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3 指パッチンで咲くお花


「なに見下ろしてんだ、お前ェ」


 山賊の頭目が睨み上げてくる。

 生来、暴力の中で生きてきたような顔だ。

 20人は殺してそう。

 俺の足の裏は、早くも変な汗で濡れていた。


 戦闘経験なんてない。

 喧嘩すらしたことがない。

 前世も含めて修羅場は初めて。

 畑で痩せた狼と向かい合ったのが人生最大のピンチだった。

 それも、指パッチンで大きな音を立てたらキャンキャン喚きながら逃げていった。

 山賊は、そうはいかないだろう。


「うああああ! 痛てえよおお……! あああ……!」


 ブッサスが股間を押さえてのたうち回っている。

 血で地面が真っ赤だ。

 しかし、頭目は見向きもしなかった。


「坊主よォ。お前ェ、お人好しってツラだなァ。おおかた、このメスガキを見捨てる度胸がなかったんだろォ?」


 そう言って、獣人の少女を足蹴にする。

 少女は凶暴な顔で足の下から睨んでいる。

 魔爪を伸ばそうとしているが、火花が散っただけだった。


「お前ェみてえなお人好しにはよォ、シンプルにこれだよァ」


 蛮刀がサッと少女の頬をなでた。

 血が、だらぁ、とあふれだす。


「坊主、そこを一歩でも動いてみろ。次はこのメスガキの首を――」


「いぎゃあああ! 痛てええよぉおお! オレのお股あああ……! おごおおお……!」


 頭目がチッと舌打ちした。

 次の瞬間には、ブッサスは静かになっていた。

 頭がスイカみたいに割れている。

 蛮刀を引っこ抜くと、頭目は俺に黄色い歯を見せつけた。


「へへ、うるせえから殺っちまった。怖ェだろ? これがオレら山賊様よォ」


 子分らもゲラゲラ笑っている。

 まったく躊躇がなかった。

 前世とは命の価値が違うと常々感じていた。

 でも、ここまであっさり人を殺せる奴がいるとは。

 怖いか?

 普通に怖い。

 脚なんてプルプルしている。


「いいかァ、坊主? そこを動くなよ。お前が一歩でも動けば、このメスガキは真っ赤なもんブチまけてオッ死ぬぜ?」


 頭目が顎をクイッとさせた。

 山賊2人が頷き、左右に分かれて岩場を登ってくる。

 頭目の狙いは俺を村に帰さないことか。


 蛮刀は少女の首元で鈍く光っている。

 仲間でもあれだ。

 交渉も駆け引きも通じない。

 俺が一歩でも動けば、頭目は本当に首を掻き切るだろう。


 ブッサスが死んで、相手は残り6人。

 対して、俺は1人。

 それも、丸腰だ。

 人質もいるから状況は最悪。


 それでも、急峻な斜面だ。

 上を取っている俺にはまだ尻尾巻いて逃げるという手もある。

 少女は死ぬが、村人全員が死ぬよりマシだ。


「……」


 いろいろ考えた挙句、俺は結局動かなかった。

 事によっては、これはチャンスかもしれないと思ったからだ。

 山賊が近寄ってくれれば、あの少女を巻き込まずにすむ。

 ……俺の指パッチンにな。


 不動の態で待っていると、斜面を登り切った山賊たちが俺を挟んだ。

 左右から少しずつ距離を詰めてくる。

 もう逃げられない。

 でも、これでいい。


「一歩も動いちゃいけないんだよな?」


 俺が問いかけると、頭目はニヤッと笑った。


「そうだぜェ。お前はそこを動くな。あの世から迎えが来るまではなァ」


 俺もニヤッと笑った。


「そうか。じゃあ、よく見ておけ。俺は一歩も動かないからな?」


 山賊が蛮刀を振りかぶった。

 その瞬間、俺は指を打ち鳴らした。

 人間の体に最も響く音。

 それは、感覚的にわかっていた。


 ぼごん、と空気が揺れる。

 すると、左にいた山賊の顔から笑みが消えた。

 で、爆発した。

 そうとしか言いようがない。

 腰から上が赤い霧に変わった。

 ザクロみたいなものがあたりに散らばる。

 下半身が惰性で2、3歩歩き、俺の前を通り過ぎていく。


 右側からは生温かいものが降ってきた。

 もう一人のほうは胸から腹にかけて大穴があいていた。

 腸が放水ホースみたいに伸びて、右に左に血をまき散らしている。

 地面には赤い8の字ができた。

 そして、どちゃッ、と倒れる。


「……」


 まさか、指パッチンひとつで、こんなことになるとは……。

 ノーエンにも怖いと言われたが、俺も俺が怖い。

 ショックで気絶しそう。


 山賊たちの色を失った顔が視界の端にちらっと見えた。

 俺はヘソにグッと力を込めた。

 気絶なんかしている暇はない。

 ここが勝負どころだ。


 俺はヒヒッ、と病的な笑みを浮かべて山賊たちを見下ろした。


「肉だぁ、久しぶりに人間の肉が食えるぜ、ヒヒヒ……。こんな山奥じゃ旅人も通りゃしない。人喰い村にようこそ。歓迎するぜ、山賊さん」


 ヤベエ村のヤベエ村人だと思わせて、追い払う作戦だ。

 とっさの思い付きにしては絶妙手だと思う。

 自信を持ってもうワンプッシュする。


「俺に人質なんか意味ないぞ。全員喰うからなぁ、ヒヒヒ……」


 頭から鮮血を浴びて笑う俺がさぞや恐ろしく見えたのだろう。

 山賊たちは泣きそうな顔で右往左往している。

 だが、頭目だけは違った。


「落ち着けェ、野郎ども。舐められたら仕舞いの商売だろうがァ。おい、ヤダブ。奴を射殺せ!」


「へ、ヘイ……!」


 太った山賊が俺に腕を向けた。

 袖の下に何か仕込んでいる。

 バシュ、と音がして何か飛んできた。

 矢だ。

 真っ直ぐ飛んでくるから黒い点に見えた。

 指パッチンでどうにかなるのか!?

 でも、俺にはこれしかない。


 俺は指を弾いた。

 矢が目の前で木っ端微塵に砕け散った。


「ぶぎゃあ……ッ!?」


 ヤダブと呼ばれた山賊がなぜか吹っ飛んだ。

 矢を砕いた衝撃波がそのまま伝わったらしい。

 丸い体を弾ませて斜面を転がり落ちていくと、ヤダブは大岩にぶつかって頭の周りに赤い花を咲かせた。

 またもやスプラッターだ。

 さすがに吐きそう。

 でも、俺はあえてここで笑う。


「おいしそうなお花ぁ……」


 とか、言いながら。

 さしもの山賊の頭目もこれには肝を潰したようだ。

 手下を置き去りにして、我先にと逃げ出した。

 残りの連中も後に続く。


 人質を置いて逃げてくれてよかった。

 これで、心置きなくぶっ放せる。

 俺は右手を振り抜いた。

 地面に響かせるように指を鳴らすと、山賊たちの足元が膨れ上がって爆ぜた。

 引きちぎられた四肢が土砂とともに飛ぶ。

 それが、山賊らの最期だった。


「お、おお……」


 宣言通り、一歩も動かず、指パッチンだけで山賊団を制圧してしまった。

 俺を追い出したノーエンは正しい判断をした。

 どうも俺の指パッチンはだいぶイカれちまっているらしい……。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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