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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
13章 いざ避難地域へ
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13章-2.侵入ルートとは 2005.4.12

 正面突撃を行う僕達は扉の前で準備をする。赤鬼(アカギ)青鬼(アオキ)は扉に耳を付けて中の様子を探っていた。

 室内にいるメンバー全員が敵の背後から奇襲可能な位置へ着くのを待っている状況である。

 

 今の所、室内の奇襲組はしっかり隠密が出来ているようで、敵に気が付かれているような様子はない。僕達も気配を消して突撃のタイミングを待つ。


百鬼(ナキリ)さん。準備できたみたいっす」

「分かった」


 倉庫内には、グラ、斗鬼(トキ)鬼神野(キジノ)鬼百合(キユリ)の他、3人の子が隠密して敵の背後を狙っている。一方で僕達正面突撃を行うメンバーは、鬼兄弟、天鬼(アマキ)の他、2人の子、そして僕だ。残りはノリさんの護衛に2人の配置となっている。

 キユリが教えてくれた倉庫内の敵の人数は38人。休憩所の様な使われ方をしているようだが、全員重火器を所持し、いつでも戦えるような状態だと言う。もし乱射されれば流れ弾に当たる可能性も高い。理想は、敵に何もさせないまま、一方的に処理を行う事だ。


 僕は正面突撃を行うメンバー全員の顔を確認した。全員準備は出来ている。


「行こう」


 僕は突撃の指示を出した。


***


 アカギが音を立てて扉を開け放つと同時に、僕達は倉庫内へと雪崩れ込む。鬼兄弟を先頭に勢いよく走りだし、階段を駆け上がった。

 まずは僕達の存在感を示す事だ。敵が集まる大空間へ、僕達は4人で躍り出る。


 予想通り。敵は皆、僕達の登場に驚き慌て、恐怖しながら武器を用意している。

 手元がおぼつかないようだ。直ぐに発砲できる者はいない。


「皆行くよ」


 十分に注意を引いたところで僕は狂気を纏う。それが攻撃の合図である。

 狂気を受け取った鬼人達は一斉に動き出す。そして、敵に発砲させる間もなく次々に処理していく。その動きは見事だ。一切の無駄がない。


 アマキと鬼兄弟がしっかりと敵の視線と注意を引き付けている。敵は僕達4人しか認知できてないだろう。

 まさにガラ空きの背後から、グラ達が華麗な動きで処理していく。首元をひと掻き。その僅かな動きだけで流れるように首を刎ね飛ばす。


 僕は全体を見渡しながら、彼等と感覚を共有して空間を把握していく。隠れている者は居ないか、死んだフリをして隙を狙う者がいないか。細かくチェックしていく。

 そして、鬼人達の状態にも注視する。皆怪我人だ。本来なら休ませるべき状態なのだ。万全の状態では無い事を念頭に置いて、僕は彼等が無理しすぎないように調整する。


 時間にして言えば5分も掛からなかっただろう。僕達は全員無傷で倉庫内にいた38人の敵を処理し終えた。

 これでまずは一安心だ。無事に避難地域へ乗り込むことが出来たと言えるだろう。


 この先、この倉庫の外はどんな状況かは分からない。一刻も早く事態を収拾しなければ。可能ならば氷織(ヒオリ)達がいる医療施設へ真っ先に向かいたい。

 しかし状況によっては、それは叶わないだろう。僕にとっては相変わらずヒオリさえ無事なら良いという身勝手な考えはある。けれどもう、僕はそんな事を言える立場じゃない。


 それに、ヒオリ以外にも守りたい人達、共に生きたい人たちが沢山できてしまった。実際、守りたい者が多ければ多いほど弱点が増えるようなものではある。

 大切な者はつまり、僕の狂気のトリガーになり得る存在なのだから尚更だ。しかし僕は、それを悪い事じゃないと感じている。

 

