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12 『鬼のような教官の監督する筋トレ』あるいは『鬼のようにキツい筋トレ』

 入学式から1ヶ月ほどが過ぎた頃。

 イチヒは段々宇宙軍養成学校の生活にも慣れ始めていた。

 リリーゴールドと連れ立って歩きながら、基礎訓練のためにドーム訓練場へ向かう。

 惑星環境を問わず動ける身体を作るため、基礎訓練は毎日繰り返されている。


「うぅ……またこの時間が来ちゃった」

「なんだ、リリーも基礎訓練嫌いなのか?」

「嫌いっていうか――難しーい」

 

 金色の目を半分ほどのジト目に細めてリリーゴールドがうなだれる。

 ……うん、気持ちはわかる。

 イチヒは隣を歩く友人の肩を慰めるようにぽんぽんと叩いた。

 


「そこ!  なぜずれる!  ズモルツァンドォッ!!」

 

 たてがみのような金髪と髭を振り乱し、分厚い胸板の男が吠えた。

 基礎訓練担当のサルベル教官である。

 彼の他にも、数人の軍人が監視役として仁王立ちして見下ろしてくる。

 

「イエッサー!」

 

 リリーゴールドは歯を食いしばって応えた。が。

 

「声が小さい!!」

 

 サルベル教官の容赦ない怒号が飛ぶ。

 リリーゴールドは腹に力を入れてもう一度叫び直した。

 

「イエッ!サー!!!」


 

 ――またやってる……

 イチヒは、自分の背後から聞こえてくるリリーゴールドの声にいたたまれない気持ちになる。

 だが、友人の心配をしている場合ではない。

 気を抜けば、次怒鳴られるのは自分だ。


  

 イチヒたちは今日も、4kgの自動プラズマ小銃を両手で抱えて、低酸素・高重力に設定された模擬高山を1時間走り抜いた。

 そして、ほとんど休憩なく今の筋トレメニューが始まったところである。

 『鬼のようなサルベル教官が監督する筋トレ』なのか、『鬼のようにキツい筋トレ』なのか、この筋トレメニューは訓練兵の間では『鬼の筋トレ』と呼ばれていた。

 


「動作が揃っていない!  動作を揃える着意を持って、もう一度最初から実施をする」

 

 サルベル教官の怒号が飛ぶ。リリーゴールドの他にも、既に3人がリズムを外し指導が入っていた。

 

「ファースト!

 空間適応腕立て伏せグラビティ・プッシュアップ用意!」

 

 サルベル教官の号令でイチヒたち訓練兵たちはザッと一斉に、地面に両手を着く姿勢をとる。

 

  

「はじめ!」


 

 サルベル教官の声が響くと、ドーム内の重力が急に軽くなる。

 空間適応腕立て伏せグラビティ・プッシュアップでは、低重力状態や高重力状態を擬似的に作りだしその中で腕立て伏せを行う。

 目的は、どんな惑星環境でも体制維持ができるようになることだ。

 その日の訓練が低重力になるか、高重力になるかは完全にランダムである。

 


「腰が下がってるぞ!  腰上げろォ!」

 

 サルベル教官は、訓練兵たちの間を縫って歩いていく。

 監視役の軍人たちも、一人一人訓練兵の横に立ち止まってはフォームを確認して回る。

 

「数ちゃんと数えろ!  30回だ!」

 

 サルベル教官の叫び声のあと、訓練兵たちの数字カウントの声量が上がる。


  

 ……28。29。30。

 全員が手を地面に着いて腰を上げたプランクの姿勢のままピタリととまる。

 しかし、1人がよろめいた。


 

「姿勢揃えろ!  腰を上げろ!  動くな!」

 

 サルベル教官がよろめいた1人の隣へ立つ。

 

「1人の姿勢が崩れれば、隊列に穴が空く!  隊列が崩れれば、全員が危険にさらされる!  しっかり揃えろォ!」

「アイッ!  サー……ッ!!」

 

 よろめいた訓練兵の声だろう、イチヒの後方から絞り出すような応答が聞こえる。


  

「――全員の姿勢が揃えば終了とする!!」

 

 サルベル教官の力強い怒号が飛んだ。


 数秒の間。イチヒの額を汗が伝う。

 ――頼む誰だか知らんが早く姿勢を揃えてくれ……!  私の腕が限界だ……!!


  

「直れ!」

 

 その号令で全員がガバッと立ち上がり直立不動の姿勢をとる。指先までぴっちりと太ももの横に着けた。

 

「よし。では次!

 セカンド!  異星環境模擬屈伸運動プラネット・スクワット用意!!」


 ――この調子で鬼の筋トレは、間髪入れずに5種目まで続けられていく――

 

 

 数時間後、鬼の筋トレをこなしたイチヒたち訓練兵はつかの間の休息を謳歌していた。

 

「今日もまじキツかったー!」

「いやほんと、でも最初よりは揃うようになったくね?!」

「わかる、最初筋トレ最後まで行けずに時間終わってたよな!」

 

 訓練兵たちは和気あいあいとボトル片手に話している。


「うー……また怒られた……」

 

 リリーゴールドも、ボトルから水を一気に飲むとうなだれた。

 

「でも、リリー!  今回11回だけだったぞ!」

「やだー!  まだ2桁じゃんー!  イチヒは……?」

「……んー、6回だな」

「少ない!!!」

「いや少なくはねえよ……」

 

 イチヒも基礎訓練はあまり得意とは言えない。

 周りに合わせるのは難しいし、後半は疲れてしまってこなすだけで精一杯になってしまう。

 だが、リリーゴールドは本当に集団行動が苦手らしかった。基礎訓練初日など、教官はリリーゴールドのぴったり隣に立って毎回怒っていた。


 

「ではこれより、複合環境障害突破訓練マルチエンバイロンメント・アサルトを開始する!  二人一組を組み所定の位置へつけ!」


 

 サルベル教官の声が飛び、イチヒたち訓練兵に緊張が走った。

 昨日までの追加筋トレとは違う様子に、イチヒは唇を引き結ぶ。


 

 ――そこには、ふたりの運命を左右する『試練』が待っていた。

 

 想像を絶する、過酷な訓練の幕開けである――

入学序盤の一大過酷訓練編、開始です!

21話までバトルが続きます⚔️



ここまで読んでくださってありがとうございました!


章の区切りまで来たので、ここでひと息。

もし「おっ」と思ってもらえたら、ブクマ・評価・感想などなど……

ポチッとリアクションいただけると、めっちゃ励みになります٩( 'ω' )و✨

(作者が元気になるボタンです!)


続きもがんばって更新していきますので、これからもよろしくお願いします〜!

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