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19 水っぽいもの


 遭難者の遺体を発見し、回収。

 ダンジョンであることも確認が取れた。

 リオトックからの依頼はあと1件。

 暗響窟の地図作製マッピングだ。


 これに関しては、俺は何もすることがない。

 せいぜい、タン、と指を鳴らして壁面を刺激するくらいしか出番がない。

 明るくなった洞窟内をアトラが素早く描き取っていく。

 その間、暇を持て余したクラウはヒルをいじめていた。

 魔爪を突き刺してケラケラ笑っている。

 アリを踏んで喜ぶ悪ガキの上位互換だ。

 下位互換とも言える。


「地図の作製ってどこまでやればいいんだ? この洞窟、一向に終わりが見えないが」


 俺は湿気にうんざりしながらアトラに問うた。

 アトラも面倒くさそうに答える。


「有益な鉱床を発見するまで、ですかねぇ。産業化の目途が立たないことには、ただの陰気な場所になっちゃうでござりましょう?」


 それもそうだ。

 金になるからこそ、冒険者たちはこの暗闇に命を懸けるのだ。


「温泉を掘り当てるまで終われませんってか」


 なかなかハードな企画だ。

 まあ、冒険者からすれば、これでも序の口なのだろう。

 ここは、町から日帰りで通える場所だ。

 今日終わらなければ、明日出直せばいい。

 でも、ロケ地が山奥だとこうはいかない。

 結果が出るまで何日も、あるいは、何週間も野宿。

 なんてこともありえるかもしれない。


 誰もこんな仕事したくないだろう。

 ロマンがなければな。


「んぅ、シオン、ねむい……」


 クラウが俺にまとわりついてきた。

 気のせいか、顔色が悪い。


「唇が青いですね。これは、魔力切れの症状でござる」


 アトラが眼鏡をスチャとさせて言う。

 魔力切れか。

 そういえば、初めて会ったときにも山賊相手に魔力切れをきたしていた。


「魔爪って魔力を喰うのか?」


「そのようですね。高出力の魔力刀ブレードを左右の手に5本ずつ、計10本ですからねぇ」


 効率が悪いということか。


「馬鹿だな、クラウは。どうして、2本爪とかにしない?」


 左右1本ずつなら、魔力の消費は5分の1になる。

 継続戦闘時間は5倍だ。

 単純計算だがな。


「だって、10本のほうが相手ぐちゃぐちゃにできるし」


 ろくでもない理由だった。

 でも、短期決戦なら合理的かもしれない。


「おんぶー」


 ぴょんと俺の背に飛び乗ると、クラウは、


「ふにゅー」


 などと、気持ちよさげに息を吐いた。

 自由人だな、お前。


 文字通りのお荷物となったクラウを背負い、洞窟を進む。

 最初にそれに気づいたのはクラウだった。


「あまい……」


 俺の耳たぶを甘噛みした直後の発言だったので、イカれた食レポかと思った。

 だが、クラウは鼻を高くしてヒクヒクさせていた。


「あまい匂いする」


「ほんとですねぇ」


 と、アトラも同意。

 たしかに、風に乗って甘い香りが漂ってきていた。

 熟しすぎた洋ナシのような匂いだ。


「あっち」


 クラウが指すほうに俺たちは進路を取った。

 ほどなく、小広い空間にたどり着く。

 地面には泥や骨のようなものが堆積していた。

 堆積物がランタンの光を反射してくれるおかげで床の形状はわかりやすい。


「上はどうだ?」


 俺はタン、と指を鳴らした

 だが、天井は光らなかった。

 足元だけがわずかに光り始める。


「妙に湿った音が返ってきたな……」


 天井や壁が一面コケで覆われているような、そんな水っぽい音。


「光量全開です」


 アトラがランタンを掲げると、天井に光が走った。

 天井いっぱいにぬらぬらした水のようなものが見える。

 時折、生きているみたいに波打っている。

 あれが、音を遮っていたらしい。


 ――にゅろり。


 水のようなものが透明な触手を伸ばしてきた。

 よしときゃいいのに、アトラが触手にツンと触る。

 そして、案の定というか、前のめりにぶっ倒れた。

 麻痺毒でも貰ったみたいに痙攣している。


「こ、これ、スライムでござるな……」


 アトラは泡を吹きながらそう言った。


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