85 『クリスタルスカル』は『オーパーツ』か?
サフィールたちが地上に向けて出発しようとしていた時だった。
とんでもない地響きがして、古代都市全体が大きく震えた。
「何?! ネフェルス、わかる?」
《わかんない!! なんか……なんか攻撃されてるかも、外から!》
その言葉を聞いたサフィールが、石畳を走り出す。
慌てて古代都市の広間まで抜けると――そこには、ぽっかりと空いた地下都市の天井の大穴から、白銀色のピラミッドに似た巨大な空母、アストライオスが浮かんでいるのが見えた。
アストライオスの大砲がこちらを向いている。さっきのは、アストライオスの砲撃だったのだろう。
「――リリーゴールド?! 今回は、来ないはずじゃ……?!」
サフィールが上を向いて驚愕していた時、セルペンス中佐が駆け寄ってきた。
「良かった……! 無事だったのですね!」
サフィールの後ろを駆けてくる大隊隊員たちを見て、セルペンス中佐の緊張した顔がほころんだ。
「エレイオス訓練兵、よくやりましたね。全員の救助に成功したのですね」
「えっと……それは、話すと長いのですが……」
「無線に返事が無くなったので、君までガーディアンロボットにやられたのかと思っていました。……本当に、よく戻ってきてくれました」
セルペンス中佐の声に、胸の奥からの深い安堵がにじむ。
彼は自らが指揮官として部下を危険に晒したことへの重圧から解放されたように、サフィールの肩を抱き寄せると、労うようにポンポンと叩いた。
「サフィール!! 無事だったんだね!!」
アストライオスのハッチが開き、リリーゴールドが飛び降りてくる。砂埃を立ててドンッと着地すると、こちらに向かって走りだした。
だが、サフィールの視線は彼女ではなく――彼女の右肩の辺りに浮遊している『クリスタルスカル』に釘付けになっていた。
「リリーゴールド! ……その、輝く骸骨は……」
「あっ、コレ? これはねぇ――」
《我が名はセトである!》
リリーゴールドが説明する前に、その骸骨が喋った。鼓膜ではなく脳で聞こえるような、不思議な声は音程こそ違うがネフェルスによく似ていた。
ネフェルスよりひとまわり大きい骸骨は、彼女と同じように透き通って輝く。
すると、サフィールの後ろからネフェルスのクリスタルスカルがピュッと飛び出していった。
《セトちじゃない?! ねぇ、わかる?! ウチ、ネフェルスだよ!》
《なに?! ネフェルス、お前も4次元に帰っていなかったのか!》
《うん! ウチ、絶対4次元で意味もなく不死なのはまじ無理だったんだよね! てかセトちは、帰ったんだと思ってたよー!》
《こんな最高傑作の空母を置いて帰るなどできん!》
クリスタルスカル同士が会話していた。
それを、セルペンス中佐が信じられないと言った顔で見つめている。いつも冷静な彼が、やたらと瞬きを繰り返していた。
「エレイオス訓練兵……これは……」
「イエス・サー。これがぼくたちが探していたオーパーツのはずだったものです。
見ての通り彼らは――“喋る遺体”です」
サフィールは肩を竦めて言った。
その時、カヴァーレ少尉が慰めるような顔で語り始める。
「気持ち、分かるっすよ。副隊長。
伝説の『クリスタルスカル』に出逢えたと思ったら、オーパーツ……魔法具ですらなく、こんな愉快な喋る骸骨だったなんてロマンが打ち砕かれた……ってことっすよね?」
「いえ違いますが。オカルトオタクの君と同じにしないでください。ところでこれ、AIの拡張デバイスなどではないんですね?」
セルペンス中佐の質問に答えたのは、空中を飛んで滑り込んできたクリスタルスカル本人だった。
《小童! 不敬だぞ! セトはAIではなく、『軍神』の名を抱く4次元のセト本人である!》
「……4次元? 何の話ですか?」
セルペンス中佐が片眉をつり上げる。
そこでハッとして、サフィールとリリーゴールドは顔を見合せた。
――宇宙軍は、『魔法』や『魔女』の核心をまだ知らないんだ!
2人がなんと答えるべきか、悩んでいた時だった。
隊員たちの持つ無線が一斉に隊長の声を拾う。
『こちらグラヴィアス。
無事援軍と合流できたか? 行方不明者の救出は可能か? ――どうぞ』
『こちらセルペンス。
援軍のアストライオスとは合流済み。行方不明だったカヴァーレ少尉、モラレス軍曹、クライ少尉も救出済みです。オーパーツに関しては――回収済みですが、報告があります。まずは本隊は調査船へ帰還します。
――どうぞ』
セルペンス中佐は無線にそう答えてから、クリスタルスカルたちに向き直った。
「我々と一緒に来ていただけますね? 確認したいことが山ほどあります」




