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22 帰路


 鉱床発見の証として、結晶石をいくつか持ち帰ることにした。

 アトラによると、純魔結晶というらしい。

 純粋な魔力の塊だとか。


「要するに、超高密度のエネルギー体でござるな」


 と、アトラは言っていた。

 だが、俺にはさっぱりだった。

 怪しい魔術師や錬金術師たちがいかがわしい実験に使うのだろう。


 小難しいことはわからない。

 でも、金になるのはわかった。

 なんと、単価がきんより高いらしい。

 とはいえ、鉱床に冒険者が殺到すれば、市場に大量に出回って値崩れを起こすに違いない。

 その前に、持ち帰りの品はちゃちゃっと売っ払ったほうが賢明だろう。


 暗響窟を出て、帰り支度を整える。

 遭難者たちの亡骸を町に持ち帰らなければならないので、即席のいかだを組むことにした。


「二人はいかだで帰るといい」


 町は下流だ。

 流れに乗れば漕ぐ必要もない。

 水棲魔物にさえ気を払っていれば、帰り道は快適なはずだ。

 もっとも、死体同伴のクルーズでくつろげる奴はどんな旅路でも快適だろうがな。


「二人は? シオンは一緒じゃない?」


 クラウが寂しそうな顔をする。


「俺は少しやることがあるからな」


 ということで、クラウとアトラに手を振り、俺だけアシの広がる湿地に残った。

 はあ、とため息をつき、俺は声を張り上げた。


「いるんだろ? 出てこい」


 男が4人。

 遠巻きにこちらをうかがっているのは音で気づいていた。

 俺をつけ狙うなら、目に留まらないことより物音を立てないことに注力すべきだ。

 でないと、バレバレである。


 声からしてロックたちだろう。

 性懲りもなく、またやられに来たわけだ。

 物好きな連中だ。


「出てこい」


 もう一度、声をかける。

 ……しかし、一向に出てこない。

 居場所がバレてそわそわしている様子もない。

 まるで何も聞こえていないかのようだ。


 結局、たっぷり10分ほど待たされて、ようやく動きがあった。


「よォ、奇遇だな。こんなところで出会うなんてよ」


 ロック・デナーとチョイ悪風の仲間たちは普通にじゃぶじゃぶ湿地に入ってきた。

 わざわざ待ち伏せした割には、ひねりのない登場だ。


 俺は眉根を寄せた。


「俺をギャフンと言わせる秘策、用意してきたんじゃないのか?」


「さっきはよくもやってくれたなぁ。キィィィィンン、ってヤツ、かなり効いたぜ?」


 ロックはたぶん笑った。

 顔が蜂に刺されたみたいにボコボコだからわかりづらい。

 歯も全部折れている。

 そういえば、クラウにタコ殴りにされたんだよな、と遅ればせながら思い出す。

 もしかして、俺のせいだと思ってる?


「お前たちは気絶していたから知らないだろうが、殴ったのは俺じゃ――」


「冒険者の世界は弱肉強食よ。右も左もわかんねえ子羊ちゃんは食われる宿命さだめなんだぜ」


「そうか。ちなみにロック、この場合、もちろんお前たちが子羊なん――」


「こんなところに1人で残っちまってよぉ。食われちまうぜ? オレらみてえな狼になあ」


「なんだ。お前たちが狼――」


「ギャハハハハ!!」


「……」


「………………」


「…………」


 噛み合わない会話の後で、静寂が訪れた。

 困惑する俺を、連中は勝ち誇った顔で眺めている。


「食われる宿命の子羊、か」


 新米冒険者のことを言っているのだろう。

 つまり、ロックたちはルーキー狩りということになる。

 パーティー面接のとき、俺のことを無能だと笑ったくせに採用しようとした。

 あれも、狩るためだったのだろう。


 ロックがニタァと笑った。


「安心しろ。お前もこれまでに狩ったルーキーどもと同じ穴に埋めてやるよ。新人同士、冒険を楽しめ。あの世でな」


「殺したのか?」


 俺の喉から低い声が出た。

 ルーキー狩り。

 せいぜい、新米をタコにして身ぐるみを剥ぐくらいだと思っていた。

 殺して埋めたとなれば、もはや山賊と同じだ。

 チョイ悪ではすまない。


 俺は指に力を込めた。

 それを見て、ロックがブフッ、と噴き出した。


「ギャハハ、バーカ! そいつはもう効かねえぞ? なんせオレら、鼓膜を潰してっからな! ギャハハ!」


「鼓膜を……潰した?」


「やっべえだろ? 普通は耳栓で対抗しようとするよな? だが、それじゃ甘めえとオレは踏んだ。特殊な音波で耳栓を貫通ぬかれるかもしれねえからな。お前はすげえよ、シオン。だから、オレらも本気にならざるを得なかったのさ」


 全員、鼓膜を潰したのか。

 道理で会話が成り立たないわけだ。

 たしかに、本気を感じる。

 本気の馬鹿だ。

 あきれすぎて言葉にならない。

 なったところで、どうせ届かないのだが。


「オレらに鼓膜はねえ! お前の音魔法はもうどうあっても効かねえんだよ!」


 勝ち誇った顔でロックは笑った。

 仲間たちもロックが笑っているのを見てから笑い始める。


「いや、馬鹿なの? 衝撃波で吹き飛ば――」


「おっと命乞いかぁ? 何言ってんのかわかんねえよ、バーカ」


「馬鹿はお前らだろ。あと、3秒で吹っ飛ばす。謝るなら今のう――」


「助けてほしけりゃ土下座しろよ、オラ!」


 ダメだ。

 まったくキャッチボールが成り立たない。

 もういいや。

 カウントダウン開始。


「3」


「土下座だよ、土下座。早くしろよぉ!」


「2」


「ギャハハ、こいつブルっちまって声も出ねえとよ。命乞いが聞きたかったのに残念だぜ」


「1」


「……いや、鼓膜がねえから、どっちみち聞こえねえのか。じゃあ、書かせるか。紙とペン――」


「ゼロ」


 指を弾くとロックたちが吹っ飛んだ。

 ただの衝撃波じゃない。

 特殊な音で膝の骨を砕いた。

 もう一歩も歩けまい。

 そこに、ワニの魔物が近づいてくる。


「お前たちはルーキーを狩った。狩られる側になっても文句言うなよ」


 去り際にそう告げる。

 まあ、どうせ聞こえないだろうがな。


 絶叫に背を向け、俺は帰路についた。


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