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110 あの日から、2人はいつも一緒だった

 次の日、イチヒとリリーゴールドは久しぶりに宇宙軍養成学校の女子寮のロビーに帰ってきていた。

 2人は、ソファに座りながらTVを見つめている。


 画面上部に、デカデカと【速報】宇宙軍、養成学校理事長の「暴走」を公式発表 疑惑の深まる軍の対応に批判集中、とのテロップが流れていく。

 

『宇宙軍、緊急記者会見で「不祥事」を陳謝

 

 先日の「軍事機密AI」による告発を受け、国際社会の厳しい視線に晒されていた宇宙軍が、先ほど緊急記者会見を開き、一連の疑惑について公式見解を発表しました』


 AIアンドロイドの平坦な声が響く。

 

 TV画面は、ニュースキャスターを映した画面から切り替わる。

 真っ黒い軍服に身を包んだ元帥が、深く頭を下げる映像が映し出されていた。

 一斉にフラッシュがたかれ、画面は白く点滅して見える。


 その映像をバックに、AIアンドロイドは平坦な一本調子の声で説明を続ける。

 

『総司令官は、「今回の不祥事を重く受け止め、徹底的な調査を実施した」と述べ、宇宙軍養成学校における不正行為が確認されたことを明らかにしました』


 昨日会ったあの元帥が、気難しい顔で話している映像が映る。

 

 イチヒは手元の缶詰から、乾パンをひとつつまんだ。宇宙船ハルサメと別れる時、サナエが娘たちのために渡してくれたものだった。

 リリーゴールドが缶詰は乾パンが一番好き! と言っていたのを覚えてくれていたらしい。

 リリーゴールドも、口いっぱいに乾パンを頬張ってガリゴリと噛み砕いていた。

 

『養成学校理事長の「暴走」が発覚、懲戒解雇・軍法会議へ

 

 宇宙軍の発表によると、調査の結果、宇宙軍養成学校の理事長による「独断専行」と「暴走」が明らかになったとのことです。

 特に、告発内容の核心であった「魔女の娘」に対するマインドコントロールや洗脳行為は、理事長が主導し、秘密裏に進めていたものと断定されました。

 

 宇宙軍は、理事長が軍の規律に反し、個人の判断で非人道的な計画を実行していたとし、本日付で理事長を懲戒解雇処分とすることを発表。


 さらに、軍法会議へ付託し、軍事法に基づいて厳正に処罰する方針を明らかにしました。

 現在、理事長は既に身柄を拘束されており、間もなく正式な訴追手続きが行われる見込みです』


「“理事長の暴走”……なぁ」


 イチヒは釈然としない気持ちを抱えていた。

 ――私は、元帥を始め軍本部の上層部も、信用ならないと思うけどな。

 

 彼女の言葉に、リリーゴールドはうーん、と唸る。


「――でも、あたしグラヴィアス大佐や、セルペンス中佐が、理事長の味方じゃなかったって分かって、それだけでも嬉しいよ」

「それは……そうだな。あの人たちは、いつも守ってくれようとしてた」

「うん。宇宙軍全部が、あたしやママを利用してた訳じゃないって、それがわかって良かったと思う」


 リリーゴールドは、イチヒが出会った時と同じ屈託ない笑顔を浮かべた。

 イチヒの気持ちが暗くなる時は、いつもリリーゴールドが太陽みたいに照らしてくれる。

 

 

『一方で、宇宙軍の「隠蔽」疑惑に批判の声

 

 しかし、今回の宇宙軍の発表に対し、国際社会からは依然として厳しい批判の声が上がっています。


 その最大の理由は、昨日、軍事機密AIが全世界のネットワークに公開した「理事長が生徒を訓練用戦闘機で殺害しようとする中継映像」について、宇宙軍が一切言及しなかった点です。

 

 この映像は、宇宙軍養成学校内部で実際に起きたとされる訓練中の事故の瞬間を捉えたものであり、理事長の悪質性と計画の危険性を明確に示唆する決定的な証拠として、多くの人々に衝撃を与えました』


 その音声が流れた途端、イチヒは声を上げる。


「――訓練中? 冗談じゃない。

 あれは、わざわざ私たちを狙ってきたんだ。そんなの、誰の目にも明らかだろ。

 やっぱり……まだマスコミは、宇宙軍に完全には逆らえないんだな」


 今回の一件で、魔女の残した伝説のAIが宇宙軍に真っ向から反抗したことで、人々は宇宙軍に疑問を抱くようになった。支配されきっていた言論統制にも、変化の兆しがあるように見えた。

 だが、何千年もかけて築かれた支配体制は、そう簡単に変わってくれないらしい。 

 

『なぜ、最も重要な証拠であるあの映像について触れないのか?

 理事長の暴走というだけで、軍全体の責任を矮小化しようとしているのではないか?

 といった声が、各国政府や市民団体から相次いでいます』

 

『専門家「軍の体質そのものが問われている」

宇宙倫理学の権威である……大学の……教授は……今回の宇宙軍の対応について、「理事長個人の責任に帰すことで、組織全体の責任を回避しようとする典型的なパターンだ」と……』


 TVはまだ、ニュースの続きを話し続けている。

 だがTVに飽きたのか、リリーゴールドは食べかけの乾パンの缶詰を手に取ると立ち上がった。

 イチヒは、傍らに立つ彼女を見上げる。


 リリーゴールドは、親友に手を差し出した。


「あたしたちの部屋に帰ろう、イチヒ」

「……ああ。帰ろう」


 イチヒは、その真っ白で大きな、ほんのり発光する手を取る。

 

 ――なんだか、初めてリリーゴールドに出会った日のことを思い出した。

 あの時も彼女は子供みたいな顔で笑って、初対面のイチヒにその手を差し出してきた。


 2人の運命は、あの日始まったんだ。

間もなく1部完結です!

本日最終話まで4話公開します。ここまで書ききれたのも、読んでくださる皆様のおかげです。

最後までぜひ、お付き合下さい!

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