5 告白
俺の指パッチン。
使い方次第でいろいろなことができそうだ。
だが、使い方を誤れば、新築物件が瓦礫の山になるし、女の子もすっぽんぽんになる。
正しく使うことが求められる。
ピアニへの道中、街道をただ歩くというのも退屈だ。
なので、指パッチンの使い道を探ってみることにした。
まずは、単純に破壊だ。
俺は強く音を響かせた。
衝撃波が森を抜けていく。
枝から引きちぎられた青い葉が吹雪いた。
もっと威力を上げれば、木々を薙ぎ払うこともできる。
今立っているここが爆心地になる感じ。
しかし、これでは人間爆弾だ。
無差別攻撃になる。
無関係の人を巻き込みかねない。
あの狼少女のような人質がいる場面では使えない。
だから、衝撃波を飛ばす方向を意識的に絞る必要がある。
いわゆる、指向性音波だ。
腕を斜め上にピンと伸ばす。
細く絞るようにして音を放つと、その方向にある枝葉だけが消し飛んだ。
樹冠に穴があいて、青い空が見える。
これなら、ピンポイントでズドンとできる。
それに、指向性音波のほうが、やや威力が上がる気がする。
エネルギーが収束するからだろう。
ほかの使い方としては、共振による破壊がある。
声でグラスを割るアレ。
物体の固有振動数に合わせて共鳴周波数をうんたらかんたら。
詳しい原理は知らない。
とにかく、物体が最も振動するように音を出せば、振動に負けて硬い岩でもバラバラになる。
山賊が爆散したのもこれだ。
あとは、高周波攻撃なんかもできる。
キィィィィンン、という甲高い音を響かせると、鳥は真っ直ぐ飛べなくなるし、熊でもめまいを起こして倒れる。
出力を上げれば卒倒させることもできるはず。
まだまだいろいろできそうだ。
「だが、その前に」
俺は来た道を振り返った。
深い森の中に伸びる街道には人影などない。
しかし、俺の耳はたしかに足音を感じている。
つかず離れずの距離で、ついてくる者がある。
昔から人には聞こえない音が聞こえたりした。
指パッチンにしてもそうだが、俺は「音」と繋がりが深いらしい。
「隠れていないで出てこい」
と、語気を強めて警告する。
人数は1。
歩幅からして小柄な人間だ。
武器の類を持っていないことまでわかってしまう。
それどころか、荷すら背負っていない。
衣服のこすれる音も微弱だ。
下手すると、まともに服すら着ていないな。
俺はなんとなく半裸の小男を想像した。
魔物の生息する森を短パン1丁で歩く変人。
趣味は、こっそり人のあとをつけること。
出てこいと言っておいてなんだが、出てこないでほしい。
もうずっと隠れていてくれ。
「……っ?」
などと、思っていた俺の予想は少し外れた。
姿を現したのは、半裸は半裸でも小男じゃなかった。
少女だ。
半裸の少女。
真っ白な髪に、獣の耳と尻尾。
そして、整っているが険のある顔つき。
少女は俺の上着を羽織り、その下から白磁の脚を伸ばしていた。
見覚えがある。
例の狂狼族の子だった。
じとーっとした目で俺を見ている。
その目の下にアイシャドウのような赤い模様が浮き出ていた。
さっき見たときはなかったものだ。
俺はギョッとして身構えた。
あれは、化粧などではない。
狂狼族は交戦意欲が極限まで高まると、目の周りに赤い紋様が浮き出ると聞いたことがある。
俗に、『狂戦士の血紋』などと言われるものだ。
つまり、今、彼女は大変殺気立っているということ。
誰に対して?
それは、俺しかいないだろう。
実際、あたりには誰もいない。
突然、全裸にされたのだ。
怒るのが普通だ。
受けた辱めは血で清算する。
それが狂狼族。
俺はどうやら、とんでもない爆弾に火をつけてしまったらしい。
少女は瞬きもせず俺を見ている。
一歩、また一歩と近づいてくる。
まだ魔爪は帯びていない。
こっちから指パッチンで先制してもいいが、まだ力加減がわからない。
下手すると山賊たちみたいに肉片に変えてしまうかも。
と、一瞬躊躇した俺が馬鹿だった。
気づけば、爪の間合いに入っていた。
じっとりした目が頭一つ分低いところから俺を見上げる。
「あんたに言いたいこと、ある……ます」
「ます?」
なんだか知らないが、少女はもじもじしている。
白い脚をこすり合わせて、顔を赤らめて……。
で、言った。
「……えっと、すき」
「はい?」
それは、俺の人生、初めての告白だった。




