15 音響魔法を超えた魔法
アトラは早口かつおしゃべりな冒険者だった。
川に沿って上流へと歩を進める間、セミの合唱と張り合うみたいに一人でしゃべり続けていた。
「5日前のあの日、警鐘を聞いた拙者は高鳴る衝動を抑えきれずに橋門前に走ったのです。戦力にならないことはわかっていましたが、大型魔物が町を踏み荒らすところなんて、そうそう見られませんからね。もう胸はドキドキで、自然と笑顔になっていましたよ!」
どうして笑顔になる?
と、ツッコミかけた。
だが、怪獣映画好きなら、そういうテンションにもなるかもしれない、と思った。
ちなみに今、クラウは俺の手を握り、川の流れるを見つめている。
こうしていると、美少女と手繋ぎデートしている気分になる。
だが、こいつは、美少女は美少女でも、狂犬美少女だ。
つい先刻までロックたちを嬉々としてサンドバッグにしていた。
恐ろしい奴なのだ。
「そして、迫りくる怪獣の前に一人の少年が立ち塞がったのです。誰あろう、そう、シオン殿ですよ! 拙者、あの蛮勇には胸打たれましたよ。その直後、本当に胸を打たれたんですがね。強烈な衝撃に!」
アトラはレンズの奥で目を煌めかせた。
「シオン殿を中心に白い球面波が広がるのをたしかに見ました。あれは、超音速で伝わる圧力波が空気中の水分を凝結させることによって生じる一種の雲なんですよね!? そういう意味では、音波というより爆轟です! シオン殿の指パッチンには爆薬庫いっぱいの高性能爆薬にすら匹敵しうるエネルギーが秘められているのです!」
力説された。
俺の感想は、こうだ。
唾を散らすな。
以上。
……いや、でも、少しばかり興味が出てきた。
アトラは博識そうだし、訊いてみるか。
「俺の指パッチンって魔法なんだよな?」
単純な筋力による打音では、ああはならないだろう。
だから、魔法なのだと思っている。
でも、俺には学がない。
魔法というものをまったく理解していない。
魔力と引き換えに行使する超能力みたいな認識だ。
アトラはこくりと頷いた。
「明らかに魔法です。それも、固有魔法でありましょう。世界でシオン殿にしかできない特別な魔法にござれば」
固有魔法か。
世界に俺だけと言われても実感はない。
ただ、俺みたいな奴は一人でいいと思っている。
倒壊する家屋とミンチになるドラゴンが少なくてすむからな。
泣き土下座するノーエンの姿を思い出した。
可哀想に。
今度、高い酒でも送ってやろう。
残暑見舞いだ。
「分類するならば、音響魔法になりましょうな」
アトラは青い葉をちぎって、ピュー、と草笛を吹いた。
「音響魔法とは、空気の振動に魔力を乗せる魔法の総称です。有名どころで言えば、眠鳴鳥の眠り歌などが挙げられましょうか」
俺がロックたちに使用した高周波音もある意味、眠り歌だ。
気絶歌のほうが正確だが。
「しかし、シオン殿の魔法は、単なる音響魔法の域に留まらないのでござる」
「超音速、か」
「しかりです。衝撃波による物理的破壊は、音を超えた音のなせる技です。音の壁を超えられない音響魔法とは、明らかに一線を画すもの。名づけるならば、そう……『超音響魔法』などいかがでしょう?」
ふむ、と俺はうなった。
特技:超音響魔法――。
悪くない。
特技:指パッチンよりずっといい。
具体的に言うと、あれだ。
カッコイイ。
アトラは俺の顔を覗き込んでニヤニヤした。
「では、今日からシオン殿は、超音響魔法の使い手ですね。『衝撃波使いのシオン』――。くふふ、なんだか胸がうずきますね!」
この場合、うずくのは左眼だろう。
まだまだだな、アトラは。




