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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
13章 いざ避難地域へ
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13章-1.避難地域の現状とは 2005.4.12

 麒麟(キリン)の支部から撤退した僕達は、ノリさんと合流し避難地域へと向かっていた。幼い子と1人で歩けないほどの怪我を負った子達はシェルターへ送り、残りのメンバーで避難地域を助けに行くことになった。

 僕を含めて計15人。連れて行く鬼人(キジン)は全員覚醒済みだ。


「着いたら起こすから。皆寝てなさいな」


 ノリさんは後部座席に座る子供達へ優しく声を掛けた。


「皆、寝れるなら寝て、体力を回復して」


 僕も後部座席へと振り返り、子供達に声を掛ける。


百鬼(ナキリ)君も。寝ていて構わないからね」

「いえ。僕は、情報を共有しないといけない事が多いので」

「うん。そうだね。疲れているところ申し訳ないけれど、情報を共有しようね」


 車で移動する間、僕はノリさんと情報共有を行った。

 それによって、今何が起きているのかが明らかになっていく。

 

 避難地域へ麒麟の侵入を許してしまった原因は、内部の裏切りだったという。

 避難地域から出るためには、必ず東家(アズマケ)の人間が付くという決まりがあり、外部に出ている間は常に行動を共にする事になる。

 この際に裏切り者は、東家の人間を騙して麒麟へ売ったそうなのだ。


 そして、東家の人間に対して拷問したり、自白剤を使う等し、避難地域ヘの入り方を聞き出したそうだ。計画自体はずっと前から行われていたようだが、実行されたのは昨日だったらしい。

 つまり、内通者はずっと前から裏切りを計画していた事になる。


 僕はそれを聞いて、怒り狂いそうになる。自分の事しか考えない人間には、本当に虫唾が走る。

 自分さえ良ければそれで良いだなんて。これだけ助けてくれた東家の人間に対して、そんな事ができるなんて。


 本当に理解ができない。

 人間じゃないとすら思う。

 いや、むしろその醜さこそ、人間らしいと言うべきか。


「東家の人間は、全ての情報を共有してしまっているために、本部への襲撃の日程や、ナキリ君達がどの支部を狙うのかまで漏洩してしまってね……」


 故に僕達が攻めた支部に、高ランクプレイヤーが固まっていて、かつ罠を仕掛けられていたということなのだろう。


「避難地域の状況の方は……?」

「攻めてきた麒麟の人間は、銃火器を持った戦闘員達で、現状プレイヤーは確認できなかった。けれど人数が人数でね」


 銃火器を持っただけの人間ならば、プレイヤーにとっては大した驚異では無い。

 しかしながら、戦闘能力を持たない人間達からすれば全く話が変わってくる。


 だから、僕達という武力さえなければ、銃火器を持っただけの戦闘員達だけで、避難地域は簡単に制圧できてしまうのだ。


「完全に把握は出来ていないから、プレイヤーが紛れているかもしれないけれど……。もう避難地域との連絡は取れなくなってしまったから実際の状況は分からなくてね……」

 

 避難地域が襲撃されてから、既に1時間以上経過してしまっている。僕達が駆けつける頃には全てが終わってしまっているかもしれない。

 守りたいものは、もう残っていないかもしれない。


「避難地域内の戦える人間で、なんとか抵抗していた状態だけれど、今はもう全て奪われてしまったかもしれない」


 比較的新しく建てられた建物であれば、防衛拠点に十分なり得る。とはいえ、住民全員を避難させながらはきっと出来ない。

 既に多くの犠牲は出ているのは間違いないだろう。

 

「多分避難地域はもうだめだろうね。外部に場所がバレてしまっては意味が無いから。これからどうすればいいかな……」


 ノリさんの表情は暗い。あれだけ時間をかけ、懸命に築き上げてきた希望の場所が、1つの裏切りで簡単に壊されてしまったのだ。

 元店主達や東家の人達の気持ちを考えると苦しくなる。


「ナキリ君。まだ後30分程度は掛かるから。君も寝てなさいな」


 僕は頷いた。ノリさんの優しさに感謝しつつ。少しでも体力を回復するために、僕は仮眠を取った。


***


「ナキリ君。着いたよ」


 そんなノリさんの優しい声と共に、肩を軽く揺すられて僕は目を覚ました。

 自分でも驚くくらいぐっすりと眠ってしまったようだった。他人がいる所で深く寝てしまうほど、僕はそれ程までに疲れていたのか。もしくはノリさんには本能的に気を許してしまっているという事なのか。その両方かもしれないと感じた。

 

 後部座席を見ると、子供達もぐっすりと寝たままだ。大型の車ではあるが、メンバー全員を乗せているのでかなり窮屈だと思われる。

 しかし、皆仲良く肩を寄せ合ってスヤスヤと寝ていた。車が停車した事にも気が付いていないようだった。


「皆起きて。着いたよ」


 僕が声を掛けると、グラが大きな欠伸をしながら起きた。彼もまたぐっすり寝ていたのだろう。グラが寝ているところは初めて見たかもしれない。

 

