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6 生まれて初めての戦闘。イチヒVS『AI戦闘アンドロイド』

「おはようイチヒ!」

 

 寝ぼけ眼で自室から出てくると、リビングには既に白い戦闘服に着替えたリリーゴールドが座っていた。

 今日もぼんやり発光しながら、狭そうに小さな椅子に縮こまって座っている。

 

「……おはよ、リリー。意外と早起きなんだな」

 

 ふわぁ、とあくびを噛み殺してイチヒは目を擦る。顔を洗おうと、リビングにある洗面台の蛇口を捻った。

 

「そう?  あたし、4時には起きてたよー」

 

 ぱしゃぱしゃと冷たい水を顔にかけるうちに、イチヒの頭も目を覚ましてきた。

 

「いや早くね?!  授業8時からだぞ?!」

「うん?  だって日が昇ったのが4時だったから」

「動物かよ……」

 

 タオルで顔を拭きながら横目で壁にある時計を見る。まだ6時だ。

 2時間もこいつは何をしてたんだ……。

 

「まぁいいや。私も着替えてくるから朝飯に行こう」

「わーい」

 

 イチヒはリリーゴールドの声を背中で聞きながら自室に戻った。

 ふと思い出して、自室から声を張ってリリーゴールドを呼ぶ。

 

「そういやリリー!  身長いくつあるんだ?」

「んー、300cmくらい?」

「でっか!!  本当に3メートルあんのかよ!!」

 

 思わず振り向いてしまった。リリーゴールドは相変わらずちまっと椅子に座っている。

 

「イチヒはちっちゃいよねー、100cmくらい?」

「158cmあるわ!!  そんな小さくねえよ!!」

「あはは、そっかー」

 

 そう言ってリリーゴールドが立ち上がる。

 天井に頭をぶつけて、いてっと言うと慎重に猫背になって手を天井に当てながら歩く。

 

「この部屋、ちっちゃいよねー。食堂くらい広いといいのに」

「そんな広かったら私が落ち着かねえな」

 

 身支度を終えると連れ立って寮の部屋を出る。

 宇宙軍養成学校では、食堂で3回の食事全てが取れるよう、早朝から開いているそうだ。


 

「今日の授業は技力測定テストらしいな」

 

 スプーンを口に突っ込みながらイチヒは時間割表をめくる。

 今朝選んだメニューは、宇宙ヤギのミルクとシリアルだ。シリアルは地球にもあったが、生のミルクをかけるのは初めてだった。ほんのり甘くて、ひんやりとして美味しい。

 

「うん、楽しみだよねー!」

 

 一方リリーゴールドは、朝から大きな丼を前にしていた。太麺をズズッとすする。

 彼女が選んだのは、シジギア風ナポリタンラーメン。赤いトマトスープに白いチーズがとろける逸品だ。

 甘めのいい匂いはするが、朝ご飯としてはちょっと重すぎるんじゃないかとイチヒは思っている。

 

「スープ飛ばすなよ。白い服着てんだから……」

「わかってるよー上手くやるから大丈夫ー!」

 

 リリーゴールドはご機嫌で丼に向かっている。

 

 イチヒはまた手元の紙に目を落とした。

 入学資料と一緒に送られてきたこの時間割には、最初の一ヶ月分の授業内容まで細かく記載がある。

 

 入学した士官候補生たちは、用途別に小規模グループに分けられ、それぞれが異なる教官・カリキュラムのもとで訓練を受ける。

 イチヒたちのグループはその中でも、とりわけ基礎運動能力に重点を置かれたα班だった。

 

 時間割によると、今日は一日の半分を使って『技力測定テスト』を行うらしい。



  

 「新入生α班の諸君、宇宙軍へようこそ。

 私は本日の教官を務める、グラヴィアス大佐だ。

 本日は諸君らの技力を測定するテストを行う」

 

 赤い短い髪を揺らし、大柄な筋肉質のグラヴィアス大佐がよく通る声で朗々と告げる。女性とは思えない筋肉量が褐色の肌によく映える。

 

「なお――諸君らの適性を見て、銀葬先鋒隊(ガラクス・セパルト)候補の選抜も兼ねている。心して挑め!」

 

 続いて発せられた教官の言葉に、新入生たちにどよめきが走る。

 

 ――銀葬先鋒隊(ガラクス・セパルト)だって?!

 まさか入学したてで選抜が行われるとは思ってもみなかった。

 

「イチヒ……、がらくすせぱるとって?」

 

 リリーゴールドがコソコソと質問してくる。

 

「宇宙軍の最精鋭集団だよ。選ばれたごくひと握りの戦士だけが名乗れる――つまりめちゃくちゃ強い奴らってこと」

「……なるほど!」

 

 ……分かってんだか、分かってないんだか。

 イチヒはリリーゴールドを横目で見ると、前に向き直った。


  

「こちらに宇宙最強の、タングステン金属で生成した練習室を用意した。高熱も耐えるし、衝撃波にも強いし、放射線にも強いぞ〜!  

