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107 宇宙船ハルサメ、空母アストライオスに搭乗!

 宇宙船ハルサメが、空母アストライオスと合流したのは、あのニュースが騒ぎになって1週間ほど経った日のことだった。


「父さん……! 母さんも……!」


 イチヒが駆け寄ると、ギィとサナエはイチヒをぎゅっと抱きしめた。


「無事で……良かった……」

「はは、父さんは強いんだぞ。なんてったって宇宙船ハルサメ船長だからな」

「ふふ、ありがとう、イチヒ。それから、リリーちゃん。2人が私たちを助けてくれたのよね」


 サナエは、イチヒを抱きしめたままリリーゴールドの方を向いた。

 リリーゴールドがこくりと頷く。久しぶりに聞く、地球語の響き。

 4次元存在のリリーゴールドは、どの惑星の言語でも、脳波を使って強制的に会話も通訳もできるけど、イチヒの故郷である地球語の響きが好きだった。

 

 すると、マエステヴォーレが宇宙船ハルサメ乗組員の2人――シェンとカンを連れて現れた。こちらは、聞きなれた宇宙共通語だった。


「リリー嬢の早めの警告のおかげで、宇宙軍を出し抜けたわい」

「マエステヴォーレさん! まさか、あたしと合流したいって言ってくるとは思ってなかったけど……みんな無事で嬉しいよう」

「なぁに、何かを守る時は見える位置の方がいいじゃろ?」


 マエステヴォーレは、またいつかの日のようにおじいちゃんウィンクをして見せる。


「君が、リリーゴールドちゃん? 船長と爺さんから話は聞いてるっす! 俺は、ハルサメのメカニック。カン・ゴルディ――見ての通りの金属星人(メタリニアン)だぜ!」


 ハニーゴールドの髪を揺らして、カンがニッと笑って手を差し出してくる。リリーゴールドは、にっこり笑って、自分より背の低い彼に屈んで握手を返す。


「あたし、リリーゴールド! 見ての通り、魔女の娘だよ! あと、イチヒのバディ!」


「こっちも同じく。オレは航海士のシェン・シャララ。よろしくな、リリーゴールドちゃん。

 ――ああ、握手はやめとくよ。オレ水銀の金属星人(メタリニアン)だから、有毒なんで」


 深紅の髪のシェンが苦笑しながら言った。彼の深紅の髪の毛は、金属光沢と言うより鉱物じみた光を放っていた。ほんのり、硫黄の香りがする。

 よく見れば、彼の爪もネイルに見えたが、自前のようだった。髪と同じような鉱物の色をしている。水銀が硫黄と反応して、鉱物化していた。

 その時、イチヒが2人の間に入ってくる。


「大丈夫だよ、シェン兄さん。リリーは全毒類無効だから。なんなら私たち金属ボディより強いしな」


 そう言って2人の手をむんずと掴むと、はい、と言って握手させる。


「え、そうなの? リリーちゃん、もしかしてめっちゃ強いんじゃね?」

「そりゃそう! だって私のバディだからな!」


 なぜか、リリーゴールドじゃなくイチヒがえへんと胸を張ってみせた。リリーゴールドはえへへ、と嬉しそうに笑っている。


 宇宙船ハルサメから持ち込んだ、『酸素生成フィールド』のセッティングが完了したサフィールとネフェルスがこちらへ向かってくる。

 イチヒの母サナエのために、今度は空母アストライオスに酸素生成フィールドを移し替えていたのだ。

 イチヒの父ギィが大大大奮発してくれたおかげで、この酸素生成フィールドは対惑星用の大規模フィールドである。巨大なアストライオス全域に、酸素を行き渡らせることが出来ていた。


「セッティング、終わりましたよ」


 サフィールがにこにこと、鈴のなるよそいきの声で話し出した。久しぶりに聞くその声音に、アストライオス乗組員全員が彼を一斉に振り向く。


「な、なに?!」


 次にサフィールが発した声は、いつものちょっとかすれた低い声だった。


「いや……久しぶりにサフィールのぶりっ子声聞いたから……」


 とは、イチヒの言葉。それにネフェルスが声を被せてくる。


「てかウチ、その声聞くの初めてなんだけど! ヤバ! サフィール、まじでめちゃくちゃ“先祖返り”じゃん!!」

「「“先祖返り”?」」


 ネフェルスの言葉を聞いて、イチヒとサフィールの声がハモる。


「そそ! 水棲星人(エラフィリア)って、ウチが住んでた頃はみんな、綺麗な声に綺麗な尾ひれの、マーメイド型だったんだよ。

 それがいつの間にか、喋れない二足歩行ゴツゴツサメマッチョになっちゃったみたいだけどさ――」


 イチヒは、昔語学勉強のために読んだ、ネレイダの人魚をモチーフにした絵本を思い出していた。

 恋をした人魚の王子が、美しい声を引き換えに屈強な足を手に入れて、地上の恋人と結婚する話。

 

 ネレイダには人魚をモチーフにした童話――不時着した宇宙船のパイロットが、美しい姿のマーメイドに惑わされてその海に溺れる話もある。


 てっきり、ただの物語上のモチーフだと思ってたけど案外事実をベースにした話だったのかもな。

 イチヒはふむ、と考えていた。子供の頃読んでいた絵本や童話が、今一緒の宇宙船に乗っているのだ。

 この世界に散らばる文明には、魔女たちの生きた証が息づいている。


 

 その時だった。

 セトのけたたましい叫び声と共に、アストライオスがシジギア古語の警告を鳴らす。


「《宇宙軍養成学校所属の戦闘機が、単機で接近中――! これより、空母アストライオスは、迎撃態勢に移ります》」


《まずいである――! 明確な殺意を持った男が、乗っているである!!》


 クリスタルスカルのセトは、最大速度で飛びながらリリーゴールドの元へ現れる。

 


 緊迫した空気が流れた。リリーゴールドはイチヒと目配せし合って、操縦席へ走る。

 その時、サナエの声がした。


「まぁ……! これが“翻訳フィールド”なのね! 素敵だわ!」


 そう、シジギア古語しか話さないアストライオスのために、この空母には翻訳フィールドが搭載されている。

 かつては、イチヒのための装備だったが今や乗組員ほぼ全員のための装備になった。

 

「おい、サナエ!! 今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?!」


 隣で、ギィが全力で突っ込んでいた。それを見たセトが高い笑い声をあげる。

 

 

《――くくっ! さすがはイチヒの母であるな!》

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