14 スペシャリスト
「あたしもいく! 嫁だから!」
ギルマスの部屋を出たところでクラウが名乗りを上げた。
茶菓子で汚れた口元がだらしない。
でも、頼りにはなる。
ダンジョンなんて初めてだから戦力は多いほどいい。
嫁にする気はないが、用心棒にはしてやろう。
よし、ついてきなさい。
ロビーに下りると、ツアミたち受付嬢が出待ちしていた。
「シオン様、すごいです! 冒険者になったばかりなのにギルマス案件を受けられるなんて。素敵です!」
キャーキャーワーワーと散々もてはやしながら、冒険者手帳の依頼歴欄に依頼内容を書き込んでくれた。
『種別:調査』
『内容:ピアニ郊外・暗響窟における地図作製と遭難者救助』
――と、ある。
ここに依頼成功の印を貰えればよし。
しかし、失敗の烙印を押されれば失望もさぞかし大きかろう。
指パッチン1発で築いた栄光だ。
崩れるときはあっという間だろう。
気を引き締めていこう。
「ケッ、いいご身分だな。女連れでギルマス案件かよ」
ロック・デナーとチョイ悪風の仲間たちが胡乱な目で睨んでくる。
「知ってるか? 出る杭ってのは打たれるもんなんだぜ?」
「どういう意味だ?」
「お前の足を引っ張りたがる奴がいるかもな、ってことだ。今度の依頼、うまくいけばいいなぁ」
ロックたちは、くくく、と不敵に笑って引き上げていった。
要するに、宣戦布告だ。
俺の足を引っ張ったところで自分の境遇が好転するわけでもないだろうに。
暇人め。
「クラウ、次に奴らを見たら……わかっているな?」
「わかってるー」
バキバキ、ゴキッ、とクラウの細指がえげつない音を立てた。
おー、こわ。
出発準備を整えて、東の橋門前広場に向かう。
リオトックの言っていたスペシャリストとは、ここで落ち合うことになっている。
「シオン殿ー! 大変お待たせしましたぁー!」
瓶底メガネをかけた女が大手を振って駆けてくる。
大きな背嚢を背負って、体のあちこちに測量器具らしきものをぶら下げている。
そいつは、俺たちの目の前で派手に転んだ。
ヘッドスライディングみたいに滑り込んできて、
「てへへっ!」
と、笑う。
なんともベタな登場シーンだ。
天然キャラなのかな?
女は、ずびゃっ、と跳び起きて敬礼した。
「拙者、名をアトラ・スイノーと申します。A級冒険者で、ジョブは地図師であります。ギルマス殿の紹介でまかり越しました。シオン殿、こたびは、よろしくお願いしまっす!」
この独特の早口……。
落ち着きのなさ。
なんというか、前の世界ならばアニヲタをしていそうな人だった。
ヲタは得てして博識だ。
対して、駆け出しの俺は無知そのもの。
胸を借りる気でいこう。
「シオン・フォルツァートだ。こっちはペットのクラウ」
「……ペット? シオンのペット」
怒ると思ったが、クラウは満更でもない様子だ。
軽く頬を染めながら内股でもじもじしている。
変態め。
「自己紹介なんかいりませんぞ。なんせシオン殿は町一番の有名人ですからな。指パッチンで赤亀竜を粉微塵にしたところ、拙者も見ておりました! ご一緒できるなんて夢みたいですハイ!」
アトラはレンズの奥で目をぱちくりさせた。
「あの凶暴極まりない狂狼族さえ従えた新進気鋭の指パッチン少年! ほぉー! 近くで見ると、意外や意外! 普通の男の子ですなー!」
角度を変えながら興味深そうに俺を観察している。
分厚いレンズで目元が歪んで見えるが、目鼻立ちははっきりしている。
陰で残念美人と呼ばれているに違いない。
それでも、ギルマスにスペシャリストと太鼓判を押されるくらいだ。
優秀な冒険者なのだろう。
「おおっとぉ! こうしている場合ではござりませんな! 拙者らの助けを欲している人がおりましょう。続きは歩きながら話すとしましょうぞ!」
ということで、東の橋を渡る。
暗響窟があるのは川の上流方面らしい。
「おっ、来たぜ。ロック」
「あの指パ野郎だ」
町を出て5分と歩かぬうちに、茂みの中からそんな声が聞こえてきた。
声を殺しているから女子二人は気づいていない。
だが、俺の耳は欺けない。
どうやら布告の通り、奴らは戦端を開くつもりらしい。
「野郎ども、顔を隠したか?」
ロックの声も聞こえた。
「おうよ」
「いつでもいけるぜ?」
「野盗に見せかけてボコボコ作戦、ケケ。楽しみだぜ」
「タコ殴りにしてから素っ裸にしてやれ」
「よし、1、2の3でいくぞ!」
アホめ。
作戦丸聞こえだ。
俺はため息をついて言った。
「二人とも耳を塞いでおいてくれ」
「わかったー」
頭の三角耳を押さえたクラウがちょっと可愛かった。
「1、2の……」
と、茂みのほうから聞こえてくる。
俺は指をセットした。
「さんっ!」
馬鹿どもが飛び出して来た瞬間、キィィィィンンと高い音が響く。
高周波攻撃だ。
目出し帽の男らが白目を剥いて卒倒。
カニみたいに泡を吹き、全身を痙攣させている。
白い影がサッとロックに飛び乗る。
固く握られた拳が隕石のように落下した。
そして、バキ、ボコ、ガス――ッ!!
馬乗りになったクラウがロックをタコ殴りにした。
「おい、クラウ。敵さん、もう気絶しているんだが」
「関係ない。殴りたいと思ったときは殴るべし」
「それも族長の教えか?」
「ううん。一族のおきて。だから、殴る」
バガッ、ドスッ、ゴガ――ッ!!
血みどろの金科玉条を掲げた恐るべき一族、狂狼族か。
こいつらとだけは喧嘩したくないな。
「で、アトラは何をしているんだ?」
俺は視線を下にした。
アトラは、耳を塞げと言った俺の忠告を無視し、あろうことか、高周波攻撃の射角に自ら飛び込んだ。
結果、ぶっ倒れて悶絶している。
「わ、わだ……話題のシオン殿の指パッチンを肌身で感じてみたくて、ですね……。こ、好奇心に負けました。うぐぐ、よしとけばよかったで、す……」
アトラは盛大に嘔吐した。
好奇心旺盛というか、毒キノコがあったら、とりあえず食べてみるタイプなのだろう。
それでも、気絶まで至っていないのだから、さすがはAランカーである。
さあ、先を急ごう。
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