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22 『鍛冶医師』だけが、イチヒを直せる

「………………?」

 

 イチヒが次に目を覚ましたのは、薬臭いベッドの上でだった。

 瞬きをしてキョロキョロとあたりを見回す。身体がきしんでやたら重い。

 ――ええと、訓練をしていたんだ私は……それで、ゴールラインを超えて……


 

「リリーは?!」

 

 ガバッと起き上がる。近くに、一緒に試練を潜り抜けた相棒の姿はなかった。


 

「――目が覚めたばかりなのに、威勢がいいのぉ」

「あんまり父さんを心配させないでくれよ」

 

 イチヒの耳に聞き覚えのある声が届く。

 

「え――?」


 

 ベッドを仕切るカーテンを開けて入ってきたのは、長い白髪の顎髭を三つ編みにしたとても小柄な男と、銀色の髪をしたイチヒの父だった。

 

「マエステヴォーレさん?!  えっ?!  父さん?!  なんでここに……」

 

 三つ編みにした白い顎髭を指先で遊びながら、マエステヴォーレはフォフォフォと笑った。

 

「イチヒ嬢が怪我をして、軍病院に搬送されたと連絡があっての。ちょうど儂たち船団がベガ-アルタイル系の近くにおってよかったわい」

「娘が救急搬送されたと聞いたんだ、どこからだって父さんは飛んでくるさ」

 

 イチヒの父は、そう言ってベッドの近くに腰を下ろした。  

 

「もう手は痛くないか?  マエステヴォーレに修理手術(リフォージ)してもらったんだ」

 

 父の声を聞いて、イチヒは思い出したように右腕を見た。何事も無かったかのように、右腕は傷一つない。

 

「そうだ、私の外殻……剥がれて無くなってたんだ」

 

 最後の模擬宇宙空間での訓練を思い出す。降り注ぐプラズマ光からリリーゴールドを守ろうと、腕でもろに攻撃を受け止めてしまったのだ。


 

 マエステヴォーレは、行商人である父の宇宙船に乗る『鍛冶医師』である。金属星人(メタリニアン)は、その金属細胞の特異性から、通常の医療では傷や病を直せない。

 子供の頃からイチヒが怪我をする度に、父はマエステヴォーレに治療を任せていた。


 

「フォフォフォ!  さすがはタングステン細胞。外殻が割れただけで内部損傷はなかったの。打ち直す程もなく、金継ぎで済みおったわ」

 

 マエステヴォーレは右腕をグルングルンと回して、快活に笑う。

 

「金継ぎ?!  待って私の飛び散った破片……拾いに行けたのか?」

「何言ってるんだイチヒ。タングステンなら父さんが沢山持ってるだろ」

 

 イチヒの父はトントン、と己の胸を叩いた。金属細胞は親から子へ遺伝する。イチヒの父もまた、タングステンの金属細胞で出来ている。

 

「父さん……輸金してくれたのか、ありがとう……」

「ははは!  大した量じゃない、気にするな」

 

 イチヒの父は、娘のオレンジ色の金属髪をわしゃわしゃと撫でた。

 タングステンはレアメタルのため、宇宙にも埋蔵量が多くない。治療に使える素材が自然から調達できない時は、同じ種類の金属ボディから輸金するのが慣わしだった。

 

 軍病院といえど、タングステンの金属星人(メタリニアン)が入院することは想定していなかったのだろう。そもそも、タングステン一族はほとんど母星メタルコアから外へは出ていかない。

 イチヒと、イチヒの父が例外なのである。


 

「それにイチヒ、新入生で史上初の難しい訓練をクリアしたんだろう?  凄いじゃないか!」

 

 父は、笑顔でイチヒの頭を撫でた。父さんが褒めてくれることが、たまらなく誇らしかった。

 

「私だけの功績じゃないよ。バディの……リリーがいたからクリア出来たんだ」

「おお!  『魔女の娘』だな!  同室だって言ってたもんなあ。仲良くなれたんだな」

「――ああ。変わったヤツだけど……大事な友人なんだ」

 

 イチヒは、ふっと笑った。


 

「リリーも怪我をしてるはずなんだ。私、リリーを探さないと……」

 

 イチヒはベッドから降りようとする。腕も治してもらったし、もう寝てなくたって平気なはずだ。


 

「イチヒ――!!!!!」

 

 その時、聞きなれた元気な声がした。

 

「院内ではお静かに!!」

「アッはあい……ごめんなさい……」

 

 廊下から、院内関係者に怒られてしょげるリリーゴールドの声まで聞こえてきた。

 足音が近づいてくる。イチヒの視界には、カーテンレールの上の隙間から、天井の高さを気にして屈む白い頭が見えていた。

 カーテンがジャッと勢いよく開けられる。

 

「イチヒ、起きたー?!  ……アレ、知らない人いる……」

 

 リリーゴールドは、いつものようにぼんやりと青白く発光しながら現れた。

 腕や頭に包帯を巻いてはいるが、目はキラキラと金色に輝いている。

 リリーゴールドの身長の半分もないマエステヴォーレと、イチヒよりちょっと大きい彼女の父を交互に見る。

 それから、リリーゴールドはちょっと気まずそうに肩を竦めた。

 

「すみません……イチヒしかいないと思って……」


 

 廊下をバタバタと走る音がする。  

 

「……ズモルツァンドはどこだ?!」

「絶対安静のはずなのに……どこいったんだ……」

 

 何人かの医師だろう、話し声まで聞こえてくる。


 

「あっ……」

「リーリーー?!  お前、病室抜け出してきたな?!」

 

 イチヒのいつも通りのツッコミが冴える。


 

「えへへ……目が覚めたらイチヒに会いたくなっちゃって」

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