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18 闇に潜むもの


 指パッチンで闇を光に変えながら洞窟を行く。

 アトラの地図作りは順調に進んだ。

 洞窟は迷路のように入り組んでいるが、俺は音の反射である程度奥行を知ることができる。

 ハズレの横穴を順々に潰していけば、おのずと正しい進路は明らかになった。


「ぜんぜん敵いない」


 前を行くクラウは退屈そうに足を振っている。

 暴れたいのだろう。


「アトラ、ダンジョンって魔物の巣窟なんだよな?」


「ええ。魔物は魔力の濃い場所を好みますからね」


「じゃあ、ここはダンジョンじゃないのか?」


「そうとも限らぬでござるよ。壁が湿っていますからね。おそらく、ここは雨が降るたびに水没するのでしょう」


「魔物も閉め出されるわけか」


 アトラは腰のポーチから試験管を取り出した。

 コルク栓を飛ばすと、中で揺れる試薬は紙片を浸すまでもなく変色した。


「ショッキング・ピンク……。この魔力濃度、間違いなくダンジョンですね」


 アトラのテンションが目に見えて上がる。


「今に闇の魔石以外の魔鉱石類が見つかりますよ。稀少なものが秋のキノコみたいに生え揃っているはずです!」


 赤亀竜の竜焔石もそうだが、濃度が濃いと魔力は結晶化するらしい。

 そして、それらは冒険者にとって何にも代えがたいお宝となる。


 俺は指を鳴らすのをやめた。

 周囲が黒一色に戻っていく。

 種類の違う魔石があれば、光を反射するはず。

 一目瞭然となるはずだ。


「シオン、あそこ、なんかあるー」


 クラウののんきな声で俺のテンションも爆上がりだ。

 たしかに、真っ黒な中に何か見える。

 見失うと面白くない。

 指は鳴らさず、すり足でにじり寄る。


「……」


 上がっていたテンションはしかし、冷や水をかけられたように冷たくなった。


 ――闇の中に屍が浮かんでいる。


 洞窟が光を吸収するからそう見えるだけだが、まるでライトアップされているみたいに際立って見えた。


 冒険者の亡骸だ。

 3人が折り重なるように倒れている。

 遭難者に相違あるまい。

 救出ならず、か。

 亡骸さえ持ち帰れば依頼としては成功だろう。

 でも、喜ぶ気にはならなかった。


「シオン、見て。しわしわー」


 クラウが場違いな声色で言う。

 たしかに、しわしわだ。

 冒険者の亡骸はどれも干からびた野菜のような有様だ。


「生き血でも吸われたみたいだな……」


 湿気の多い洞窟内だ。

 死後、数日が経っていたとしても、この状態は普通ではありえない。


 よく見ようと、俺は指を弾いた。

 タン、と洞窟内が震える。


「……っ」


 跳ね返ってきた音に違和感を覚えて、俺は顔を上げた。

 生っぽい音がした。

 真上からだ。

 見上げると、黒いものが天井から伸びてきていた。

 白く光る洞窟内にあって、こいつは黒いままだ。

 のっぺりとした形状で、ぬらぬらと光っている。

 つちゃ……、と音がして先端が開いた。

 その奥には白い歯が並び立っていた。


 咬まれる!!

 と、身を固めたところで、目の前を光る刃が横切った。

 クラウの魔爪だ。

 バシュウゥゥ、と音を立てて焼き切られたそれは、地面をのたうち回っていた。

 が、すぐに動かなくなる。


 アトラがランタンをかざして興味深そうに観察する。


「ヒルの魔物でござるな」


 ヒルの魔物か。

 吸血性なのだろう。

 冒険者の亡骸には星型の傷跡が残されている。

 ヒルの歯形と一致している。


「天井付近にぶら下がって、獲物が下を通るのを待つ。ダンジョンじゃ、そういうヒルは珍しくありません。でも、黒いのは初めて見ましたよ。暗響窟の固有種かもしれませんね。たぶん、毒もあります。えへへ……」


 レンズが光っている。

 ニチャアと歪んだ口が空恐ろしい。

 人型の血吸いヒルだな、と思った。


 俺は上を見た。

 つらら石が垂れ下がっている。

 この石に擬態していたのだろう。

 なかなか、狡猾な奴だ。


 注意深く見れば、大小無数のヒルが紛れているのがわかる。

 遭難者たちは真っ暗闇を散々さまよった挙句、こいつらの餌食になったのだ。


 俺たちは上に気を配りつつ、暗響窟の外に亡骸を運び出した。


「アンデッド化を避けるためにも、首の骨を折っておかねばなりません」


 アトラは面白がるような声で言った。

 だが、眼鏡の奥の目は色を失っている。


「いい。俺がやろう」


 首の後ろで指を鳴らす。

 骨を共振させ破壊すれば、亡骸をこれ以上傷つけずにすむ。


「優しいですね、クラウ殿の旦那様は」


「でも、人喰う」


「……ぇ」


 クラウがいらんことを言ったせいで、アトラにドン引きされた。

 悲しい。


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