13章-3.中心エリアで起きている事とは 2005.4.12
僕達は避難地域への中心エリアへと急いで向かう。
銃声が中心エリアの方角から絶えず鳴り響いている。今まさに戦っているのだと遠くからでも分かる。
また、そちらの方角の空を見れば、もくもくと黒い煙も上がっている。恐らく村が燃やされているのだ。遠目からでもある程度の様子は分かった。
僕達が使用した地下通路が繋がるもう一つの出口。そこも同様に倉庫内に出る造りだった。
だが、麒麟側の人間はこちら側の出口の存在には気が付いていない様で、見張りはいなかった。僕達は真っ先に先ほど銃撃にあった倉庫へと向かい、そこに溜まっていた麒麟の戦闘員達を全て処理した。
地上で遮蔽物のある所であれば、マシンガン相手でも問題ない。マシンガンを持つのはAランクの体格の良い男だったが、鬼人達の動きを捉える事は出来なかったようだ。
攻撃を仕掛ける方向が限定されてしまう地下通路でさえなければ、僕達の敵ではなかった。
その後、僕達は麒麟側の人間が潜んでいないかを警戒をしながら、避難地域の中心エリアを目指していた。
その道はまだ整備されていない細い砂利道だ。道の両側には木々が生い茂っている。
「百鬼。左手首……」
「うん……」
隣を走るグラは僕の左手首を指さす。
僕は今も痛む手首へと視線を落とした。そこには銃弾を受け、文字盤が破壊された腕時計がある。
「この時計のおかげで僕は死ななかったみたいだ」
倉庫で乱射攻撃を受けた際、僕は咄嗟に頭部を腕で守った。文字盤に残る弾痕は、その時に受けた物だ。
つまり、この時計がなければ、僕の腕は撃ち抜かれ、頭部に弾丸を受けていた可能性が高い。
「今も痛みはあるけれど、骨は折れていないから大丈夫」
「良かった」
この時計は副店長昇格への祝いで、氷織から貰った腕時計だ。僕に似合う物をと、ブルーの文字盤のデザインをヒオリが沢山悩んで選んで贈ってくれたのだと聞いた。
贈られた日、この時計を腕にはめた時、彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。その笑顔をふと思い出してしまった。
店主に言われて、副店長が身につけるに相応しい高級なものを選んだそうだ。だから、銃弾を受けても貫通しなかったのかもしれない。
「ヒオリ……」
どうか無事でいて欲しい。
僕は壊れてしまった腕時計を付けたまま、避難地域の中心エリアへ向かって走り続けた。
***
避難地域は元々襲撃されることを想定して作られていたこともあり、主要施設の周囲にバリケードが設置されていたり、各所に銃撃戦に備えた土嚢が積まれている。
特に主要施設は、立てこもって防衛することを想定しており、建物内から狙撃ができるような造りにもなっている。
だから、それなりに持ちこたえる事は出来るはずだ。居住区が燃やされようとも、人命は守れるように計画されている。
犠牲はそれほど無いと信じたい。
「ナキリ、先行く」
「分かった」
中心エリアが見えてきた所で、隣を走るグラが言う。僕が答えると、彼は直ぐに姿を消した。
「ナキリさん、マズイっす! 俺達もグラ兄に続くっす」
「うん。僕の事は良いから、先に行ける子は行って」
どうやら状況が良くないらしい。鬼人達の鋭い感覚で、戦いの気配を感じたのだろう。ノリさんの護衛以外の子は先へ向かった。
僕は狂気を纏う。この状況で隠密する必要は無い。狂気を放ってもいいと判断した。
狂気を放つ事はつまり、オーラを放つ事――周囲へ存在感を示す事と同義だ。
現地の状況によっては隠密して状況把握を行うかもしれないと考えて、狂気は纏わずにいた。だが、中心エリアへ着いたらそのまま戦闘になるのだろう。それであれば、隠れている場合ではなさそうだ。
僕は狂気を広域に広げる。彼等と薄く共鳴しながら感覚を共有していく。
そして、彼等が抱く感情から様子を読み解いていく。
「そういう事か……」
そこでようやく僕は理解した。
「避難地域内にいた鬼人達が前線で戦っているようです。彼らは迫害されていた……?」
グラ達が先に向かった理由が分かった。おそらく避難地域内で鬼人達は差別されていたのだろう。
隠れることが出来る施設内には入れて貰えなかった可能性が高い。施設の外で戦っている鬼人が沢山いる。
僕は狂気の出力を上げる。この狂気が届けば、避難地域内の鬼人達の助けにもなるはずだ。
「まさか……。そんな……。彼等は……?」
「どれだけ犠牲になったかは分かりませんが、現状懸命に戦っているのは伝わってきます。僕達はどこから向かうのがいいでしょうか?」