 諸君は安心して己の持ちうる力を発揮するといい」

 

 単純に言えば、今回のテストの内容はこうだ。

『どのような技を使っても構わないので、己の力を見せ、計測されろ』

 

 宇宙から様々な人種が集まるこの宇宙軍養成学校には、様々な種族的特徴を持つ者がいる。

 

 イチヒもその1人で、身体に金属細胞を持つ。

 しかも、ただの金属ではなくイチヒの身体はタングステン金属で出来ている。

 

 新入生の間にざわめきが走る。

 そりゃそうだ、今まで戦闘経験なんてない。

 いきなり力を見せろと言われても、戦い方を知らない。

 

「ここに、AI戦闘アンドロイドを用意した。諸君らは、このアンドロイドと戦闘を行ってもらう。

 己の力を駆使してこのアンドロイドを止めるか、制限時間まで逃げ続けろ!」

 

 ――どうやら強制的に極限状態を強いて、その対応を見るつもりのようだ。

 

「安心したまえ。このAI戦闘アンドロイドは殺傷能力を10まで減らしてある。

 養成学校に合格するフィジカルがあれば死ぬことはあるまい!」


 

 タングステン部屋は4つ用意されていた。

 教官陣の前には様々な計器が置かれ、部屋をリアルタイムでモニタリングできる仕様になっているようだ。

 

 新入生は12名しかいないため、ゆっくり他の新入生の戦闘を見る時間もなさそうである。

 

 イチヒの番は2回戦。

 1回戦の生徒たちが4人、タングステン部屋に入るのを見送るとリリーゴールドが話しかけてきた。

 

「面白そうだね、イチヒ!」

「私は正直ビビってるよ……リリーは戦闘経験があるのか?」

「うん!  ママと宇宙海賊を討伐したことある!」

「は?!  ……いや、え?」

「イチヒは?  戦ったことある?」

「いやねえよ……」

 

 なんだよ、宇宙海賊を討伐したことがある15歳って。

 どうやったらそもそも海賊と出会うんだよ?!

 お前ほんとに同い年か?!

 

「知ってる?  海賊を討伐したらお金もらえるんだよ!」

「賞金首な。知ってるけど、賞金ほんとに貰ったやつ見るのは初めてだよ」

「えへへ、そう?  今度イチヒも一緒に行く?」

「行かねえよ!  なんでそうなるんだよ!!」

 

 ピーー!!

 その時、1回戦終了を告げるアラームが鳴った。

 しまった、1回戦を見損ねた。

 リリーゴールドの討伐の話なんか聞いてたから……!

 

「2回戦の対象者、前へ!」

 

 グラヴィアス大佐の大声が響く。

 イチヒはごくりと唾を飲み込んだ。

 

「2回戦の諸君、ようこそ。

 では改めてルールの説明をする。

 このタングステン部屋は、高熱や衝撃波に放射線に強く、宇宙船のエンジンと同じ素材だ。壊れることは無いから安心したまえ。

 私のお気に入りの金属だ。そして、」

 

 グラヴィアス大佐は傍らに控える金属ボディのアンドロイドを撫で回した。

 細めで流線型のボディをしており、素早い動きをしそうに感じられる。

 

「これがAI戦闘アンドロイドだ。

 こいつはチタン合金で出来ており、強度があり耐食性もありしかも軽い!

 宇宙船の機体と同じ素材だ。こいつも強い金属だぞ〜!  

 なお、搭載されたAIは、諸君らを観察し、動きを変える!

 こいつから15分間逃げ切るか、機能停止させろ!」

 

 イチヒはアンドロイドをじっと見据えた。

 

 ――チタン合金か。硬いが……私よりは、脆い。

 問題は、こいつがどれくらい速いかだな。

 捕まえられるといいが……。


 

 大佐が見守る中、また別の軍人に案内されタングステン部屋に入る。

 四方を銀色の金属に包まれた部屋は非常に圧迫感があった。

 イチヒの身体はこの部屋とおなじ、タングステン金属を含む細胞でできている。

 強固だが、めちゃくちゃ重いのが難点だ。

 

 15分間、自分より軽いアンドロイドから逃げ回るよりも捕らえて潰した方が成功確率は高いだろう。


  

 ふぅ、と息を吐くと腕の重力軽減装置端末に触れる。「現在の重力軽減を解除しますか?」と文字が浮かび上がり、イチヒは迷わず「はい」を選択した。

 その瞬間、ガツンとした重さがイチヒの身体に降りかかってきた。

 

 イチヒの身体は、重金属だ。

 1000kg近い重さがある。

 殆ど車と変わらない重さである。普段からこの重さで歩いていては地面にめり込んでしまう。

 だからこそ、いつもはこの重力軽減装置で自分を軽く調整しているのだ。


  

 だが――この重さでも、動けないほどじゃない!

 床も、私も同じタングステンだ。

 これなら床にめり込むことなく、立っていられる!


  

「それでは、はじめ!」

 

 グラヴィアス大佐の号令で、イチヒが入ってきた扉がウィーンと動き壁と一体化した。


 15分経つまでここからは出られない。



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