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16 こちらがご所望の『魔女の娘』と『宇宙最強の金属』です

「おっ、やってるねえ!」

「ご苦労様です、サルベル少佐」

 

 赤い短髪をかきあげながら、グラヴィアス大佐がセルペンス中佐を伴って現れた。

 セルペンス中佐は、ひんやりとした声で基礎訓練担当のサルベル教官を労う。


  

「大佐!中佐!  視察、感謝であります!」

 

 サルベル少佐は、彼女たちの方を向いて勢いよく敬礼した。

 ふわり、と彼のたてがみのような金髪が揺れた。

 

 グラヴィアス大佐とセルペンス中佐は軽く敬礼を返すと、モニターに目を戻す。

 そこには、各ドローンが映し出す映像が10機のモニターに渡って流れていた。

 彼女たちのお目当てはもちろん、――銀葬先鋒隊(ガラクス・セパルト)候補の、イチヒとリリーゴールドだ。

 ドローン1カメが2人の姿を捕える。ちょうど、底なし沼を2人で渡っている場面だった。


  

「おっ、やっぱりあいつらが先頭か!」

 

 グラヴィアス大佐は、身を乗り出して画面を食い入るように見つめる。


  

「――今回の脱落者は?」

 

 セルペンス中佐は、サルベル少佐の方を向いて質問する。

 

「はい、今回は第1ステージ『灼熱砂漠』で1組、第1障害スポット『大蛇』で1組であります!  

 しかし、まだ『灼熱砂漠』に3組が残っており、タイムオーバーの可能性が高いであります!」

 

 サルベル少佐は、手元の集計データを見ながらよどみなく答えた。

 今回担当するα班は、イチヒたちを含め合計12名6組で構成されている。

 

 初回の複合環境障害突破訓練マルチエンバイロンメント・アサルトは、そもそも訓練兵たちに『行軍の過酷さ』を知らしめる目的で実施されており、完走者を出す目的での難易度調整は行われていない。

 むしろ、一度絶望させるのが目的と言っても良い。


  

「ほぅ、ではヴェラツカ、ズモルツァンドペアは完走ペースの速度であると?」

 

 データを覗き込みながら、セルペンス中佐がまた問う。

 

「イエス・サー。このまま行けば可能性は限りなく高いであります!」

 

 サルベル少佐が答えた時、手元のデータリストに更新がかかった。


 

 『ズモルツァンド、ヴェラツカペア、第2障害スポットをクリア』


 

「おおっ!  やるな!  無事沼をぬけたか!」

 

 グラヴィアス大佐は実に楽しそうな声音だった。

 それを聞いたサルベル少佐は、急いでスピーカーに向かう。


 

 『ズモルツァンド、ヴェラツカペア順調に第2障害スポットを通過ァ――!!』


 

 サルベル教官の声をドローンがイチヒとリリーゴールドの元へ届けた。

 1カメには、ドローンに向かって笑顔で手を振るリリーゴールドと、それを肘で小突いて制裁するイチヒの姿が写っている。


 セルペンス中佐が、グラヴィアス大佐の元へ戻る。

 

「いかがですか?  大佐、彼女たちの様子は」

「うむ、実に興味深いぞ!  しっかし、私にもあいつらがどうやってクリアしているのか皆目検討がつかん!」

 

 アッハッハ、とグラヴィアス大佐は豪快に笑う。

 先程も、彼女たちは『底なし沼に全く沈まずに歩ききった』ように見えたのだ。

 

「――そうであります!  『大蛇』も無力化され、驚異的な速度で踏破し続けているであります!  ドローン映像からでは理解不能であります……」

 

 サルベル少佐も困惑した様子だ。

 

「――面白い。実に面白いな!  これが『魔女の娘』と『宇宙最強の金属』のバディか!」

 

 グラヴィアス大佐はまた、大きな声で豪快に笑う。

 

銀葬先鋒隊(ガラクス・セパルト)正式任命が待ち遠しいですね」

「さよう!  私の直属の部下となる日が楽しみだな!」



 

 ――一方、底なし沼を抜けたイチヒとリリーゴールドは疲労を引きずりながら次のエリアへ向かっていた。

 泥がまとわりつく足は歩きにくく、背負った自動プラズマ小銃もずっしりと重たく感じる。じわじわと降る雨も2人の体力を奪いにかかる。

 いつも楽しげなリリーゴールドも、眉間に皺を寄せながら歩いていた。

 

「……大丈夫か、リリー?」

「大丈夫……さっきの演算が難しくて……ちょっと頭痛い……」

「大丈夫かよ?!  無理すんな」

 

 イチヒは背伸びしてリリーゴールドの背中を撫でる。相変わらずこの友人は、桁外れに背がでかい。  

 

 ――いくら魔法といえど、デメリットなしに使える訳じゃないんだな。いや、物理なんだったか。

 

 イチヒは、この訓練が終わったら魔法について詳しく聞こう、と考える。


 

 ……『任務』のためじゃなく、私がリリーのことを知りたいんだ。


 

「ううん、すぐ治るから大丈夫ー、次行こ」

 

 リリーゴールドは力無く笑うと、その長い指でこめかみを揉んでいる。

 

「……わかった。無理ならすぐ言えよ?  ええと、つぎはガスエリアだったか」

 

 イチヒは記憶を辿る。出発前に見た立体ホログラムでは、もやがかかった薄暗い場所だったはずだ。

 歩き続けているうちに、いつの間にか雨が止んでいた。


 目の前に物々しい巨大な人工壁が現れた。人工壁はドームの天井近くまでそびえている。

 ――ガスって言ってたか。外に漏らさない為の壁だろうな。

 

 イチヒの身体は金属でできている。ガス環境くらいでどうにかなるほどやわじゃない。

 

「リリー……、あんたガス空間で何分耐えられる?」

 

 未だこめかみを揉んでいる友人に声をかける。リリーゴールドは、うーんと言いながら考えている様子だ。


 

「たぶん……普通のガスなら引火しないで済むと思う」

「……ん?  何て?」

 

「あたし、恒星なんだよね」

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