「ナキリ君達は、鬼人達やヒオリちゃんを優先してくれて構わないから」
「え……?」
「君達の力は君達が守りたいと思う者の為に使うべきだよ」
「分かりました」
避難地域のどこを優先で守るべきか、助けに入るべきか。きっとノリさんならば明確に分かっていて、要望もあるだろう。
ノリさんだって、避難地域に常駐している東家の人間を助けたいと思っているに違いない。それでも、優先順位は僕の好きにしていいと。
僕はグラ達の気持ちを受け取り方針を決める。
彼等は怒っている。そして、避難地域の鬼人達を助けたいと感じている。まずは避難地域の鬼人達に加勢して、彼等の安全を確保してからだろう。
それからでなければ、グラ達を動かすのは難しい。たとえ僕が指示しても、身が入らないだろう。
それに僕自身、鬼人を迫害するような住民を助けたいとあまり感じていないのだから尚更だ。
「僕達は鬼人達の応援、及び彼等の安全の確保を優先します」
***
グラ達からだいぶ遅れて、ようやく僕は中心エリアの入口に到達した。このエリアを囲むようにあったバリケードは、入口付近を広範囲で壊されている。門扉は跡形もない。
そして、バリケード近く、中心エリアの外周部に位置していた住宅は殆ど燃え尽きていた。近くには住民と思われる死体も転がっている。
死体を見るに火災による死亡ではなく、戦いによって死んだ後、火にのまれたようだと分かる。
一体どれほどの規模で攻められたのだろうか。痕跡から推測していく。また、この辺りに人の気配は無い。生き残って、隠れている住民はいなさそうだ。
状況把握のために、周囲の様子を確認しながらも、僕達は足早に進んでいく。
「ここから中心エリアに攻め入ったみたいだから、医療施設は最も遠くなる。手前の施設から順に攻めて行っているなら、まだ攻められていないかもしれない」
「はい……」
どこまで攻め込まれているのだろうか。ノリさんが言うように、手前から順番に攻め落とされているのであれば、医療施設はまだ無事かもしれない。
何にせよ、戦いの場はもっと奥、エリアの内側だ。僕達はグラ達が戦う最前線へと向かった。
***
僕達がグラ達の元にたどり着く頃には、戦いは一段落ついていた。彼等は怪我人の手当を行い安全確保のために周囲を警戒している状態だった。
僕の到着に気がついたグラが駆け寄ってくる。
「俺達が加勢したら逃げてった」
「うん」
どうやら鬼人達を攻めていた戦闘員達は、グラ達の加勢によって分が悪いと判断して撤退し、別のところを攻めに行ったようだ。
この避難地域を使用不可にする事、そして物資を取れるだけ取る事を目的としているのかもしれない。完全な制圧や皆殺しをするつもりは無さそうだと判断できる。
「俺達がここを離れたら、また攻められると思う。近くで偵察している人間もいるから」
「そっか」
そうなってくると非常に厄介だ。僕達の人数規模ではどうにも上手くいかない。怪我を負った住民達を守りながら、他のところへも戦いに行くなんてできるわけが無い。
「今隠密組に周囲の状況を探らせてる」
「分かった。ありがとう」
僕は周囲を見回す。
彼等が戦っていた場所は、土嚢が各所に積まれた住宅エリアで、見通しの悪い入り組んだ構造の場所だった。
ここは貧しい住人の居住区域だ。エリア中央部近くにある立派な仮設住宅は手に入らなかった人達の家が、無造作に広がっている場所だ。
後からここへ合流した人達や鬼人達が多くを占めているとは聞いている。
この複雑な造りが、戦闘時には役に立ったようだ。とはいえ、火をつけられてしまえば終わりである。敵側が殲滅ではなく、物資の強奪を目的としているために上手く立ち回れたのだろう。
また、遮蔽物を上手く利用して、彼等の得意な接近戦に持ち込めるからこそ、耐える事ができていたとも思う。
「少し休みが必要。皆無理してる」
「うん。そうだね。傷の手当てと立て直しをしながら少し止まろうか。グラも休んで」
「……」
「グラ?」
「分かった」
共鳴しているために、グラの気持ちは何となく分かるし、きっと僕の気持ちも伝わっている事だろう。
考えている事なんて、お互いに筒抜けだと言うのに、僕に隠れて働こうとするのだから困ってしまう。これはしっかり見張っていないとダメかもしれない。
1番の怪我人が働いていたら、それこそ周りは休みづらくなってしまう。しっかり休ませなければ。
僕達は見張りを交代しながら、立て直しのためその場所で休息をとった。




