54 仲良しチート3人組
「これ、……動力源が液体だ」
先程イチヒが死ぬ思いをして手に入れた第2回収アイテムを、サフィールがまじまじと見ている。
イチヒとリリーゴールドは、ずいと身を乗り出してサフィールの手の中にあるそのタンク付きライフルを見つめる。
3人は、元オンボロ吊り橋のかかっていた手前の針葉樹林の中に集まっていた。
今は例の吊り橋は、またリリーゴールドが時間を巻き戻して新品に戻っている。
ちなみに、イチヒがどうやって針葉樹林に戻ったか?
味をしめたリリーゴールドが橋の時間を巻き戻しまくり、イチヒが落ちそうになるたびに橋を新品に戻しながらどうにか戻ってきたのである。
1度巻き戻しを行った物質を再度同じ時間まで巻き戻すのは、コピー&ペースト的に簡単に出来る……らしい。
サフィールは川を泳いで山上の上流まで戻り、そこから針葉樹林に合流していた。
全員が泳げれば、正直川を通るのが1番ルートがシンプルだった。
だが、イチヒは水に浮かないし、この激流の川を普通の人間は上流に向かって泳ぐなんて無理だ。
そして、3人はそのタンク付きライフルの観察のために集まっていた。
「なるほどな? このタンクに弾となる液体を入れるのか……このチューブから吸い上げて」
イチヒが、タンクから伸びるチューブを指さす。
「おそらくね。でもこんなアイテムぼくだって見たことな……」
「――えいっ!」
リリーゴールドがチューブをおもむろに持ち上げると、喋っていたサフィールの袖をまくり腕にぶっ刺した。
サフィールの体がビクッと反応する。だが、痛みはない。
「リリー?! お前何やってんだ?!」
イチヒが叫ぶ。
だが、チューブはサフィールの肌に吸盤で吸い付くと、彼がまとう粘性水をズッズッと吸い上げ始めた。
半透明のタンクに液体が溜まっていく。
「お、おい……エレイオス。何ともないか……?」
「……うん。全然痛くは無い。それにぼくさっきまで水の中にいたから、まだ喉はかわいてないし大丈夫」
「その肌の水、汗みたいなもんなのか……」
イチヒはサフィールと、溜まっていくタンクを交互に見つめた。
「やっぱりー! この武器、サフィール・エレイオスさんのための武器だよ! ねえ、トリガー引いてみてー!」
リリーゴールドは、予想通りタンクに水が溜まるのを見てキャッキャとはしゃいでいる。
それにすかさず、イチヒが全速力でツッコミをいれた。
「いやお前は反省しろ!! もしやばいことになってたらどうすんだよ?!」
「うーん、そのときはごめんなさいする」
「そういうことじゃねえ!!」
「あはは、大丈夫だよ。ヴェラツカ。――じゃぁぼく、試しに撃ってみる」
じゃれる2人を横目に、サフィールはそのタンク付きライフルを構えた。
引き金を、引く。
ヒュンッ……!
超高速の水の線が、ライフルの口から発射された。
その瞬間、重たい反動がサフィールを襲う。
足をしっかりと踏み締め、後ろにひっくり返らないように体勢を整える。
どうにか前傾姿勢になりながら、サフィールはもう一度引き金を引いた。
ヒュンッ……バスッ!
水の線は木の幹に穴をうがつ。
速度と重さを持った水圧が、木の幹を貫通していた。
もはやこれは、弾というより水の刃。
「……これは……とんでもねえな」
イチヒは穴の空いた幹をまじまじと見る。
直径40cmはある太さの木に穴が空いて、向こう側が見えていた。
武器の証拠を残さず貫通できるなんて、隠密に向きすぎてる。
これじゃ敵は、何に攻撃されたかも分からないうちに絶命するだろう。
「サフィール・エレイオスさんにしか使えない武器だね!」
リリーゴールドがにこにこと言った。
サフィールはタンクを見る。2発しか撃っていないのに、タンクの水は半分ほど無くなっていた。
だが、すぐにチューブがサフィールの肌から水の補給に入る。
「……確かに、ぼくらの水と、脚力がないと使いこなせない武器だ。普通のライフルなんかより、反動が酷い」
サフィールの声に、イチヒが賛同する。
「そもそもこの水だよ。この威力があったってリアルタイムに水をこの量補給し続けるのは、私たちじゃ無理だ」
「ねえ、サフィール・エレイオスさん。このお水、どれくらいの間出し続けられるの?」
リリーゴールドの質問に、サフィールはちょっと考えてから答える。
「うーん、測ったことはないけど。凍るか燃やされない限り、肌の水が無くなったことはないかな」
「じゃあそれ、ほぼ永遠に打ち続けられるってことかよ?! しかも装填時間なしで!」
「まあ、そうなるね」
「つっよ! ずるすぎる、チートかよ!」
サフィールの答えに、イチヒからのツッコミが入った。サフィールは思わず笑ってしまう。
サフィールの方こそ、イチヒの金属細胞やリリーゴールドの魔法をチートでずるいって思っていたのだ。
彼女たちに並べたみたいで、ちょっと嬉しくなってしまう。
「えへへー、じゃあサフィール・エレイオスさんもこれからも一緒に沢山戦えるね!」
リリーゴールドが子供みたいに、にこにことしている。
その声を聞いて、サフィールはずっと気になっていたことをようやく口にした。
「……ズモルツァンド。その、『サフィール・エレイオスさん』っての、やめよう?」
「え? うーん、じゃあ『サフィールちゃん』!」
「ねえぼく男なんだけど!!!!」
「あっそっか! じゃあ『サフィールくん』!」
「え、いや、そうじゃなくて……」
それを横で聞いていたイチヒが吹き出した。
めちゃくちゃ身に覚えのあるやり取りだったからだ。
てか、リリーは全員とりあえずちゃん付けしたいのな。
「あーおっかし。もうさ、サフィールでいいだろ?」
イチヒはやっと笑い止むと、サフィールに手を差し出した。
サフィールも苦笑して、イチヒに迷いなく握手を返す。あの時握手をためらっていたサフィールは、もういない。
この濡れた肌は、彼女たちのチートに並ぶための誇らしいものだから。
「うん。ぼくも、イチヒって呼ばせてもらう」
それを見ていたリリーが2人の握手する手を、上下からギュッと握ってきた。
「ねえねえずるいずるい!! あたしもあたしも!」
「あはは、分かってるよ。リリーゴールド!」
サフィールが笑って、リリーゴールドの方を向いた。
彼の笑顔はもう、作り物みたいな笑顔じゃなかった。偽物の鈴の声でもなく、ちょっと低いかすれた本物の声で笑う。
「タイムリミットはあと3日ってとこか。そろそろ急がねえとな。次の回収ポイントに向かうぞ!」
イチヒの声に、2人は頷く。
訓練終了まで、あと3日と数時間。
最難関の、古代迷宮遺跡が3人の未来にそびえていた。
ついに……!
ライバルだったサフィールは、彼女たちの友人となりました。ここから物語は、新しい友人とともに核心へ迫っていきます……!(サフィールと女子2人のフラグはたちませんすみません)




