16 暗響窟
「地図によると、ここみたいですね!」
たいですね……。
ですね……。
ね……。
アトラの調子ハズレな声が反響している。
俺たちの前には暗い洞窟がぽっかりと口を開けていた。
暗響窟の入り口だ。
町からは、そう離れていない。
洞窟があればすぐ見つかりそうなものだ。
それが最近まで発見されなかったのは、繁茂するアシが巧妙に入り口を隠していたからだろう。
足首まで水に浸かっている。
さっきはワニの魔物がチラッと見えた。
こんなところに好き好んでやってくる奴がいるはずもない。
むしろ、最初にここを見つけた奴はどうやって見つけたんだ?
謎だ。
「うーん、これはダンジョンで間違いなさそうでござるなぁ」
アトラは測量器具を使いもせずそう言う。
スペシャリストの勘か。
でもまあ、俺でもそう思う。
洞窟の奥から魔力を秘めた重い風が断続的に吹きつけてくる。
まるで、大地が息をしているみたいだ。
冒険者の3人くらい簡単に呑み込んでしまいそうな迫力がある。
「ところで、ダンジョンと普通の洞窟の違いは?」
ビビってませんよアピールも兼ねて、俺は平坦な声で尋ねた。
「ずばり、魔力濃度であります!」
アトラは試薬に浸した紙片を風にさらした。
「洞窟に限らず地下室なんかもそうですがね、地下って普通、地上より魔力が濃いんですよ。大地の魔力が染み出してきますからね」
それは、聞いたことがある。
だから、魔術師や錬金術師は何かと地下に研究室を作りたがる。
そのほうが、雰囲気が出るってのもありそうだが。
「ダンジョンは地下を流れる魔力の川と繋がっていますからね、ただの洞窟より断然魔力が濃いんでござるよ。――こんな具合にね!」
紙片が明るい桃色に変わった。
魔力に反応して色を変える薬品ってところか。
「あと何か所かで魔力濃度を測定して判断することになりましょう。拙者は調査に集中するんで、お二人は護衛と遭難者救助をお願いしますです!」
というわけで、いざ暗響窟へ。
中はすれ違うのもやっとなほど狭い。
いまさらだが、ギルマスは人選を失敗したと思う。
この狭い洞窟内で超音響魔法を使えばクラウたちを巻き込みかねない。
大規模な崩落が起きれば俺とて無事ではすまない。
ここでは、俺は無用の長物。
役立たずだ。
魔物が出たらどう戦おう?
いちおう、武器屋で短剣を購入しておいた。
だが、俺の実力だとパンを切り分ける以外に使い道はなさそうだ。
何か方法を考えておかないと。
その間、露払いはこいつに任せるか。
「クラウ、前衛は任せたぞ」
俺は小さな背中を叩いた。
「わかったー!」
ふんっ、と鼻息を荒くしてクラウは洞窟を闊歩する。
女子に危険なポジションを押し付ける男子か。
最低だな……。
狭い環境での戦い方を早急に考案する必要がありそうだ。
「へえ、うまいもんだな」
俺はアトラの手元を見てうなった。
巻物の上でペンを素早く動かし、洞窟の特徴を正確に描いている。
地図作りなんて初めて見た。
それも、ダンジョンの地図だ。
そうそう見られるものじゃない。
「拙者、これが本業にござれば」
アトラは事もなげに言う。
地図は平面。
洞窟は立体。
立体交差する道はどうやって描写するのだろう。
巻物を注意深く見ていると、薄い油紙を何枚も重ねていることに気づいた。
「縦方向への変位はページを変えて描くのか」
「おっ! さすがにいい目ですね、シオン殿は。そうなんす。光に透かせば層構造を把握しやすいんですよ。遺跡系のダンジョンなんかじゃ必須のテクでござるよ」
そんな話をしていたときだった。
俺たちは突然、闇に呑まれたのだった。




