7 ピアニ
トーブ地方、ピアニ。
地方中核都市とされるだけあって、大きな町だった。
田舎出身・田舎育ちの俺には初めて見る異世界の町だ。
魔物避けの城壁がないのは、町が川の中州にあるからだろう。
陸路での出入りは2本の橋に限定される。
それとて、橋の中ほどで跳ね上げることができるから、魔物の大群が押し寄せてきても町には入れない。
跳ね上げ橋は大型の船が通過する際にも使われるらしい。
「活気のある町だな」
とはいえ、前世と比べれば、ここも田舎だ。
目を回したり、おのぼりさんムーブをかましたりすることはなかった。
水運上の拠点だからか、水夫が多い印象。
大通りは行商人の馬車でひどい渋滞になっている。
そんな中に冒険者らしき姿を見つけて、俺はホッとした。
よほど小さな町でもない限り、冒険者ギルドはどこにでもあると聞いている。
この町にもちゃんとあるようだ。
さっそく行ってみよう。
……だが、その前にやることがある。
俺は好奇の視線に耐えながら、背嚢の中身をまさぐった。
銀貨をひと掴み取り出して、クラウに渡す。
「これで、着るものを買ってくるといい」
クラウはまだ上着1枚という破廉恥な姿をさらしている。
恥じ入る素振りすら見せない。
お前が恥ずかしくなくとも、俺は恥ずかしい。
知り合いだと思われたくないのに、猿の子のようにくっついてくるから余計恥ずかしい。
「着るものって花嫁衣装?」
クラウは目を輝かせた。
もちろん、違う。
「普段着な」
「わかった。買ってくる。シオンはそこで待ってて」
「おっけー」
俺は体よくクラウを追い払った。
露出狂が人ごみの向こうに消えたのを確認してから足早に立ち去る。
冒険者ギルドの建物はすぐにわかった。
中州を流れる水路の上に張り出すようにして建っている。
水上レストランみたいでシャレオツだ。
中に入ると、床板の隙間から流れる水が見えた。
夏だから涼しいが、冬はきっと寒かろう。
「冒険者になりたいんだが」
と、受付で用件を告げると、くたびれた書類を出された。
「登録申請用紙とパーティー面接用の履歴書になります。こちらに必要事項をどうぞ」
三つ編みの受付嬢に促され、ペンを走らせる。
読み書きは前世の素養があるから自然とできるようになった。
でも、誰にでもできるものではない。
これを自力で書くということが、すでに第一の面接だったりするかもしれない。
小論文みたいなものだ。
とか考えつつ書き進め、ほどなくして俺のペンはピタリと止まった。
「特技、か」
なんと書こう?
読み書き算術は特技に書けるだろう。
でも、冒険者の必須スキルじゃない。
もっと肝心な剣や魔法はさっぱりだ。
俺に残されたのは、これだけ。
「指パッチン、……と」
特技の欄を埋めると、受付嬢の顔が奇怪に歪んだ。
当然だ。
「ダメだったか?」
「い、いえ。よほどすごいのでしょうね」
「そりゃあ、もう」
俺は胸を張って頷いた。
「シオン・フォルツァート様、16歳、希望するジョブはなし、特技は指パッチン……で、お間違いありませんか?」
「ええ」
「それでは、冒険者登録いたします。少々お時間をいただきますので、その間、所属パーティーがお決まりでないようでしたら、面接を受けられてみてはいかがですか?」
受付嬢は吹き抜けの向こうに見える2階を手で示した。
そうさせてもらおう。
俺は階段へと足を向けた。
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