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13 ギルマスの依頼


 冒険者ギルド最上階。

 俺が通されたその部屋はずいぶんと見晴らしがよかった。

 中州にあるピアニの街並みを一望できる。

 川の分岐点と合流点、そして、東西にかかる橋を一挙に見渡すことができるのだ。

 冒険者ギルドはピアニ防衛の要。

 そのトップの部屋となると、物見やぐら的な意味もあるのかもしれない。


「景色がいいですね。窓もありませんし」


「君のおかげでね」


「は、はは……」


 部屋の主――ギルドマスターのリオトック氏は執務机に腰かけていた。

 気の弱そうな壮年の男だ。

 荒くれ者たちの長には見えない。

 理を説いて従わせるタイプなのだろう。

 受勲式のときに顔を会わせているから、いまさら挨拶はいらなかった。


 リオトックは応接用のソファーに座り直して、向かい側にかけるよう俺に促した。

 遠慮がちに座る俺。

 ……に遠慮なく、しなだれかかるクラウ。

 肩に頬を預け、内ももをサスサス……。

 耳に、はぁ、と熱い息をかけてきた。

 ぞわっとする。

 これで酒でも出ればキャバクラだ。


「すみません、うちの犬が……」


「いいよ。狂狼族だからね。おとなしく座っているだけで物珍しい光景だ」


 たしかに、おとなしく座る狂戦士というのはイメージが湧かない。

 おとなしくないから狂戦士なのだ。

 いいな、犬は。

 おすわりしているだけで褒められて。

 まあ、俺も指パッチンしただけで勲章ものだがね。


「それで、急ぎの御用というのは?」


 俺は紅茶が出されるのを待って切り出した。


「ああ、君に頼みたい依頼があってね。依頼種別としては調査依頼になるんだが」


 依頼種別は、『討伐』『護衛』『採集』『調査』『救助』『緊急』の6種類に分類される。

 討伐依頼は、読んで字のごとく魔物の討伐が主内容だ。

 護衛は、行商人や貴人の警護。

 採集は、薬草や鉱石類の収集。

 調査は、討伐対象の下見やダンジョンのマッピング(まれに、浮気調査も)。

 救助は、遭難した冒険者の保護がその目的となる。


 緊急依頼だけは変わり種だ。

 ギルマスが緊急性アリと判断すれば、なんでも緊急依頼になる。

 そして、拒否権はない。

 依頼というより出撃命令だ。

 命じられたら死地と知りつつも挑まねばならない。


 俺は内心ホッとした。

 調査依頼はどちらかと言うと下位の冒険者の仕事だ。

 おい、ドラゴンの群れぶっ殺して来いよ、みたいな無茶ぶりにはならないだろう。


「いやいや、すまないと思っているんだ。君ほどの実力者に調査依頼を頼むなんてね」


 リオトックは心底申し訳なさそうな顔をしている。


「滅相もない。俺なんて駆け出しのペーペーですから」


 俺は謙遜とかではなく本心を述べる。

 名誉も勲章もスリルもいらない。

 命もかけたくない。

 安全第一だ。

 それこそ、浮気調査を専業にしたいくらいだ。

 ホテル内のみだらな駆け引きだって俺の耳にかかれば丸裸だ。

 浮気調査こそが俺の天職かもしれない。


「知りたいのは奥さんの浮気相手ですか? それとも、娘さんの交際相手?」


 どっちでもないよ、とリオトックは苦笑する。


「実は先日、町のそばで洞窟が見つかってね。ダンジョンかもしれないと私は期待を寄せているんだ」


 ダンジョンというと、地底を流れる魔力の噴出口だ。

 濃い魔力で満たされた迷宮内には多くの資源が眠っている。

 前世で言えば、金山や油田だ。


「先遣調査隊の報告をもとに、私はその洞窟を『暗響窟』と名付けた。シオン君、君には暗響窟の全容を調査してもらいたいんだ」


「調査はその先遣調査隊とやらがしたのでは?」


「いや、それが途中で遭難しちゃったみたいでね。送り込んだ5名の冒険者のうち、無事戻ってきたのは2人だけだったよ」


 リオトックは眉間にしわを寄せた。

 釣られて俺も同じ顔をする。

 そんなところに潜れと?

 不安だ……。


「生還した冒険者の報告によると、暗響窟の中に入ると、なぜか周囲が見えなくなるそうだ。真っ黒な空間に投げ出されて、右も左もわからなくなったと言っていた」


「真っ黒な空間、ですか」


「ああ。不思議なことに、自分と仲間の姿は見えるそうだ。なのに、周囲の様子だけがまったく見えないという」


 想像してみたが、ピンとこなかった。

 しかし、その暗黒空間が3名もの冒険者を呑み込んだまま帰さない。

 腕に鳥肌が立った。

 俺はグロ耐性こそあるが、ホラーは苦手だ。

 我関せずで茶菓子を犬食いしているクラウが羨ましい。

 こいつは、グロもホラーもどっちもイケる口なのだろう。


「君に依頼したいのは3点。遭難者の捜索・救助と、暗響窟の地図作製マッピング。そして、ダンジョンであるか否かの判断だ」


 リオトックは人差し指から順番に指を立てていった。

 遭難者の救助はわかった。

 だが、マップ作りとダンジョンの可否判断はノウハウがない。

 どうすればいいんだ?


 首をかしげていると、リオトックは言った。


「調査依頼のスペシャリストを私のほうで用意している。ただ、彼女は非力だから、君のほうで護衛してやってくれ」


 そういう意味では護衛依頼でもあるのか。

 そして、遭難者を救い出す救助依頼でもある。

 こういう場合、依頼種別はどうなるのだろう?

 まあ、なんでもいいか。


「ちなみに、この話、断るとどうなるんです?」


 俺は控えめに問うた。

 先遣隊が遭難しているところにわざわざ足を踏み入れたくありません、と目で訴える。

 すると、リオトックは立ち上がり、割れた窓の前で伸びをした。


「ああ、今日は風が気持ちいいな。町じゅうの窓代はギルドで負担することになったが、そんな悩みもどこかに吹き飛んでしまいそうだ」


 チラッ。

 これみよがしに俺を見る。

 いや、本当に申し訳ない。


「引き受けてくれるね?」


「ええ。喜んで」


 と、言わざるを得ないだろう。

 嫌だけどな。


「いやぁ、よかったよかった。ピアニ一番の冒険者である君に頼めばうまくいったも同然だ。帰りを心待ちにしているよ」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、プレッシャーをかけてくるリオトックであった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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