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8 特技は指パッチン


 2階に上がると、酒と料理の匂いがした。

 ちょっとした居酒屋になっているようだ。

 真っ昼間から酔い潰れている冒険者もちらほら見える。


「お前、新人だろ? パーティー面接ならこっち来いよ」


 きょろきょろしていると声をかけられた。

 チョイ悪風のおっさんたちが大きな手を招き猫みたいに振っている。


「シオン・フォルツァートだ。ズブの素人だが、俺なんかでいいのか?」


 俺は空いている席に座った。

 本当は知らない人の輪に飛び込んでいくのは気が引ける。

 だが、素人の単独行動ほど恐ろしいものはない。

 経験者の背中に学ぶべきだろう。


「いいんだよ。駆け出しはみんなそんなもんだ。オレはロック・デナー。C級冒険者だ」


 ロックと名乗った男、遠巻きには気のよさそうなチョイ悪オヤジに見えた。

 だが、よくよく見ると、目の奥に暗く冷淡なものが垣間見える。

 悪人が善人のフリをしているというか。

 狼が羊の皮をかぶっているというか。

 ルーキー狩りなんて言葉もある。

 多少の警戒は必要だろう。


「見せてみな」


 と言って、ロックは俺の手から履歴書をひったくった。


「出は奥トーブか。この町はでけえからビビったろ?」


 そう微笑んでいたが、不意に虚無の表情になる。


「特技……指パッチン?」


 まあ、さもありなんという反応だ。

 未だかつて特技の欄に指パッチンと書き込んだ冒険者はいないだろうからな。

 書いておいてアレだが、いまさらながら恥ずかしくなってきた。

 そうです。

 俺の特技は指パッチンです。

 それしか書けることがなかった自分が情けない。


「やってみろよ」


 ロックは頬杖をついた手でさりげなく口元を隠している。

 手の下は、おそらく半笑いであろう。


 俺は中指を親指とくっつけた。

 そして、ふとノーエン邸の惨状を思い出す。

 ここで俺が指を鳴らせば、冒険者ギルドどころか付近一帯が戦場跡地に変わる恐れがある。

 この建物だけでも30人くらいの人がいる。

 最悪、俺の指パッチンひとつで100人近い死傷者が出るかもしれない。


 俺は細心の注意を払ったうえで控えめに指を打った。

 パーンと乾いた快音が響く。

 ちょっと派手な爆竹といったところか。


「おお、すっげー。けっこうデカイ音が出たな」


 ロックたちは大きな手で拍手した。

 そして、首をかしげる。


「で?」


 で? ――か。

 だからどうしたってか。

 そんなことを言われてもな。

 俺の特技をフルスケールで味わいたいなら、ミンチになる覚悟を固めてもらわないことには無理だろう。


「お前の特技、これだけかよ! ギャハハハ!」


 ロックに釣られて2階にいた全員が笑い出した。

 椅子から転げ落ちて腹を抱えている奴までいる。


「とんだ無能がいたもんだぜ! ギャハハハ!」


 ロックはテーブルをバシバシ叩いて、苦しげに片目を開いた。


「いいぜギャハハ! お前、気に入ったぜ! ブフ……。オレの子分にしてやんよ!」


 無能と笑いながら、採用するのか?

 パシりとして尻を蹴られる未来が見える。

 おもちゃにされるのは御免だ。


 俺は席を立った。

 と、そのとき、目の前を白いものが通り抜けていった。

 それは、テーブルの前で跳躍すると、体を寝かせて一本の矢となった。

 そして、足からロックの顔に吸い込まれていった。

 跳び蹴りだった。


 ばがあーん、と椅子がひっくり返る。

 ロックは奥のテーブルに突っ込んで止まった。


「ろ、ロックぅぅ……!?」


「なにしやがんだ! メスガキ……!」


 メスガキと呼ばれて颯爽と振り返ったのはクラウだった。

 ちゃんと服を着ている。

 だが、短パンから覗く脚は依然として露出が多かった。


「シオン、いなくなってたからニオイで追ってきた」


「俺、そんなに臭かったか?」


「ううん、いい匂い」


 クラウは満面の笑みでこう付け加える。


「血のっ!」


 そうか。

 山賊の血を頭からかぶったままだから、そうだろう。


「てめえ! よくもロックを――あぎゃ!?」


「ぐぎゃバ……ッ!?」


 クラウはあっという間にC級冒険者の一団をノしてしまった。

 何事もなかったように俺のもとに帰ってきて、懐いた猫みたいに体をこすりつけてくる。


「ちなみに、どうして蹴っ飛ばしたんだ?」


「んー、……勘?」


 すごくいい加減な答えが返ってきた。

 でもまあ、あながち間違いでもないのだろう。

 それに、スカッとした。


「さっさと逃げるぞ、クラウ」


「わかったー」


 ロックたちが体勢を立て直す前に俺たちは、ぴゅー、と逃げ出した。


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