 むしろ悪い事ではないと思いたいからこそ、僕は強くありたいのだ。大切な者を全て守り抜いた上で、完全なる強さを示したい。

 だから今、僕は大切な人達全員を守り抜かなければならない。

 大切な人が増えた事を後悔しないためにも。

 

 僕は屋外に通じる扉に手を掛けた。

 そしてドアノブを捻る。

 ガチャリと音が鳴った。


 扉を押して隙間ができると、外部の光が細く差し込んだ。

 

 まさに丁度その時だった。

 

 ズシャリ。まるでそんな音が聞こえたかのようだった。

 体を貫く様な鋭い殺気が、僕を串刺しにする。

 それと同時に体が強ばり、どっと冷や汗が吹き出した。

 

 理解より先に体が異常事態に反応した。

 だが、僕の頭は真っ白になって何も動くことが出来ない。


「伏せろ!!!!」


 同時に響くグラの怒鳴り声。

 僕の心臓は跳ねるように脈打ちハッとする。しかしそれでは遅すぎた。


 直後には、バババババッと鼓膜が破れそうな程の発砲音が響き渡り、壁や床や天井を構成していた木材の破片がバキバキと音を立てて飛び散る。

 そして、僕は訳の分からないまま、気がつけば床に倒れ視界が塞がっていた。


「クソッ!」


 床に倒れ込んだ僕に、グラが覆い被さっている。彼は悪態を付くと直ぐに僕を引き摺って物陰へ逃げ込んだ。


「怪我は!?」


 グラは僕の両肩を力強く掴み問う。

 紫色の長い前髪の隙間から、彼の必死な表情が見えた。その余裕の無い彼の表情を見て、僕はようやく事の事態を理解していく。

 

 僕は左手首の激痛、肩や足に感じるズキズキと焼けるような痛みから、銃弾を受けたのだと理解する。

 だがそれ以外に痛みは感じない。幸い致命傷になり得る怪我は無さそうだ。

 

 未だに銃声は鳴り止まない。マシンガンか何かで外部から、絶え間なく滅茶苦茶に撃たれているようだ。

 木造のこの倉庫ごと撃ち抜いて、室内の人間を一掃するつもりなのだろう。もし、内部に味方が生き残っていてもお構い無しという事だ。麒麟側のそういった姿勢には、本当に嫌な気分にさせられる。


「大丈夫。少し掠ったくらいで……」


 ぽたり。

 僕がそう答えた所で何かが僕の腕に垂れた。生暖かいそれは、重力に従って流れたらりと落ちていく。


「え……」


 僕はそれを目で追った。

 そこには真っ赤な液体が滴っている。そして視線をそこから少し上げれば、それはグラの肩から流れ出しているのだと気がつく。


「っ!!」


 僕は言葉を失う。

 僕を庇うためにグラは銃弾を肩に受けたのだと嫌でも分かる。


「俺は平気」


 平気なわけがない。


「一旦退避して立て直そう」


 僕はグラの提案に頷いた。


 なおも銃撃は止まらない。絶えず撃ち続けられている。その弾幕の隙を狙って、僕達は地下通路へと逃げ込んだ。


***

 

 地下通路に避難した僕らは急いで応急処置を行う。皆事前に殺気を感じ取り、グラの指示通りに伏せた為、掠り傷程度の被害で済んだ。

 だから、1番の重症はグラだ。咄嗟に動けなかった僕を庇ったことで、右肩に被弾してしまった。僕は自身のあまりの情けなさに苦しくなった。


「俺達鬼人(キジン)は本能的に戦うから、殺気を感じて直ぐに動くことが出来る。それは特別な事だから」

「うん」


 グラは気にするなと僕に言いたいのだろう。

 僕はグッと気持ちを飲み込み思考を切り替える。

 過ぎたことは変わらない。これからの事に注意を向けなければ。

 

