66 処分会議かと思ったら、表彰状でした
無事、銀葬先鋒隊最終選抜訓練を終えたリリーゴールドたちは長期休暇に入る――はずだった。
授業カリキュラムは終わったはずなのに、リリーゴールドとサフィールはそれぞれ別々に学校に呼び出されていた。
「ズモルツァンド。なぜ呼び出されたか心当たりがあるだろう?」
リリーゴールドは身を縮こまらせてパイプ椅子に座っていた。目の前には、グラヴィアス大佐が腕組みをして座っている。
「ええと……ええと……空母アストライオスの話ですか? あたし、あの時説明した以外のことは、よくわかんないんですけど」
「……違う! 今日私が君を呼び出したのは、『吊り橋での軍用ヘリ』についてだ」
グラヴィアス大佐の言葉を聞いて、リリーゴールドはああ! と手を叩いた。
「すみません、限界高度に設定したはずですけど……機体凍っちゃったりしましたか……?」
「やっぱり、お前がやっていたんだな?!」
「えっ、あっ、はい……すみません……あの時、軍用ヘリまで出てこられたら勝てなくなっちゃうと思って……」
しおしおと身を縮こめるリリーゴールドを見て、グラヴィアス大佐は豪快に笑った。
「アッハッハ! 私は、叱るために呼んだのではないよ。事実確認がしたかったのだ。
――ハッキング魔法が使えるんだな?」
グラヴィアス大佐の鋭い瞳に、リリーゴールドは首を傾げる。
「うーん……魔法といえば……魔法です?」
――AIに脳波を使って直接アクセスするのは、4次元では当たり前のことだ。
でも、リリーゴールドは3次元の人から見たら4次元の技術は大体『魔法』に見えるのだと、もう理解していた。
――一方その頃、サフィールは別室に呼び出されていた。目の前には、トカゲみたいな冷たい目をしたセルペンス中佐が座っている。
「エレイオス君。今回呼び出したのは――」
サフィールは、俯いて応えた。
「……理解しています。ぼくの『エコロケーション』の件ですよね」
「おや。理解が早くて助かります。
君は……意図的に己の能力を軍に隠していましたね?
これは、立派な公文書偽造罪にあたります」
セルペンス中佐のひんやりとした声が狭い部屋に響く。まるで、取調室にいる気分だった。
「……はい。……ぼくの処分は、どうなるんでしょうか」
サフィールはじっと膝の上に置いた手を見つめていた。震える指先にぐっと力を込める。
だが、続けられたセルペンス中佐の声はサフィールの予想とは違っていた。
「ところで、『マーメイド型』について教えてくれませんか?
なぜ、君は――男性なのにその力が使えるのか。まさか……性別まで偽ってはいませんね?」
「えっ? ぼくは――突然変異種なんです。性別は男で間違いありません。
男なのにエコロケーションを持って産まれたんです。理由は分かりません……
ですが、ずっとこの力が嫌で、使わずにいられるなら使いたくなかったんです。だから、ずっと脚だけを鍛えてきました」
サフィールの声は、途中から震えていた。
あの訓練で、サフィールが何を使っても勝ちたいと思ったのがセルペンス中佐だった。だが、今はその彼に詰問されている。
「なるほど。……では君は、“男に生まれたので、エコロケーションを使えるはずがないと信じて生きてきた”のですね」
セルペンス中佐の言葉に、サフィールは弾かれるように顔を上げた。
彼は、サフィールの想像よりずっと優しい眼差しで、サフィールのことを見据えている。
サフィールの言葉がないのを見て、セルペンス中佐は頷いてから続ける。
「……ええ、突然変異種だなんて知らなかったんですよね。この訓練で……鍛えぬいた脚技の他に、新しい能力が“初めて”開花したと。
素晴らしい。良い訓練になりましたね」
「……セルペンス中佐?」
「事実確認が取れました。君は、水棲星人として今回新たな力を手に入れたのです。その鍛えぬいた脚力に加えて、本来手にできるはずのない特別な力を」
サフィールはぐっと唇を噛んだ。セルペンス中佐は、自分を庇おうとしてくれている。
しかも、劣等感に苛まれていたサフィールを救うような言葉で。
「今回の新しい力は、軍の個人データに記載されます。構いませんね?」
「サー・イエッサー。ご配慮に、感謝します」
サフィールは、頭を下げた。
だが、セルペンス中佐はわざとらしく首を傾げて肩を竦めた。
「……おや? 配慮? なんの事でしょう。
話は以上です。楽しい休みをすごしてください」
サフィールはもう一度一礼してから、部屋を退出した。
サフィールが、寮への道を歩いているときだった。
「おーい! サフィール!」
見知った声がして、サフィールが後ろを振り向く。
そこには、あの1週間共にすごした戦友たち――イチヒとリリーゴールドが立っていた。
リリーゴールドが、パタパタと走り寄ってくる。
「サフィールも呼び出されてたんだね! あたしもちょっと怒られちゃった」
「そりゃまあ……君はさんざんやらかしたからね」
「なにそれえー!! やらかしてないよ!! たぶん!」
リリーゴールドが叫ぶと、イチヒが笑いながら近寄ってきた。
「あはは、あんまりリリーをいじめないでくれ。まあ、こいつがやらかしたって点では私も完全同意だけどな!」
「えっ?! イチヒそれ、フォローする気ないじゃんー!!」
3人の笑い声が、澄み渡る空に溶けていく。
これから3人は、宇宙軍の先鋒隊として戦場を駆け抜ける運命にある。
だが、今だけはただの15歳の少年少女だった。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
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