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104 『理事長』VS『元帥』

「なぜだ!!」


 バァアン……

 理事長が、拳で机を叩いた音が、他に誰もいない静かな理事長室へ響いた。

 

 宇宙軍統治エリアの外……観測可能エリアにいる、魔女の残した伝説のAIのうちのもうひとつ、AIマミィが宇宙軍のデータを無許可で公開した。


 軍は、侵攻の中でやっとAIカァシャの次となるふたつめのAIマミィを見つけたばかりだった。


「……『魔女の娘』が、AIを掌握している……ッ」


 出し抜かれた悔しさが胸に去来する。

 こちらは、正直AIカァシャすら掌握したとは言い難いのに。


 AIカァシャは、『魔女の娘の教育に役に立つ』と認識した場合にしか力を貸してくれないのだ。

 

 200年間、理事長の曽祖父の時代からずっとAIカァシャを研究してきて、やっと『アクセス禁止情報』に指定されていた『魔女に関するデータ』を引き出せるようになった。それも、つい最近のことだ。

 分かったのは、リリーゴールドに関係している場合のみ、教育のために『魔女に関するデータ』を提供してくれるのだ、ということ。

 魔法の使い方や、仕組み、リリーゴールドの存在そのものについて質問したところで、彼女は『お伝えできるデータがありません』としか吐かない。


「やっと……魔法の兵器が手に入ったはずだった。なぜ……私は、どこで失敗したというのだ?」


 理事長は頭を抱える。

 これから、という所だった。やっと念願が叶って、『魔女の娘』の力で私はこの宇宙の支配者になるはずだったというのに。

 

 宇宙軍養成学校宛に、各惑星政府や、連合議会、さらには個人市民からの非難が相次いでいた。“理事長”として、どうにか対処せねばなるまい。

 

 フン、今まで宇宙軍に恐れを成していたくせに……だが、これが『魔女の残した伝説のAI』の力。AIが味方と思えば、我々にすら刃向かえるという訳か。

 本来なら、宇宙軍()がこの『魔法』のAIの力を手にするべきだ。なのに、なぜ――


 理事長は苦々しい思いで、非難メッセージの山を睨みつけた。


「ああ、そうだな。これもそれも――あのイチヒ・ヴェラツカ(使えないスパイ)のせいだ」


 沙汰を下そう。

 命令に背けば、『家族の命が危ない』そう親切にも私は再三、忠告してやったのに。

 命令を無視した兵士には、それ相応の責任を取ってもらう他あるまい。

 

 理事長は、意地の悪い底冷えする笑みを浮かべた。焦りに支配された頭も、徐々に冴え渡ってくる。

『任務を失敗した兵士に沙汰を下す』それは、自分の仕事の中で、2番目に好きな瞬間だ。

 ――1番目はもちろん、『優秀な兵士を完全な手駒に掌握した』瞬間だが……


「自分のせいで、友人の家族が死んだと知れば――『魔女の娘』は今後は友人を守るために、私に従うはず」


 各部署への調整のため、理事長はほの暗い笑顔でキーボードを叩いた。


 


 ――時を同じくして、宇宙軍本部、惑星セントゥリオンの最高司令室では、理事長の息子が彼と同じような苦い顔をしていた。


「AIが、宇宙軍に表立って反抗するとは――予想外でした」


 最高司令室には、将校たちが緊急招集を受けていた。元帥の言葉に、皆は思い思いに頷く。


「『惑星安全安定化作戦』はまだ進行中です、こちらから世論の目を逸らさせないと」

「何を恐れる? たかが市民の言うことですよ、言わせておけばいい」

「いや、いっその事、パフォーマンスとして『宇宙軍養成学校』を粛清しては? そちらに目を向けさせられるはずです」

「確かに。良いチャンスですな。宇宙軍養成学校は、少々目に余る行動が……」

「コラ、元帥の前ですよ。彼の父が理事長を務めておられるのだから――」


 彼らは、元帥が選びぬいた『片腕』たちである。だからこそ、元帥は彼らに自由な振る舞いを許していた。


「……いずれ追求は『宇宙軍』そのものになりうる。今は沈黙している魔女の娘が、いつ我々を糾弾するとも分かりません。今や彼女は、市民を味方につけています。そして、証拠を持つAIが控えている。


 私も、『見せしめの粛清』は必要だと考えていたところです」


 元帥は、彼の父そっくりなほの暗い笑みを浮かべた。

 

 ここに集まった将校たちは、この親子の確執すら理解している。

 最高司令官である、『元帥』をもってしても完全に排除しきれない前時代の遺物――それが『理事長』だった。


 5人の将校たちも、元帥の言葉に口々に賛同していく。


「ええ! それによって人々の目は、『惑星安全安定化作戦』から逸らされる」

「たかが市民ですが――まぁ、無理に敵を作ることもない、賛成です」

「そうです! 『粛清』を行うことで、市民はより深く我々の支配をありがたく感じることでしょう」

「一石二鳥ですな。邪魔者を廃し、宇宙軍の株は上がる……」

「全く。皆さん歯に衣着せぬ物言いを……でも、僕も賛成ですね」 


 その様子を見て、元帥は鷹揚に頷いた。まるで、理想通りだ、と言わんばかりに。


 

「――では、『理事長』には、沙汰を下しましょう」

 


 まだ、将校たちには話していないが、私には『奥の手』がある。

 あのメッセージの白い男――

 彼は明確な協力者だ。それも、『魔法』が使える。

 彼がいるなら、理事長と養成学校など捨ておいて構わない。

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