57 空腹につき、爆速で『マンモス』狩ります
――訓練開始から、6日目の昼。
イチヒたちは、リリーゴールドの髪の毛で暖をとりながら小さい洞窟に縮こまっていた。
洞窟の外は、数日ぶりの猛吹雪に見舞われている。
視界が真っ白で、とても前に進めるような状況じゃなかった。
昨日から、イチヒたちは最後のアイテム回収地点『古代迷宮遺跡』のある山を目指して移動を始めた。それは、今いる地点の隣の山。
しかし今いる山が思ったより険しく、昨日丸一日を使ってもまだ遺跡の姿は見えてこない。
一度針葉樹林の中で野営をして、また今朝に移動を始めた所だった。
「雪、止まないねえ」
洞窟に上半身だけ突っ込んだリリーゴールドが言った。体育座りした膝に、雪が落ちてきてはふっと水滴に戻る。
「ごめん、リリーゴールド。ぼくたちだけ暖かいところで」
「リリー、寒くないか?」
背中の向こう側、洞窟の奥からサフィールとイチヒの声がした。
「ううん、大丈夫! 狭いからしょうがないよお」
そう言ってリリーゴールドはまた外の様子を見る。
イチヒが、リリーゴールドの脇の下から顔を出してきた。
「酷い雪だな」
「うん、ねぇイチヒ。お腹空いたねえ、狩りに行かない?」
「お前この酷い天気見て言ってる?」
3日分しか持ち込みが許可されなかった携帯保存食は、とっくに底を尽きている。
イチヒたち3人は、先輩隊員たちの奇襲の合間に魚や雪猪を狩りながら食料調達をしてきた。
このあたりもまた、この訓練が『地獄のサバイバル』と呼ばれるゆえんだった。
「雪が止んだら、ぼくまた魚とりにいこうか?」
「悪いな、サフィール。私もまた雪猪を探すよ」
「いつ行く? 今?」
「だから! 雪が止んだらって言ったろ!!」
「あはは、リリーゴールドほんとにお腹すいてるんだね」
サフィールの提案に、イチヒも応える。すかさずリリーゴールドが食い気味で被せてきた。
――ブォオオオオン……!
その時、地響きのような巨大な唸り声が響く。
地面が、揺れた。
「何だ?!」
イチヒが、リリーゴールドの脇の下から這い出してきて洞窟の外に顔を出す。
だが、ホワイトアウトした視界には一面の白以外何も見えない。
「今の声……野生動物……?」
サフィールも、イチヒに続いて外に這い出してきて、キョロキョロとまわりを見る。
すっと口を開けると、サフィールの喉から鈴を転がすような美しい音波が拡がっていく。エコロケーションで、まわりの反響音を探る。
「ダメだ、ぼくのエコロケーションで探せる範囲には何もいない」
サフィールのエコロケーションは、イルカなどと同じく200m前後しか見ることが出来ない。
だがむしろ、それは3人の半径200m範囲はまだ安全だという証拠にもなる。
リリーゴールドが、金色の瞳孔を開いて吹雪の中を凝視していた。
そして、彼女はにんまりと笑った。
「――マンモスだー!!!!」
叫ぶなり、リリーゴールドは吹雪の中へ駆け出していく。彼女の白い姿は、白い吹雪に紛れてあっという間に見えなくなった。
「なっ、おい待て、リリー?!」
「リリーゴールド?!」
イチヒとサフィールは、追いかけたいがこの吹雪の中じゃ遭難する未来しか見えない。
2人で顔を見合わせる。
「……今、マンモスって言ってたよな?」
「言ってた。リリーゴールド、お腹空いたって言ってたよね。……狩るつもりじゃない?」
イチヒは、聞き間違いか? と思いながら隣のサフィールに尋ねる。だがサフィールの耳にも間違いなく、マンモスと聞こえていたらしい。
「っていうか、マンモスいんの?!」
「え? ベガ-アルタイル系じゃ割とメジャーな動物だけど……」
「マジかよ……地球じゃとっくに絶滅してんぞ……」
イチヒは子供の時教科書で見た、茶色い毛むくじゃらの巨大な象みたいな姿を思い出す。
確か、3m位の体高で、鼻が長くてすごくでかい牙を持っていたような。手足もすごく太くて、イチヒよりもずっと重そうだった。
……教科書では、4、5人でマンモス狩りをするって書いてあったけどな!!
ブモォォオン……!
吹雪の向こうから、マンモスの声がする。その瞬間、爆風が吹雪を蹴散らした。
一瞬晴れた視界に、リリーゴールドの青い火柱が上がる。
茶色い毛むくじゃらのマンモスが、火だるまになっていた。
マンモスの巨体が雪に埋もれるように倒れ込む。ドォン、と地震みたいな地響きが2人まで伝わった。
そしてまた、酷い吹雪がイチヒたちの視界を覆い隠していく。
「……マンモスの丸焼き……」
「……お前も腹減ってたのかよ」
イチヒの耳に、サフィールの小さな呟きが届いた。
……いや、確かに美味しそうだけどな?!
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