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10 鮮烈なるデビュー戦


 東の橋の周りには人だかりができていた。

 町じゅうから冒険者たちが集まっているらしい。

 川岸に並んで、橋の向こうを眺めている。

 火球が空に上がったのが見えた。

 火の魔法だ。

 対岸ではすでに戦闘が始まっているらしい。


「シオン! ここじゃ蚊帳の外。橋わたろ?」


 と、クラウが俺の手を引く。

 遊園地に来た小さい子みたいで可愛い。

 でも、その目に宿るのは狂気だ。

 爪の先では早くもスパークが飛び散っている。


「お前一人で行け。誰も止めないからさ」


「夫婦のきょーどー作業!」


「夫婦じゃないからな。付き合う義理なし」


 オオオオオオッ、と咆哮が轟いた。

 木々を薙ぎ倒して現れたのは、巨大な竜だった。

 赤い鱗に覆われた翼竜。

 背中の甲殻が発達し、さながら亀のようにも見える。


赤亀せっき竜か」


 ツアミたち受付嬢が話していた討伐対象に相違あるまい。

 1台の馬車が追われている。

 乗っているのは、冒険者たちだ。

 討伐に行ったというB級冒険者たちだろう。

 赤亀竜の右の翼には大穴があいている。

 おおかた、仕留め損なって逃げて来たってところか。


「放て――ッ!!」


 橋門警備の衛兵が叫んだ。

 城壁設置型の大型連弩バリスタが、がきゅん、とすごい音を立てる。

 槍ほどもある矢が空に弧を描いた。

 狙いは正確。

 だが、硬い背甲に弾かれた。

 赤亀竜の勢いは衰えなかった。


「お、おい馬鹿……! 止まれ!」


「そこの馬車、ストォップ! 止まれ止まれ!」


 橋向こうにいた冒険者たちが半狂乱で叫ぶ。

 しかし、馬車はそのまま橋に進入した。

 すると、それを追いかけて赤亀竜も来るわけで……。

 対岸に布陣していた冒険者たちは恐慌状態に陥った。


 赤亀竜は巨体に物を言わせて陣形中央に突っ込んだ。

 大きな鼻にカチ上げられた冒険者が宙を舞い、水面で水柱を上げた。

 赤亀竜の胸が膨らんだかと思うと、火炎が橋の上を列車のように駆け抜けた。

 火だるまになった冒険者たちが川に飛び込んでいく。

 陣形は総崩れ。

 悲鳴と怒号が重なる。

 こちら側に布陣する冒険者たちも顔面蒼白だった。


 そんな中、クラウだけはイキイキとしていた。

 血風吹きすさぶ戦いを目にして頬を染めている。

 自分も加わりたいって顔だ。

 冗談じゃない。

 喧嘩もそうだが、眺めているのが一番面白いのだ。


「橋を上げろ!」


 誰かがそう叫んだ。

 本来は水車で引くロープを冒険者たちが人力で引っ張り始めた。

 馬車がちゃっかり渡り終えたところで、跳ね上げ橋が上を向く。


 赤亀竜は片翼を傷めている。

 足を止めるかと期待した。

 だが、そこは空の王者だ。

 たっぷりと助走をつけ、片翼で羽ばたくと、跳ね上げ橋の裏側に取り付いた。

 爪を立ててよじ登っている。

 遥か高みから爛々とした目が見下ろすと、冒険者たちは完全に肝を潰したらしかった。

 陣形の半分が瓦解する。


 木造の跳ね上げ部分が竜の重みで砕け、束の間の静寂が破られた。

 赤亀竜が来る。


 もし、あれが町に入り込めば最悪だ。

 翼が傷ついているから自力では出ていけない。

 赤亀竜は力尽きるまで暴れ続けるだろう。

 東の橋は跳ね上げ部分が落ちた。

 もう使えない。

 西の橋に町の人々が殺到する。

 押し合いへし合いで群衆事故が発生。

 そこに、襲いかかる巨大な竜。

 火事が起これば、町のどこにも逃げ場はなくなる。

 想像するだに恐ろしい。


「シオン、きょーどー作業!」


 クラウの表情は真剣そのものだ。

 今後に待ち受ける地獄を理解しているとは思えないが、肌身で感じるものがあるのだろう。


「わかった」


 俺は逃げ出す冒険者たちの間を縫って前に出た。


「だが、共同作業はまたの機会にしよう。ここは、俺一人で十分だ」


 というか、人がいたら邪魔だ。

 巻き込むことになるからな。


「シオン、かっこいいっ!」


 クラウはキャッキャしている。

 のんきな奴め。

 俺もその図太さを見習うことにした。

 指をセットして、正眼に構える。


「おい、お前! 逃げねえと潰されちまうぞ……!」


「もうこの町は終わりだ! 戦っても意味ねえよ!」


「無駄死にする気か!?」


 と、逃げていく冒険者が口々に言う。


「ギャハハ! あいつぁ、ついさっき冒険者になった新米のペーペーよ! 特技は指パッチンだと! 右も左もわかんねーもんだから、イケるとか思ってんだよギャハハ!」


 ロックの馬鹿笑いも聞こえてきた。


「おーい、指パッチンじゃビビらせることもできねえぞ! 相手は危険度Aのバケモンだかんなぁ! ギャハハ!」


「どうだろうな」


 暴走列車みたいに突っ込んでくる赤亀竜に向かって、俺は指を弾いた。

 ごん、と空が震える。

 指を中心に白い球面波が広がった。

 指向性音波で、周波数も調整した。

 それでも、町じゅうの窓が割れる程度の被害は出るかもしれない。

 なんせ、これは俺の本気だ。


 衝撃波が橋の上を突き抜ける。

 直撃を食らった赤亀竜の体が、元の3倍以上の大きさに膨れ上がった。

 そして、大爆発した。

 真っ赤な血肉が土石流みたいに押し寄せてくる。

 ところどころ見えている白いのは骨だろう。

 生臭い風が吹きつけて俺は息を止めた。


 足元でカラン、と音。

 赤い結晶石が転がっていた。

 ルビー製の金平糖といった見た目だ。

 持ち上げてみると、熱を感じた。

 見るからに高そう。

 サッとポケットにしまって、俺は静まり返った橋門前を振り向いた。


「ゆ、指パッチンで……ほ、ほんとにやりやがった……」


 ロックがそうつぶやき、


「「ええええええええええええええええええええええええ」」


 と、冒険者一同が声を揃える。

 俺も驚いている。

 なんとなく、できる気はした。

 でも、本当にできてしまった。

 絶対に極めたな、これ。

 指パッチン。


 クラウが俺に飛びついてきた。

 頬ずりしてから俺を見上げて、


「やっぱりシオン、すごい。結婚しなきゃ」


 などと世迷い言を言う。

 なんの使命感だ、それは。

 俺は近づいてくるキス顔をググイと押しのけるのだった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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