75 サフィールの正式任務、憧れが目の前に
リリーゴールドたちが、アストライオスに経費で翻訳フィールドを設置してもらおうと企む頃――
銀葬先鋒隊大隊配属が決定したサフィールは、グラヴィアス大佐たちと共に作戦会議に参加していた。
――ついにぼくも、銀葬先鋒隊の一員なんだ……
サフィールは、胸元に輝くピンバッジを指先でぎゅっと握る。
シルバーの地金に、ラメの入ったネイビーの宇宙が描かれ、その上にシルバーの剣が斜め十時に交差するマーク。
……ずっと、憧れていたものだ。
サフィールは、自分の席に座ったままぐるりと、まわりを見回した。
あの最終選抜訓練で敵役だった先輩たちが、今回は全員同じチームメンバーだ。
会議室の正面、ホログラム投影機の前に立つ2人の上官はじゃれるようにして会議の準備にあたっていた。
「中佐、ホログラム投影機の準備は出来ているか?」
「もちろんですよ、大佐。全くあなたは……なんでも雑用を僕に押し付ける」
「アッハッハ! 私がやるより早いからな! 適材適所と言うやつだ!」
大隊に入って知ったのだが、2人は幼なじみらしく、この光景は大隊全員が見慣れたものなんだとか。
右にいるのが、この場にいる誰よりも大柄でとんでもない筋肉量の、グラヴィアス大佐。『ゴリラモンスター』と揶揄されるのも頷けるような体格で、彼女を見ていると『女性』と『男性』の違いなど形式的で些細なものなんだと思い知らされる。
だが快活で竹を割ったような性格の彼女は、隊員誰からも信頼されていた。
彼女とは対照的に細身ですらりとした身のこなしの、セルペンス中佐。まるでトカゲのような、表情の見えない冷たい瞳は、知的で冷徹な美貌と相まってよけい恐ろしく見えた。
自分の“マーメイド型”としての、一般的な美しい顔に見慣れているサフィールからしても、彼を整った顔立ちだと思う。
そして、自分の右側には4人の先輩たちが並んで着席していた。
まず、隣に座っているのがクライ少尉。
桃色の髪をひとつに括りあげた、まるで貴族のような柔和で気品ある雰囲気の女性隊員だ。
最終選抜訓練では、サフィールは既に彼女と戦闘済みだった。吊り橋の上でバリアを展開する彼女には手も足も出ず、水中戦に持ち込んでやっと勝った相手。
彼女が今回の作戦では、サフィールのバディとなる。
クライ少尉が、緊張した顔のサフィールに気付いてにこ、と微笑んでくる。
「今日が初任務なのですよね? 頑張りましょうね、エレイオス訓練兵」
「はい! ご指導よろしくお願いします……!」
「あらあら、そんな緊張なさらないで下さいな、シャチちゃん。わたくしも頑張って守りますからね」
彼女は、サフィールのことをやたらと『シャチちゃん』と呼んでくる。
なんでもサフィールの戦闘スタイルが、イルカよりも獰猛で、サメよりも美しいからだという。
それを初めて聞いた時、サフィールはちょっとだけ嬉しかったのを覚えている。強い海獣にずっとなりたかったから。
そして、その右奥にいるのがアスタリオ伍長。
角刈りの黒髪に日焼けした肌をした彼が、1番“軍人”らしく見える。
最終選抜訓練では、軍用ヘリの操縦士を務めていた。
聞いた話だが、彼は養成学校出身ではなく現場でたたき上げの兵士で、凄腕のパイロットだとか。その腕を買われて、銀葬先鋒隊に引き抜かれたらしい。
彼は無口で、サフィールはまだ挨拶ぐらいしかしたことがなかった。
そのさらに奥で2人並んでいるのが、金髪のカヴァーレ少尉と、緑髪のモラレス軍曹。
2人は同じ惑星の生まれなのか、外見特徴がよく似ていた。派手な髪色と、白っぽく半透明でシリコンのような艶のない肌をしている。
彼らはいつも2人で行動していて、軍人というよりは近所のお兄ちゃんのような、気安い存在だった。
大隊に入ったばかりのサフィールのことも、何かと気にかけてくれている。
サフィールの視線に気づいたのか、カヴァーレ少尉がヒラヒラと手を振ってきた。
「お、緊張してるっすか? 自分も初任務の時は緊張したっすよ〜」
その声を聞いて、モラレス軍曹がすかさずツッコミを入れていた。
「お、お前はすこし今も緊張感を持つべきだ」
「いいんすよ!! 全員緊張してたら回るもんも回らなくなるんすから!!」
サフィールは2人のやり取りを見て、思わず笑みが零れていた。張り詰めていた心が少し軽くなる。
それを見ていたカヴァーレ少尉がウィンクをしていた。
そして本来はあと1名、ハートマン軍曹がいるのだが、彼は軍病院で入院中だ。
無理もない。あの最終選抜訓練で重力軽減なしのイチヒの1tボディと正面から衝突したと聞いている。生きているだけ幸運と思うべきだろう。
この、大佐中佐を含めた計8名が、銀葬先鋒隊大隊である。
ざわざわとした会議室は、グラヴィアス大佐の一声で水を打ったように静寂に支配された。
「今回の任務は、『魔女オーパーツの回収』だ。諸君、これを見てくれ!」




