表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/62

48 リリーゴールド、ヘリジャックする

 リリーゴールドは、イチヒとの脳波接続を切った。イチヒのいる場所と反対側に進むと、木の下にしゃがむ。

 それからゆっくりと息を吐いて、空を見上げた。


「狙うのは、ヘリのAIエンジン!」


 軍用ヘリや戦車を始めとした移動兵器には、基本的にAIが搭載されている。

 この話を授業で聞いた時、リリーゴールドはじゃあ割と簡単に乗っ取れるんだなあ、と思った覚えがある。


 でも3次元の人たちは、AIの電波にアクセスして命令を書き換えるってのが、できないんだって。初めて大蛇ロボットをちょっと乗っ取ってバグらせたとき、イチヒは理解できないって騒いでたっけ。

 4次元のあたしたちなら、誰でも出来ることなのになー


 おっとと、雑念がまじってしまった。リリーゴールドは頭をぷるぷると振って、気を引きしめる。


 急がないと、サフィール・エレイオスさんが危ない!


 目を閉じる。世界の物質の揺れの中から、軍用ヘリの制御系統の電波を探していく。

 軍用ヘリには、何種類ものAIが搭載されているらしい。リリーゴールドは、その複雑な電波の重なりに顔をしかめる。

 でも、諦めちゃだめだ。あたしが、食い止めなきゃ!


 ……えーっと、どれだろ?

 あ、これかな――っと!


 その瞬間軍用ヘリの腹部ハッチがパカ、と開いた。そこから巨大なミサイルが静かに現れる。


 ……間違えたー!!!

 これ、武器のほうの命令だね?!


 リリーゴールドは慌てて電波を拾い直す。今度は、もっと慎重に移動制御の電波を探っていく。


「あった!!」


 両目を見開く。今度こそ間違いない。

 機体を水平に保つ命令・高度を指定する命令・航路を指定する命令など、複雑な指示系統が1箇所のAIに繋がっていた。


 『限界上限まで高度を上げよ、急旋回を続けよ』


 リリーゴールドの脳波は、AIの電波と完全に同調していた。AIはこの単純な命令を、外部の書き換えとは認識しない。

 自律的思考による自分の導いた演算だと、誤解する。


「ほんとは、墜落してもらいたいけど――難しい命令は、スルーされちゃうんだよねえ」


 リリーゴールドの呑気な呟きが転がり落ちた。



 

 ――その時、軍用ヘリ内は大混乱に陥っていた。


「何故ミサイルを用意した?!」


 グラヴィアス大佐の声が、狭い機内にこだまする。

 操縦士のアスタリオ伍長の焦った声が返る。


「ノー・マム! 分かりません、おそらく兵器制御AIの誤作動です!」

「……整備は、どうなっていた?」

「イエス・マム! 点検は正しく行いました!」


 軍用ヘリ内で隊員たちがざわめき出す。

 その時だった。

 機体はどんどんと高度を上げていく。


「今度はなんだ?!」

「ノー・マム! 理解できません! 操縦制御AIが暴走しています!」


 アスタリオ伍長から、悲鳴のような報告が飛ぶ。

 

「手動運転に切り替えろ!」

「……大隊長! 手動切替回路が遮断されています!」


 操縦席で叫んだ時だった。軍用ヘリはその場で急旋回を始める。


「操縦不可能です……!!」


 その声で、機内の空気はいっそう混乱に陥る。


「まずいっすよ……! どんどん上がってるっす……!」

「お、落ち着けよカヴァーレ少尉。オレらにはパラシュートがあるだろう」

「モラレス軍曹! ほんとにパラシュートなんかで耐えられると思ってんすか?!」


 しかし機体は彼らの気持ちなど全く無視して、旋回しながら高度を上げ続ける。

 窓から見える吊り橋はだんだん遠ざかり、雲が近付いてくる。


 一体どこまで上昇するのか……このまま成層圏まで行く気なのだろうか?

 この軍用ヘリは地上作戦用だ。宇宙空間対応ヘリではない。

 高度が上がり続ければ、上空の寒さに耐えきれずいつか機体が凍りついてしまう。


 


 上空に回りながら舞い上がっていく軍用ヘリを、地上のイチヒとサフィールは信じられない顔で見つめていた。


 イチヒは、リリーゴールドの仕業だとすぐに理解できる。だが、サフィールには何が起きたのかさっぱり理解できなかった。


「な、なんだよ……アレ」


 思わず呟きが零れ落ちる。でも、今がチャンスだ。サフィールは、吊り橋を支えるロープの手すりをぎゅっと掴んで、また前へ進む。

 そろそろ橋の1/3に到達する。




 ――時を同じくして、回収ポイントに待機するセルペンス中佐と、その後方の隊員1人も空を見上げていた。

 針葉樹林の中でひっそりと闇に潜む隊員1人もまた、同じように上昇し続ける機体を見つめている。


 グラヴィアス大佐からの突撃命令は、未だ出ていない。しかし、彼女の乗る軍用ヘリになんらかの異常が起きたことは明らかだった。

 

 ヘリ部隊4人の増援は見込めない。

 地上に残った3人で、訓練兵3人を制圧しなければならなかった。


 セルペンス中佐は少し思案した。

 だが、決心して無線へ口を寄せる。


「こちら、セルペンス――

 イチフタヨンゴー。緊急事態につき、グラヴィアス大佐からの指揮権を一時移管する。繰り返す、指揮権はセルペンスに移管された。

 全隊員は待機を解除、ただちに出撃せよ!

 

 ――以上」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