 それに、気にして落ち込んでいる時間なんて無い。早くこの場から立ち去らなければならない。

 乱射してきた敵は、ある程度撃ったら乗り込んでくるはずだ。僕達の生死を確認し、死体がなければ確実にこの地下通路へとやってくると考えられる。

 遮蔽物のないこの狭い地下通路で、マシンガンを乱射する相手と殺り合うのは厳しい。場を変えなければ。

 

「ナキリ君! こっちへ!」


 地下通路の奥からノリさんの声が響いてくる。僕達はノリさんが呼ぶ方へ、急ぎ向かった。


 ノリさんは地下通路を迷うことなく進んでいく。それはここへ来た時のルートとは明らかに異なるルートだ。一体どこへ向かっているのだろうか。

 そして、たどり着いた先は小部屋だった。本当に小さな6畳程度の部屋だ。その小さな空間に僕達は入り扉を閉めた。

 地下通路内にこんな空間があるだなんて思いもしていなかった。


 照明が付くと内部の様子が明らかになる。

 小さな流し台、丸椅子が4つと簡易な木のテーブルが設置されている。その他壁際に戸棚もある。


「ここは避難通路内の簡易シェルターみたいなものでね。敵に攻め込まれた時に逃げられるように、通路内にはいくつか設置しているんだよ」


 ノリさんはそう説明しながら、戸棚から救急箱を取り出した。


「グラ君。おいで。その傷を縫ってしまおう。本当はこれ以上動いてはダメと言いたいけれど、誰がなんと言っても戦うんでしょ?」


 グラは頷き、ノリさんの前にある椅子に座り右肩の包帯を解いた。


「麻酔は無いから痛いよ?」

「分かってる」

「うん。じゃぁ遠慮なくやるからね」


 ノリさんは手際よく消毒し、弾丸を取り除く。そして傷口を迷いなく縫っていく。その間グラは必死に痛みに耐えていた。

 声を上げることなく、ひたすら耐える彼の姿に、僕は何も言えなかった。


 麻酔もなしに縫うなんて、どれ程の激痛だろうか。想像もできない。本来なら僕が受けるべき痛みだったのにと……。やるせない気持ちと悔しさでおかしくなりそうだった。

 少し戦えるようになったからと、気持ちに緩みがあった事は否めない。僕はプレイヤーではないのだ。狂気で共鳴しなければ、プレイヤー特有の鋭い感覚はないのだから。より一層警戒すべきだったのに。

 今、こうして後悔したって何にもならないというのに。本当に僕は愚かだった。この代償は大きい……。


 痛みに耐え苦しそうな表情を浮かべる彼に、子供達が寄り添っている。膝の上で固く握られた彼の拳に、キユリがそっと手を添えた。彼女は床に膝を着くと、祈るように目を閉じて、静かにぽろぽろと涙を流していた。

 本当に見ているだけで辛くなる姿だった。だが、目をそらすことだけはしたくなかった。だから、処置が完全に終わるまで、僕は黙って見届けた。


 処置が終わったグラは、酷い汗をかき呼吸も荒々しかった。少し休ませる必要があるだろう。


「ナキリ君。この地下通路から避難地域へ向かう道はもうひとつだけある。そこから向かうのがいいと思う」


 僕はノリさんの提案に頷く。


「地下通路に麒麟の人間が刻んだ目印は、ナキリ君達が戦っている間に消しておいたから。援軍は簡単には来られないはずだ」

「ありがとうございます」

「もし間違った道を進んだり、不正解の扉を開ければ猛毒が撒かれるような罠が仕掛けられているからね。辿り着くのは難しいと思う」


 間違えたルートを選べば即死するとなれば、直ぐに辿り着くのは難しいだろう。麒麟の事だから、何人死んでも構わないと、ゴリ押しでルートを見つけてくるかもしれないが。

 それでも時間は十分稼げるはずだ。


「ナキリ。行こう。早くしないと」


 グラは言う。

 痩せ我慢なのは分かっているが、先を急ぎたい状況だ。僕は頷く。


「ノリさん、もうひとつの出口へ案内をお願いします」


 僕達はもうひとつの出口を目指して移動を開始した。

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