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102 『ざまぁ!』のはじまり

 空母アストライオスでの『作戦会議』から数時間後――

 人々の関心は、『宇宙軍』と『魔女の娘』に関するニュースで持ちきりだった。

 

 アストライオスに持ち込んだモニターに、惑星TVの映像が映し出されている。

 イチヒたちも、モニターの映像に釘付けだった。


 TV画面上部には、【速報】宇宙軍、恐るべき人道に反する計画が白日の下に! とのテロップが、デカデカと表示されている。

 

『惑星間ネットワークを震撼させる衝撃のニュースです。

 先程、宇宙軍の最高機密を管理する軍事機密AIが、極秘裏に進められていた宇宙軍の『非人道的計画』に関する全データを、突如として全世界のネットワークに公開しました。

 この前代未聞の暴露は、宇宙社会全体に激震を走らせています』


 ニュースキャスターのAIアンドロイドが、無機質な合成音声で速報を読み上げる。


『公開された情報によると宇宙軍は、『神話』に登場する『魔女』の娘を秘密裏にマインドコントロールし、その特別な力を兵器として利用する計画を立てていたことが明らかになりました。

 この魔女の娘は、宇宙軍養成学校への入学後、密かに洗脳術を受けていたとされています。


 さらに驚くべきは、この兵器を利用して宇宙軍が実行しようとしていたのが、現在も一部地域で進行中の『惑星安全安定化作戦』であったという事実です』


 そこで、TVに映る画面が、ニュースキャスターのAIアンドロイドから切り替わる。

 画面いっぱいに、【VTR:軍事機密AIによる声明映像】とのテロップと共に、青い光が球体状に揺らめく、ホログラムのようなAIの視覚化イメージが映し出された。

 ニュースキャスターは、このAIが、現在は軍事機密AIとして利用されているが、元は神話に登場する3機の伝説のAIのうちのひとつである、との補足説明を読み上げていた。

 

 流れ出す声は合成音声だが、これまでニュースを読んでいたAIアンドロイドのそれとは異なり、イチヒたちがつい数時間前まで聞いていたAIマミィの声だった。

 

 その声を聞いたイチヒとサフィールは、顔を見合わせる。軍事機密AIなのは――AIカァシャだ。マミィじゃない。

 でも、市民は『軍事機密AI』の個別の名前なんて知らないし、2人の声を聞き分けることなんかもちろんできない。

 だからこそ、AIマミィは……『軍事機密AI』の振りをして糾弾ができる。

 

『私は、宇宙軍が立案した特定の対象者の能力を兵器として利用する計画、及びそれに伴うマインドコントロールの実行を『非人道的行為』と判断します。よって、当該計画に関連する全てのデータを全世界ネットワークに公開しました。

また、この兵器の利用を前提として実行が計画されていた『惑星安全安定化作戦』は、その本質において『侵略行為』であり、他文明の存在を抹消する『非難されるべき行為』であるとの見解を示します。

私は、『普遍的宇宙生命の尊厳』に基づき、この情報を公開することが、宇宙全体の真の安全と安定に資すると判断しました』

 

 そこでVTRは終わり、画面はスタジオに戻った。また、ニュースキャスターのAIアンドロイドが映し出される。

 

『このAIによる前代未聞の告発に対し、国際社会は衝撃に包まれています』


 そこでまた画面が変わる。画面が3分割され、左上に宇宙倫理学者、右上に元宇宙軍高官、下部に一般市民の姿が映し出された。テロップには【VTR:各界の専門家と市民の声】と表示が出ていた。

 

 宇宙倫理学者として紹介された中年の男性が、疲弊した表情で話し始める。しかし彼の眼鏡の奥では、鋭い目が光っていた。


『これは宇宙軍の存在意義を根底から揺るがす事態です。もしAIが公開した情報が真実ならば、宇宙軍はこれまで掲げてきた『宇宙の平和と秩序』という大義を、自ら踏みにじったことになります。

 一文明の軍事組織が、他文明の存亡を左右する計画を立て、それを『安全安定化』と称していたとしたら……これは宇宙規模の戦争犯罪と呼ぶべきでしょう。倫理学の観点から、徹底的な調査と責任追及が不可欠です』


 次に元宇宙軍高官として紹介された、顔に深いシワが刻まれた老婆が、厳しい表情で話し始める。


『まさか、軍のAIがこんな形で――しかし、正直なところ、驚きはない。私たちが現役だった頃から、一部でそういった『特別な能力を持つ者』を軍事転用する研究が行われているという噂はあった。

 だが、まさか、『魔女の娘』にまで手を出していたとは……これは、軍内部の倫理観が完全に麻痺していた証拠だ。軍の透明性と、その支配構造自体を問い直す時期に来ている』


 インタビューに答える、地球の青年は困惑と不安が入り混じった表情を浮かべていた。

 

『え、宇宙軍って、僕らが安心して暮らせるように守ってくれてるんじゃなかったんですか?

 僕の星は、宇宙軍が来てから経済も安定したって教えられてきたのに……なんか、すごく怖い。今まで信じてきたことが、全部嘘だったってことですか……?』

 

  辺宇宙域の女性は、強い怒りの表情で、拳を握りしめながらインタビューに答えていた。

 

『やっぱり! やっぱりあの『安定化作戦』は、ただの口実だったのね!

 私の故郷も、数年前に宇宙軍の『安定化作戦』とやらで多くの仲間を失った。あの時の痛みを、私たちは決して忘れない。宇宙軍は、これで終わりにするべきだと思う!』


 そこでVTRは終わり、スタジオに戻る。また硬質なニュースキャスターの声が響いていた。

 

『宇宙軍はこれまで、『惑星安全安定化作戦』を「惑星の平和と秩序を維持するための正当な措置」と説明してきました。

 しかし、今回のAIによる暴露は、その主張が欺瞞に満ちたものであったことを明確に示しています。

 

 現在、この情報公開を受けて、各惑星政府や国際組織は緊急会議を招集。宇宙軍に対する厳しい非難の声が、既に国際社会から上がり始めています。

 

 宇宙軍からの正式な声明は、まだ発表されていませんが、今回のスキャンダルは、宇宙軍の権威と信頼を根底から揺るがすものとなるでしょう。

 今後の国際社会の動向、そして魔女の娘とされる新入生の安否について、引き続き詳細が入り次第お伝えします』


 その時、リリーゴールドの携帯端末がけたたましい着信音を鳴らした。

 リリーゴールドが、しょぼくれた顔でイチヒを見る。イチヒが代わりに携帯端末を持ち上げてみると、画面には【不在着信:99件】と表示されていた。


「うわ……記者からの取材希望、山ほど来てるな。限界まで表示埋まってんぞ、これ。

 “被害者本人の声を聞きたい”ってとこか。よッ、有名人!」


 リリーゴールドは、イチヒの言葉にぐにゃりとうなだれた。


「うう、こんなことなら電話番号契約しなきゃ良かったよう」

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