17 闇の正体
俺たちは闇の中にいた。
一面真っ黒な空間だ。
完全なる黒。
何も見えない。
いや、見えるものもある。
自分の体と仲間の姿。
それは、はっきりと見える。
だが、周囲の様子はまったく見えない。
手の届くところに壁や天井、地面があるのは音の反響でわかる。
でも、見えない。
触れればゴツゴツとした岩肌は感じるのに、岩は見えない。
ツヤすらない純粋な黒が指の間に見えている。
宇宙空間にでも投げ出された気分だった。
『不思議なことに、自分と仲間の姿は見えるそうだ。なのに、周囲の様子だけがまったく見えないという』
リオトックもそう言っていた。
事前に聞いていても信じがたい光景だ。
来た道を振り返ると、薄ぼんやりと光が見える。
入り口だろう。
そして、出口でもある。
出られるとわかると自然と安堵感が湧いてきた。
「明かりを」
俺は目を回しているアトラに声をかけた。
「は、はいです!」
アトラがランタンのツマミを回して光量を上げる。
しかし、闇は闇のままそこにある。
相変わらず、ただただ真っ黒な空間が広がるだけだ。
何も見えなかった。
「まるで光が吸収されているみたいだな」
「シオン殿の見立ては、たぶん正しいですよ」
アトラが何かを拾って手のひらで転がした。
黒い何か……。
目をすがめても「黒」としか認識されない。
ゆえに、手のひらに穴があいているように見えた。
アトラは採石用の金づちで黒い何かを打った。
硬質な打音。
どうやら、石らしい。
「叩くと光るんだな」
金づちを振るうたびに手の中がぼんやりと白くなる。
「ええ。おそらく、これは闇の魔石でありましょうな」
アトラが言った。
「闇の魔石は、光を吸収する性質を持っているんです。で、衝撃を加えてやると溜め込んでいたものを吐き出すんですよ」
スポンジを握ると水が噴き出す、みたいな感じか?
「闇の魔石と光の魔石は表裏一体なんです。臨界まで光を溜め込んだ闇の魔石は光の魔石になります。逆もしかりですね」
なるほど。
勉強になった。
そして、俺は完全黒体という言葉を思い出した。
雲、海、山……。
景色が見えるのは、光の反射のおかげだ。
壁や天井が光をすべて吸収すると、反射はゼロになり、何も見えなくなる。
「つまり、この洞窟は闇の魔石でできているということか」
異様に肌寒く感じるのも赤外線をすべて吸収しているからだろう。
ただただ真っ黒な空間を音だけが長く反響している。
暗響窟とはよくいったものだ。
アトラは巻物の上でペンを迷わせている。
何も見えないとなると、書くこともままならない。
「先遣隊が遭難したのも納得だ」
「そうですねぇ。これでは、地面に穴があいていてもわからんでござるよ」
「ハだ……ッ!?」
うかつに動いたクラウがおでこを押さえてしゃがみ込んだ。
「ハぎゃ!?」
しゃがんだところに尖った岩があったらしい。
今度は尻を押さえて悶絶している。
「どこに何があるか、わからないな……」
砂でもまけば、足元は見えるようになるだろう。
だが、荷が増えるし、壁や天井までは見えない。
「シオン殿なら音の反響だけで周囲の様子がわかるのでは?」
アトラが期待の目で見つめてくる。
「もちろんだとも」
と、俺は得意げな声を響かせる。
細かく指を鳴らしていれば、周囲の状況は見ているようにわかる。
目をつむったまま音だけで森を走ることだってできるだろう。
要は、反響定位だ。
コウモリ男と呼んでくれ。
イルカ人間も可。
だが、俺だけ見えていても地図は描けない。
だから、こんなのはどうだ?
俺はタン、と独特な音を響かせた。
すると、真っ暗だった洞窟がぼんやりと輝き出した。
「なるほどです! 音で闇の魔石を刺激したのですね! そして、光らせたと!」
「まあ、そういうことだ。これなら、地図を描けるだろう?」
「いけます、いけます! さっすがシオン殿です!」
アトラはシュパパパパ、とペンを走らせた。
指を鳴らしてから10秒ほどは発光が続く。
たまにタンタンやっていれば、ランタンもいらないだろう。
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