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82 『クリスタルスカル』は伝説の神で、それから恋するギャルだった

 サフィールは、思わず手を引っこめる。

 だが、クリスタルスカルはそのままサフィールの目の前にふよふよと浮かんでいた。

 なおも少女の声は止まない。


《え〜!! ちょーなついんですけど!! まじ?

 ねぇ君も“歩けるようになって”嬉しいよね?!

 『足』っていいよね〜?!》


「えっ……と、すみません話が見えないんですが……

 それと――貴方は、誰?」


《やっだ、ウチの事わかんないの? 水棲星人(エラフィリア)なのに?!

 ウチはね――


 ネフェルス。ネフェルス・ブリランテ!

 あの日、君たちに『足』をあげた人魚だよ》


 少女がにっこりと微笑んだ気配がした。

 白銀の波打つ髪と、真っ白な尾ひれをもつ女神。

 それが、水棲星人(エラフィリア)でずっと大切にされてきた女神の姿だった。

 

 サフィールの脳内に、ネレイダでずっと子供の頃から聞かされてきた【人魚神話】が蘇る。


 かつてエラフィリアの民に、足はなかった。

 波に流され、潮に運ばれ、ただ歌い、眠るだけの時代。

 だがある日、空を見たネフェルスは言った。

「歩きたかったの。あなたたちも、きっと歩きたくなるはずだわ」

 そして彼女は『足』とともに文明を贈った。

 水は記憶をもち、建物は浮かび、都市は海流の上を渡っていった――


「貴方が……? あの、“ネフェルス”?

 伝説じゃ、なかったんだ……本当に、いたんだ……!」


《え、ウチってば伝説になっちゃってる系?!

 そっかあ、もうウチの声を覚えてる子は生きてないんだね……

 ま! ウチも死んでるんだけど! ウケる!》


 心なしか、目の前のクリスタルスカルが寂しそうに見えて、サフィールは右手を伸ばしかけて指先がさまよう。この骸骨に、同情から軽々しく触れていいものか、サフィールには判断できなかった。


「それで……なぜ、ネレイダではなくこんな辺境の惑星に? ここが、貴方の霊廟なのですか?」


《ウチさ、あの時好きな人がいたの。綺麗でつよい水棲星人(エラフィリア)の……あ、そう! 君にちょっと似てるかも。

 でもほら、ウチって基本不老不死じゃん? 同じ時間は生きれなかったんだよね。彼のことも、彼の子供のその子供のその子供の……もう忘れちゃったけどさ、とにかく沢山の子達を見てたんだよね!》


 サフィールは、あのさっき見たレリーフのことを思い出していた。あれが、もしかしてネフェルスの愛した水棲星人(エラフィリア)なのかもしれない。彼は――ぼくたちの先祖の姿なんだ。

 きっと、ぼくたちは長い年月をかけて持っていたはずの尾ひれを失って、人間の足を持って生まれ直したんだ。

 ネフェルスの言葉はまだ続く。


《マエステヴォーレのおっさんはさぁ、3次元に干渉しすぎちゃダメって言うんだよね。『伝説』に紛れるくらいが丁度いい、顔を覚えられていなくて丁度いいって。

 でも、ウチは伝説にも神様にもなりたくなかったんだよね! 普通に覚えてて欲しかったし!》


 サフィールはその言葉を聞いて、眉間に皺を寄せる。

 ――『マエステヴォーレ』? どこかで聞いたことがある名前だ、こんな珍しい名前がそうそういるはずがない……確か。

 

 イチヒが一緒に戦った最終選抜訓練の雪山で話してくれた。いつも傷だらけのイチヒに、痛くないのかと聞いた時。

「痛いよ。でもこんなの擦り傷だ。打ち直しゃ1発で直る」

「人間は、普通打ち直せないんだよ」

「ああ、そうだったな。私にはマエステヴォーレっていう最高の鍛冶医師がついてるから忘れてたよ」

 そう言って笑う彼女の口から出された名前。それが、マエステヴォーレだった。


 バラバラだったピースが、サフィールの頭の中で音を立ててはまっていく。

 リリーゴールドが、あの伝説の魔女の娘として存在するのが何よりの証拠だ。

 ――『神話』は、“空想の産物”なんかじゃない!

 ぼくたちは、『神話』のその後の世界に生きている。

 神様だと思っていたのは、『4次元』から来た、ぼくたちと同じように生きる“人間”なんだ。


《ただ、水棲星人(エラフィリア)のことが、大好きだったの。出来るなら一緒に生きてたかった。ウチのことも、愛してて欲しかった。

 でもね、みんなはだんだんウチのことを『仲間』としては見てくれなくなった。

 だけど、ウチは絶対に4次元には帰りたくなかったの》


 サフィールは、咄嗟にクリスタルスカルを抱きしめた。

 ネフェルスが、ただのかよわい少女に感じられたから。――彼女が、泣いていると思ったから。


《……ありがと。優しいね…… 

 それでね、ウチは――3次元で死ぬことを選んだ。4次元にいたら、ウチらって不変で不死になっちゃうから。

 この世界でなら、ウチらも永遠に眠れるって……ちゃんマリ……マリーゴールドちゃんに聞いたの》


「マリーゴールド?」


 また知らない名前が出てきた。彼女も、どこかで伝説になった4次元の存在だろうか?


《あ、マリーゴールドちゃんのことも知らない? マリーゴールド・ズモルツァンド》


 ――そのファミリーネームは。

 ぼくは、その名前を知っている……!

 サフィールの息が詰まる。

 

《あちこちの世界を旅してた、ウチらの妹。


 

 魔女の、マリーゴールド・ズモルツァンドちゃんだよ》

 

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