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83 『クリスタルスカル』が、イチヒに張り合ってくる件

『こちら、“調査船銀蜻蛉6500”操縦士のアスタリオ。空母アストライオス、聞こえるか?

 ――どうぞ』


 空母アストライオスの中で、探検に興じていたリリーゴールドとイチヒの元に、緊迫した無線が届いた。


「“調査船銀蜻蛉6500”? それって確か、サフィールたちが乗ってる船だよな?!」

「なんかやばい気がする! イチヒ、早く返事しなきゃ!」

「いやお前が艦長だろうが! お前が返事しろや!」

「そうだけどさあ! この状態見てよお、出られないよお」

「……確かにな……」


 イチヒは後ろを振り向く。リリーゴールドは、とてもじゃないが無線機に向かって冷静に喋れる状況じゃない。

 仕方がない。イチヒは、リリーゴールドの代わりに、持ち込みの惑星間通信無線のスイッチを押した。


 『こちら空母アストライオスのイチヒ。

 聞こえます。――どうぞ』


 やや間が空いてから、グラヴィアス大佐の声が響いてくる。その声音は、イチヒたちの想像を遥かに超えて緊迫したものだった。 


『こちらグラヴィアス!

 緊急命令だ。空母アストライオスはこれより、銀葬先鋒隊(ガラクス・セパルト)『魔女オーパーツ回収作戦』の戦闘応援に向かえ! 場所は、惑星“NA1025”!

 繰り返す。

 空母アストライオスは、惑星NA1025へ戦闘応援に駆けつけよ!

 ――どうぞ』


 無線を聞くやいなや、イチヒは振り向いて叫んだ。相変わらずリリーゴールドは、最初の場所から1ミリも動いていない。

 

「きいたか?! リリー!!」

「聞こえてはいる!! イチヒ、全速力で発進しよう!!」

「OK!」


 艦長の返事を聞いて、イチヒが無線機に向き直る。

 

『こちらイチヒ。

 了解しました。本艦はこれより、惑星NA1025へ向かいます。――以上』




「で、操縦はできそうか? アストライオス艦長さん」


 イチヒが仁王立ちしながらリリーゴールドと、彼女にまとわりつく“それ”を見下ろす。

 最初こそ“それ”に恐怖を感じていたが、今はもうちょっとしたお荷物扱いである。


《なんだと小娘! それはこのセトに向けて言った言葉か?! なんだか皮肉を察知したぞ?!》


 “それ”が喋った。

 それ――クリスタルスカルは、ふよふよと頭蓋骨だけで喋りながら、発見してからずっとリリーゴールドの周りをうろついているのだ。


「セト〜違うよお、今は艦長はあたし!」

《おっとそうであったな、これはセトうっかり。

 よーし、セトがリリーに操縦のイロハを教えてしんぜよう!》

「割と真剣に急いでるからふざけるのは無しだからな!!」

《うるさい小娘! ちょっとリリーと早く出会って、ちょっとリリーと信じあって、ちょっとリリーと仲が良いからって調子に乗るでないわ!》

「それってちょっとと言いつつ、私とリリーの絆を褒めてるようにしか聞こえないな」

《キィ!! 小癪な小娘が!!!!》


 あたしから見たら、セトとイチヒも十分仲良しさんに見えるけどな?

 リリーゴールドは、自分から離れて今度はイチヒのまわりを旋回し始めたクリスタルスカルを、微笑ましい顔で見つめる。

 立ち上がると、パンパンとおしりの埃を叩いて払う。

 今のうちに、操縦席に向かわなくちゃ!



 

 ――時は遡って数十分前。

 リリーゴールドとイチヒは、空母アストライオスが課してきた『探検用迷宮』に挑んでいた。

 だが、開始数分でじれたリリーゴールドが迷宮を燃やそうとしたので、アストライオスはさっさと迷宮モードを解除し、リリーゴールドのツアーガイドと化していた。


「《次に右手に見えますのが、宝物庫です。

 空母アストライオスは、建造時多くの乗組員の避難場所として機能していました。

 そのため、乗組員の持ち込んだアイテムや財宝がこちらに保管されております》」


 まだ翻訳フィールドは手元にないので、リリーゴールドがいちいち一言ずつイチヒのために通訳をしていた。

 すると、翻訳を聞いたイチヒが質問をしてくる。それを今度は、リリーゴールドがアストライオスのために脳内で繰り返す。

 アストライオスは発声プログラムはシジギア古語にしか対応していないが、4次元の脳内通信プログラムは標準装備のため、リリーゴールドとの脳内通信であれば意思疎通が問題なく可能だった。


「なんで乗組員はアストライオスに避難してたんだ? 荷物やお宝を持って避難ってことはもう、家に戻るつもりがなかったとか?」


「《アストライオスが建造された当時、大規模な宇宙戦争が起きていました。アストライオスは、戦艦でありながら同時に市民を逃がすための移民船としても期待されていたのです》」


「なるほど……たしか建造されたのは5000年前だったよな?

 となると――宇宙軍はもう存在してたはずだ。なぜアストライオスに今まで気付かなかったんだ?」


 イチヒの質問を脳内で繰り返しながら、リリーゴールドは宝物庫に足を踏み入れる。

 そこは宝物庫というより、博物館みたいだった。

 アイテムや財宝が、クリアケースに入れられ理路整然と並んでいる。

 

「《5000年前の宇宙戦争時は、多くの惑星勢力たちが支配領域の拡大のために争っていました。この時まだ宇宙軍は銀河系の外に対して目覚しい発展がなく、この戦争にも参加していません。おそらく認識すらしていないでしょう。アストライオスのデータベースにも、宇宙軍の存在の記載はありません。

 我々は、だからこそ誰にも見つからずにシジギアまで逃れることが出来ました》」


「なるほど――宇宙軍よりもさらに先に発展していた、高度な文明があったってことか」


 イチヒが呟いた時だった。

 宝物庫の奥、リリーゴールドの向かった方から頭の中で大音量で反響する声がする。


《小娘! お主まさか――マリーゴールド・ズモルツァンドの系譜のものか?!》


 ガラスケースを粉々に破壊して、クリスタルスカルが宙に浮いていた。

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