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2 天井に頭ぶつかるってレベルじゃねえな?

「リリーゴールド・ズモルツァンドさん。

 覚えてますよ、同室ですから」


 イチヒがにっこりと微笑むと、リリーゴールドはまるで子供みたいにはしゃぐ。


「あたしのこと、覚えててくれたんだ!  うれしー!」

 

 イチヒは内心、いや君を覚えられない人は存在しないだろ、とツッコミを入れた。

 もう新入生だけじゃなくこの宇宙のみんなが、『魔女の娘』に注目している。

 そもそも、常に発光してる人間なんて見たこともなければ聞いたこともない。

 

 目の前に来るとリリーゴールドと目線を合わせるために、イチヒは首が痛いほど見あげないといけない。

 こんなに背が高い人に会ったのははじめてだった。

 背が高いというか、巨大と呼ぶのがしっくりくるくらい。

 

「もちろん。入学式で話しかけてくれましたよね。覚えてますよ」 

「ほんと?  やったあ、あたしもイチヒ・ヴェラツカさんのこと覚えてたよ!」

 

 話しながら、イチヒはキャリーケースを引きずって歩きだす。

 するとリリーゴールドも隣に並んで着いてくる。どうやら一緒に部屋まで来てくれるらしい。

 助かる。こっちは道に迷って永遠に部屋に辿り付けないかと思っていたところだ。

 

「部屋ねー、ちっちゃいよ」

「そうなんですか?  2人部屋なのに困りますね」

 

 軽く話しているうちに部屋の前まで到着する。リリーゴールドが、壁のスキャナーに手をかざして解錠してくれた。

 

「ここに手をかざして、認証するんだって!  ほら!」

 

 リリーゴールドは、イチヒの手を取るとスキャナーに押し当てる。

 かちゃん、と扉の内部で鍵の開く音がした。

 

 部屋は、イチヒの想像よりもだいぶ広かった。地球の部屋よりも作りが全体的に大きい。

 天井も高く感じた。

 共用部なのか目の前にはリビングルームが広がる。簡単なIHコンロや冷蔵庫などが置いてあるのも見えた。その何もかもが、地球のものよりひとまわりは大きい。

 

 リリーゴールドは小さく身を畳みながらドアをくぐって入ってくる。

 

「ね、ちっちゃいよねー天井とか」 

「いや、部屋が小さいんじゃなくて君がでかいんだよ?!  部屋は充分でかいわ!」

 

 あ。イチヒは思わず勢いに任せてツッコミを入れてしまってからしまった、と口をつぐむ。

 

「あはは、イチヒ・ヴェラツカさんもちっちゃいかー」

 

 当のリリーゴールドは、イチヒの敬語が崩れたことなど気にもとめずに楽しそうに笑う。

 いや待て、今私を小さいと言ったか?

 この規格外な生き物に丁寧に接しようとしていた自分がなんだかアホらしく感じる。

 

「いや……私は、小さくはないが……」

「そっかあ。でもたしかに、イチヒ・ヴェラツカさんはママよりはおっきい!」

「あ、ああそう。ちなみにお母さんってあの魔女の……」

「うん!  ママ90cmだから!」

「いやそれは小さいとかいう次元じゃねえな?!」

 

 イチヒは思わず突っ込んでしまった。

 いやもう、理解が追いつかない。

 なにこの生き物……規格が違う……

 私の知ってる人類の常識通用しない。

 ……もしかして私が知らないだけで、地球外生命体ってみんなこうなのか?

 いや、そんなことあってたまるか!

 

 イチヒは、ここに来るまでに見た様々な異星人たちを思い出す。

 どこにも、天井より大きい人類も、90cmの人類もいなかった。

 今まで勉強した宇宙史にだってそんな存在は出てきた記憶がない。

 

 気を取り直して、リリーゴールドの正体を突き止める『任務』があるのだ、と自分に言い聞かせる。


 イチヒは呼吸を整えてから、リリーゴールドに声をかけた。

 

「個室はもう見ました?」

  

「見たよー!  イチヒ・ヴェラツカさんのお部屋はこっち!」

 

 リリーゴールドは、少しかがみながら歩くとリビングルームの右側の扉を指さした。それから、あたしはこっち!  と左側の扉を指さす。

 

「ああ、ありがとう。あと――その『イチヒ・ヴェラツカさん』っての、やめない?」

 

 イチヒは、キャリーケースを転がしながら右側の扉に近づく。

 

「じゃあー、『イチヒちゃん』?」

 

 リリーゴールドが腰を屈めながら、首を傾げる。

 

「何でそうなるんだよ!!  『イチヒ』でいいだろ!」

 

 子供の頃ですらほとんど呼ばれなかったちゃん付けに、イチヒはまたもや思いっきりツッコミを入れてしまうのだった。ついさっき、冷静に『任務』をこなそうと思ったばかりなのに。

 

「そっか!  イチヒかー!」

「ああ、私もあんたのこと『リリー』って呼んでもいい?」

「……!  うん!」

 

 リリーゴールドは、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 純粋な、子供のような。


 イチヒの心にちくり、と罪悪感が刺さった。


 イチヒはこの心の棘を忘れ去るように、わざと背中を向けると自室の扉を開けた。

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