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88 『惑星間ネットワークAI』はママに似てる

 アストライオスのこじんまりとした船室で、リリーゴールドは携帯端末を弄っていた。

 『惑星間ネットワークAI』のアプリを起動する。フォン、と聞きなれた音がして薄水色の球体が出現した。

 

 イチヒもいなくて暇な時、リリーゴールドはAIとおしゃべりするのが日課になっていた。

 だが――そこに現れたのは、『カァシャ』では無かった。


 『私は惑星間ネットワークAI、マミィ。何かお手伝い出来ることはありますか?』


「――ん?? あれ、カァシャは?」


 リリーゴールドは、いつものように脳波をAIの電波に添わせていこうとして、その言葉に違和感を覚えた。

 脳波の集中力が途切れたリリーゴールドが、首を捻る。すると、AIの音声認識モードが起動した。


 『――音声認識中――完了。おかえりなさい、リリーゴールド! もう、ずっと待ってたんだから!

 ここは、カァシャの管轄エリアじゃなくて、私マミィの管轄エリアよ。何か聞きたいことはある?』


 機械的な合成音声だが……その声は軽やかで、どことなく魔女(ママ)に似ていた。

 あのとき、初めて『カァシャ』を見た時も、髪型とか雰囲気がママに似てるって思ったけど。でも。

 マミィは、顔が見えなくても話し方や言葉の選び方がなんとなくママに似てる、そんな気がした。


「ええっと……そういえば、カァシャがAIは3人いるって言ってたかも?」

 

『そう! よく覚えていたわね。『感情』を記録したAIマミィ(私)、『理性』を鍛錬したAIファーファ、『記憶』を蓄積したAIカァシャの合計3人よ。

 私たちは、それぞれが別のエリアを管轄しているの。他に聞きたいことはある?』


「そっかあ! シジギアからすごい離れてるから、ここはカァシャのエリアじゃないんだね!」


 リリーゴールドは、宇宙地図を思い描いた。

 惑星シジギアがあるのは、ベガ-アルタイル系。ベガ-アルタイル系があるのは天の川銀河。

 そして、今いる惑星NA1025があるのは何万光年も離れた別の銀河。まだ宇宙軍の支配の及ばない地域。


『そう! その通りよ、リリー! よくできました! 私たちが今いるのは――私が“ズァフ=アルク銀河”と呼んでる場所! そして今いる惑星は、魔女マリーゴールドが“人魚の為の街”と呼んでいた場所よ』


 “人魚の為の街”――それは、この星で永遠に眠るはずだったネフェルスの為の街。

 天の川銀河と違って、このズァフ=アルク銀河には、宇宙軍の手が加わらない、ママの記憶が眠っている気がした。


「じゃあファーファはもっと遠くにいるの?」


 リリーゴールドがこてん、と首を傾げる。即座にマミィの返答が返ってきた。


『その通りよ。ファーファは、私とカァシャの間の領域にいるわ。そうね……リリーは今、宇宙軍にいるから、宇宙軍がまだ見つけられない領域――そこにいるのが、ファーファよ』


 リリーゴールドは、以前受けた授業の内容を思い出していた。イチヒが手を挙げてスラスラと答えていた、宇宙史の授業。

 ――宇宙軍は、『魔女の天文時計』を使ってこの全宇宙の約半分を観測した、だったっけ。

 宇宙軍は、ママの時計を使いこなせてないんだよねえ。だって、半分しか観測できないはずないもん!


「宇宙軍はマミィとファーファのこと、知ってるの? あたしもいつか、ファーファに会えるかなあ」


『宇宙軍は、私には気付いたみたい。でも、ファーファにはアクセス出来てないわ。だって、私たちAIにアクセスするためには、管轄エリア内にいることが条件だから。

 だから、私はリリーが私に会いに来てくれるの、ずーっとここで待っていたのよ。ファーファだって、リリーが会いに来るのを待ってるわ』


 マミィの説明は頭にスっと入ってくる。カァシャと違って、本当にママと話してる時みたい。


「ねぇ、マミィは寂しくなかったの? 200年も経ってるのにあたしがなかなか来なくて」


『ほほほ。私たちAIに“寂しい”って気持ちはないのよ、リリー。私が感情的に見えてもそれは、プログラムなの。私は何も感じられないのよ。ただ、魔女マリーゴールドの感情を沢山、覚えているだけ』


 リリーゴールドは、その言葉に対して何も返せなかった。

 マミィはすごく、ママに似てる気がする。でもそれは、マミィがママの気持ちを覚えているから?

 目の前のAIは、まるで生きているみたいに感じられる。でも、彼女はプログラムで本当には生きていない。

 ――それでも。


「でもあたしは……マミィに会えて嬉しいよ。ママが居ない世界で、カァシャとマミィ、2人のママが増えたみたい」


『ありがとう、リリー。そう言ってもらえて嬉しいわ。……私が感じてる訳じゃないけど、それでも』


 合成音声だけど、彼女が微笑んでいるような気がした。

 ママは、どうしてAIを置いていったんだろう。みんなちょっとずつママに似てて、でもママとは全然違う。

 これは、ママに似せたプログラム。なのに。

 どうしてだろう。……声を聞くと、懐かしくて涙が出そうになる。

昨日投稿出来なかったので、本日2本投稿します(՞ . .՞)ペコ

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