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24 でも、イチヒの『友達』だから

『了解しました。以下に、初回報告内容を提示します。』

 

 カァシャはそう言うと、よどみなくそのデータを読み上げる。


  

『件名:定例報告 

 内容:対象者の魔法使用を確認。

 上級生と思われる男から接触あり。

 口論の末に魔法を使用。

 指を触れずに男を床に拘束。頭部を床に圧入。

 床の変形を確認。

 男の命に別状なし。

 本人にヒアリングを実施。魔法だと断定。 

 その後、魔法具と思われる装置を使用し床を復元。

 時間の巻き戻しと思われる様子あり。

 魔女と魔法に関する聞き取りを本人に実施。

 我々と異なる世界から来訪した技術だと説明あり。

 魔女に関して有力な手がかりは得られず。


 ――以上が、彼女による初回報告です』



「……これ、イチヒと初めて学校の食堂に行った日の話だ……たぶん、初めて『魔法』を見せた日のこと……」

 

 ――そんなに前から……

 だって、これって入学式の次の日だよ?!

 リリーゴールドは、信じられないという顔でカァシャを見た。


 

 カァシャは、AIらしく無表情で佇んでいる。

 

『はい。これは、あなたとイチヒが初めて寮に入った日の夜中に報告されています。使用端末は――学習室PCです』

 

 リリーゴールドは、はっとした。イチヒは、一緒の部屋になってからほとんど毎日、静かに勉強したいと言って学習室へ向かっていた。

 

「じゃぁ、……毎日、報告してたんだ……」

 

『はい。彼女は入学以降およそ1ヶ月間、ほとんど毎日報告任務を遂行しています。

 しかし、今回の複合環境障害突破訓練マルチエンバイロンメント・アサルトの報告はまだのようです。

 必要であれば、今後イチヒにどう接すると良いかのアドバイスもお伝えできますよ。どうしましょうか?』


 

「……ううん。自分で決めるよ、だって友達だから」

 

『了解しました。それは素晴らしい決断です。友人を信じたいという気持ちに、成長を感じます。

 必要であれば、自分で決断するためのアドバイスもお伝えできますよ。どうしましょうか?』

 

「あはは、また言ってる!  だから、アドバイスはいらないの!」

 

 カァシャは、だいたいいつも『お手伝いできますよ。どうしましょうか?』って言ってくる。でも。

 

「あたし、もう決めたんだ!  イチヒが打ち明けてくれるの、待つよ!」


 

 ――イチヒが、なにかの任務についてたって関係ないよ。

 だって、大怪我してもあたしを守ってくれたんだもん。あたしたち友達だよね?  イチヒ!


 


 一方その頃、イチヒの父とマエステヴォーレは軍病院で賓客扱いを受けていた。

 

「今回は、すぐ駆けつけてくださってありがたい次第だ。ヴェラツカ殿、マエステヴォーレ殿」

 

 赤く短い髪に褐色の肌。大柄で筋肉質なグラヴィアス大佐が2人の前にいた。

 

「だが――我々の準備不足で、娘さんを危険に晒してしまって申し訳なかった。

 二度とこのようなことが起きないよう、軍鍛冶医師の教育徹底と、タングステン金属ストックを必ず用意する」

 

 そう言って、グラヴィアス大佐は深々と頭を下げた。

 

「いえそんな……!

 頭をあげてください、大佐。うちの娘が自分から危険に飛び込んだせいです。

 それに、聞きましたよ、訓練室を溶かしてもいいからタングステンの治療をするよう仰ってくれてたそうじゃないですか」

 

 イチヒの父は、慌てて両手を振る。隣にいたマエステヴォーレはフォフォフォと快活に笑った。

 

「そうじゃそうじゃ。イチヒ嬢は己の頑丈さを盾にして無茶をする性分でのぉ。

 それに、儂が軍医たちには技を教えるんじゃ。タングステンでも打ち治せるようにしてやるわい」

 

 実は、マエステヴォーレは暫く軍病院の特別顧問として惑星シジギアに滞在することが決まっていた。

 


「それに関してはもう、本当に感謝しかない!

 マエステヴォーレ殿、技術ありがたく頂戴する!」

 

 グラヴィアス大佐はまた一段と深く頭を下げた。 

 聞いた話では、マエステヴォーレはメタルコアの鍛冶医師で伝説クラスの腕を持つ医師らしい。彼の腕で打ち直せない金属は存在しないのだとか。

 

 グラヴィアス大佐は、神話のドワーフのようだ、と思った。

 宇宙各地に伝わる神話には、至高の鍛冶師としてドワーフが登場する。

 超強力エネルギー炉を自在に操り、神のみわざのハンマーで、この世界全ての金属を自在に扱う鍛冶神だ。

 

 ――そういえば、神話のドワーフも長い髭をたくわえていたな。

 ドワーフをリスペクトしてらっしゃるのだな。

 

 グラヴィアス大佐は、目の前のマエステヴォーレの三つ編みを編んだ白く長い髭を見て頷いた。


 

 

「……金属みたいに真っ直ぐなお人じゃわい」

 

 マエステヴォーレは、一礼して去っていったグラヴィアス大佐の大きな後ろ姿を見送る。

 

「そうだね、イチヒの教官がああいう人だと父親としても安心だよ」

 

 イチヒの父は、優しく微笑んで同意する。それを見たマエステヴォーレは面白そうに笑った。

 

「全く、娘のこととなるとほんに甘くなるのぅ。ヴェラツカくんは。

 故郷のメタルコアにいた時からは想像もつかんよ」

「マエステヴォーレ!  過去の話はしない約束だろ!」

 

「フォッフォッフォッ……。暫く儂は船を離れるが、昔みたいにやんちゃして大怪我するでないぞ?

 昔のお主は、イチヒ嬢どころじゃない危険に自ら飛び込んで――」

「マエステヴォーレ!!  だから過去の話は――!!」

 

 喚いているイチヒの父を見ながら、マエステヴォーレは心底楽しそうに笑い声を上げた。

 

 ……全く、そっくりな親子じゃわい。

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