 僕は車から降りると、周囲を確認する。そこは、静かな住宅街だった。前回使った地下通路とは別のルートで避難地域へ入るため、車が停められた場所は初めて訪れる場所だ。


 僕は気持ちを切り替える。

 ここでこれから僕達には何ができるだろうかと、『最善』を考える。


「申し訳ないけれど、この先の情報は何もない……」

「はい。分かっています」


 僕達は麒麟が使ったルートで避難地域に入る予定だ。麒麟の陣営の背後から攻め入る作戦である。

 実は、避難地域へ入るためのルートは複数存在しているらしい。だが恐らく麒麟側は、侵入時に使用した1つのルートしか知らないだろう。従って、麒麟は避難地域へ出入りする際には、必ずそのルートを使用するとみている。

 追加の戦力の投入時や、奪い取った物資を本部へ持ち帰る際も、きっとそのルートを使用するはずだ。だから、そこを叩く事は非常に意味があると考えている。

 

 そのルートを完全に潰して、逃げ道を塞ぎ殲滅する。これがざっくりとした方針だ。

 誰一人として取り逃がすつもりは無い。必ず一網打尽にしてやる。


「ナキリ。皆準備できた」

「うん」


 グラに言われて僕は子供達の方へと視線を向けた。彼等は既に戦う顔になっている。ついさっきまでスヤスヤ寝ていたのが嘘のようだ。


「きっと皆無事」

「そうだね」


 僕達はノリさんの案内に従って、避難地域への入り口へと向かった。


***


 入口となる、住宅にカモフラージュした倉庫には、当然ながら何人か見張りが居た。見張りの戦闘力は低く、倉庫内で待機しているだけのようたった。

 とはいえ、見張りには気をつけなければならない。僕達の到着を麒麟本部へ連絡されてしまえばこの先動きづらくなる。

 注意しながら、静かに処理した。


 その後、僕達は地下通路を進む。

 構造は前回避難地域へ行くために通った地下通路と全く同じ造りであり、迷路のようになっていた。

 しかし、そこには正しい道を示す目印が至る所に刻まれていた。麒麟が残していったものだろう。その目印は壁面に傷を残す形で付けられているため、簡単に消す事は出来なかった。

 もし簡単に消せるのであれば、麒麟側の援軍が来ないように、目印を消しながら進もうと考えたが、難しそうだ。


 僕達はグラを先頭に警戒しながらも急いで進む。

 見張りがいるかもしれない。地下通路は複雑な造りであるため、沢山の死角が存在する。いくらでも隠れる事が可能だ。


「ナキリ。この先に見張りがいる。まだ俺達には気が付いてない」


 暫く進んだところで、グラが立ち止まり言う。僕はそれに頷いた。


「俺と鬼神野(キジノ)で見張りは処理する。斗鬼(トキ)鬼百合(キユリ)は偵察」

「分かった」


 可能な限り麒麟側に僕達がここへ来ている事を悟られないようにしたい。隠密が得意な彼等なら問題ないだろう。僕達は4人を送り出した後、物陰に隠れ待機する。


「ノリさん。この先はどれくらいで避難地域へ入れますか?」

「もうすぐそこだよ。この先を曲がった所に扉があって、その先は避難地域内にある倉庫の1つに出るから」


 避難地域への出口部分の構造も、前回見た物と全く同じ造りだろう。扉の先に階段があって、避難地域内の建物の内部へと繋がっているという事だ。

 しばらくその場で静かに待機していると、キユリが一人で僕達の元へ戻って来た。


「地下通路内の敵は殲滅完了しました。まだ私たちの存在はバレてません。その扉の先の状況ですが、避難地域へ出る倉庫内が敵の拠点のようになっています。プレイヤーも複数人待機しているので、仕掛けるなら一気にいかないとダメだと思います」


 彼女はそう言って手帳を開き、僕達に見せた。そこには倉庫内の大まかな間取りと敵の位置が書かれている。

 確かに彼女が言うように、敵は1つの大きな空間に固まっているので、1人だけ倒すなど少しずつ削るという手法は無理そうだ。片づけるならば一気にやるべきだろう。

 

「分かった。その倉庫内へ隠密出来る子は先に隠密して待機。正面突撃の先頭は天鬼(アマキ)赤鬼(アカギ)青鬼(アオキ)で。他のメンバーは正面突撃する3人の背後から補助。僕は3人と一緒に的になるから」


 いかに注目を僕達に向けられるかだ。先にグラが倉庫内で隠密しているのだから、危険は殆どないだろう。

 

「ノリさんは彼等と一緒にここで待機していてください」

「僕じゃ戦力にならなくて申し訳ない」

「いえ。そもそもノリさんは情報屋じゃないですか。多少なりとも戦える方が驚きですよ」

「それを言ったらナキリ君だって。副店長がこんなにバリバリに戦えるようになるなんて、誰も予想していなかったよ」


 確かにそれもそうだ。全く戦えなかった僕が、今ではプレイヤーの様に戦えるようになっている。その方がよっぽど可笑しい事かもしれない。

 鬼人(キジン)達と共に戦うために、常に現場に出ていた結果だ。グラとの特訓で辛い記憶も多いが、こうしていざという時に、自ら戦うという選択肢がある事は良かった事だと思える。


 ノリさんの護衛に2人付け、僕達は倉庫へ繋がる扉へと向かった。

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