされなかった俺だ。
受付嬢も期待などしていまい。
背負うものがなくて楽ってもんだ。
正直、冒険者になれなくても、俺にはポーション職人という道がある。
教会から下級ポーションを買い付けて、指パッチンで上級ポーションにしてから売りさばく。
差額で楽々ガッポガポだ。
ただ、ポーションは教会が製造から流通までを牛耳っている。
片田舎ならともかく、大きな町でポーションの密売をすればどうなるか……。
まあ、田舎人の俺にはどうなるかわからないが、ロクなことにならないのは明らかだ。
やるなら、こっそりだな。
「ねえ、ツアミ。赤亀竜討伐の件ってどうなっていたかしら?」
別の受付嬢が俺に軽く会釈してから、そんなことを言った。
ツアミと呼ばれた受付嬢は少し考えてから答える。
「B級の皆さんが今朝、3パーティー合同で町を出たはずですよ。順調にいけば、そろそろ帰って来られるはずですが」
その言葉が終わらぬうちに、カンカンカン、と鐘の音が聞こえてきた。
東の橋のほうからだ。
続いて、カンカンカン、カンカン、と独特なリズムの打音が響く。
受付嬢らは聞き逃すまいと耳をそばだてていた。
「3、2、5……。大型魔物襲来の符牒です!」
ツアミがそう叫ぶと、ロビーに緊張が走った。
「冒険者の皆様! 当ギルドはピアニ防衛のための緊急依頼を発出します! ご協力願います!」
居合わせた冒険者たちが一斉に立ち上がった。
何人かはこっそりと逃げていった。
大型魔物襲来?
じゃあ、俺も逃げたい。
なのに、クラウが離してくれない。
クラウは目の下の赤みが強くなっている。
闘争意欲が高まっているらしい。
「シオン、いこっ!」
おしゃれなクレープ屋を見つけた、というノリである。
もちろん、俺は行かない。
意識を足の裏に移す。
足の裏から木の根を伸ばして床板に張り付くイメージで、不動の構えを取る。
しかし、意味はなかった。
クラウは猛烈なパワーで俺を根こそぎ引きずっていく。
ツアミも、協力してくれますよね、という期待の目で背中を押してくる。
新人を送り込んだところで戦力になるはずもないだろうに……。
「はあ」
仕方ないか。
緊急依頼は強制参加イベントだと聞いたことがある。
徴兵みたいなものだ。
なら、行くしかない。
隅っこの安全なところで見ていよう。
捉えようによっては、最前線の空気を知るいい機会だ。
俺は猛牛に引きずられるようにして冒険者ギルドを後にした。




